殿下に裏切られたことを感謝しています。だから妹と一緒に幸せになってください。なれるのであれば。

田太 優

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第1話

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「リリエル、婚約が決まった。相手はモルトルーズ殿下だ」
「私が…モルトルーズ殿下の婚約者に選ばれたのですか!?」
「そうだ。光栄なことだ。くれぐれも失礼のないようにな」
「はい」

お父様から告げられた婚約。
可能性があるとは言われていたけど、本当に選ばれるとは思ってもみなかった。
私はフォンテイン公爵家の令嬢なのだからモルトルーズ殿下の婚約者に選ばれてもおかしくはない家格。

でも…モルトルーズ殿下は王子という立派な身分だけど、中身はまだまだお子様みたいなもの。
常識もなければ他人を思いやる心も持ち合わせておらず、勝手な思い込みや言いがかりで迷惑をかけられた人も多い。
せめて反省したり改善の兆しがあればいいけど……それもない。
婚約者になったところで苦労するだけだろう。

「もうすぐモルトルーズ殿下の誕生日パーティーが開催される。リリエルとの婚約もその時に正式に発表される手はずだ」
「わかりました」

大々的にお披露目されてしまえば私はもうモルトルーズ殿下の婚約者として生きるしかないのだろう。
あまり幸せな未来が予想できないけど、私のわがままで婚約に異を唱える訳にはいかない。
王家への心証を悪くするし、そうなるとフォンテイン公爵家としても不利益にしかならない。

わがままといえば妹のラライアの得意技だ。
ラライアが私とモルトルーズ殿下の婚約を知ったら文句を言うか自分が婚約者に選ばれたかったと言い出すかもしれない。
どうせならラライアがモルトルーズ殿下の婚約者に選ばれればいいのに。

* * * * * * * * * *

私の気持ちなんて無関係に婚約の準備は進んでいく。
お披露目のためにわざわざ高価な宝石を用いたアクセサリーを買わなくてもいいと思ってしまった。
当家の御用商会であるハートレー商会だって商機だろうし、当家としては買わない訳にはいかなかったのかもしれない。
そもそもモルトルーズ殿下から私に贈ってくださってもいいのに。

これはモルトルーズ殿下から私へのメッセージなのかもしれない。
愛することも大切にする気もないから無駄な金はかけない。
…邪推だと自覚している。
でもそう考えてしまうくらい不安が大きい。

* * * * * * * * * *

不安が解消されることはなく、大きくなるばかりだった。
極めつけはモルトルーズ殿下の誕生日を祝うパーティーの場での私の扱いだった。
主役がモルトルーズ殿下なのは理解しているし、私が婚約者としてお披露目される予定であることも知っている。
それなのに私に用意された席は会場の隅のほうだったので驚いてしまった。

フォンテイン公爵家の他の家族は別の席。
私だけ特別に用意された、隔離されているような席。
どう考えても不安になってしまう。

モルトルーズ殿下は私を冷遇しているとしか考えられない。
私が何をしたというの?
これが婚約者に対する扱いなの?
疑問を抱こうがモルトルーズ殿下から答えが返ってくるはずもなく、答えの出ないまま悩むだけだった。

私は一人さみしく会場の隅からパーティーを眺める。
私の気持ちとは関係なくパーティーは進んでいく。
モルトルーズ殿下が登場しても私のほうに来ることはない。
周囲の視線が痛かったけど、この席を指定されたのだから私はこの場にいなくてはならない。

苦痛に耐え、ついにモルトルーズ殿下の婚約者のお披露目の時間がやってきた。

「みんな、今日は俺の誕生日を祝ってくれたことに感謝する。そしてこの場で重大な発表をしたい」

モルトルーズ殿下の挨拶と宣言により、会場は静まり返る。
そこになぜか妹のラライアがモルトルーズ殿下に歩み寄っていった。

「リリエル・フォンテイン!聞いているな!妹のラライアに毒を盛ったことは知っているぞ!ここにリリエルの悪事を明らかにし、ラライアの保護を約束する!」

毒って…?
私はラライアに毒なんて盛ってないし、ラライアはいつだって健康で元気すぎるくらい。
今だって調子が悪いようには見えない。
毒と言われても説得力が全くない。

でもモルトルーズ殿下の発言なのだから無視できない。
反論が許されるとも思えない。
そもそも最初から私を冤罪で吊るし上げるためにこの席が用意されたのだと推測できた。

「会場から出ていけ!出ていかないなら連れ出せ!」

すぐ近くの扉から衛兵たちが現れた。
この席なら連れ出すのも簡単だし、やはり最初から全て計画されていたのだろう。
私が何か言ったところで無駄だろうし、私の無罪を信じる人がいてもモルトルーズ殿下に気を使って私を有罪扱いするだろう。

最初からこうなることは決まっていた。
だから私は無駄に逆らったりはしない。
無様な姿を晒すよりも毅然として去りたい。

もう婚約なんてどうでも良かった。
ここまで用意周到に私を排除しようとするのだから私が何をしても無駄。

私は自分で歩けるというのに、衛兵に腕を掴まれ連行され会場の外へと連れ出された。
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