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第7話
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騎士団の取り調べと帳簿の調査も終わり、私はジェイラード様から報告を受けた。
「いくつも問題が明らかになりましたが…まずはリタニーによるアンジェ様への虐待は許されるものではありません。それに相当な額の使い込みが確認できました。継母という財産を管理する立場を悪用したのは重罪です。ですが、それよりも…」
ジェイラード様は言い辛そうだ。
「遠慮は不要です」
「気遣わせてしまい申し訳ありません。リタニーとオーレンス様を取り調べた結果、アラベリー前伯爵を毒殺したという自白が得られました」
息を呑んだ。
お父様の急死にそういった事情があったなんて…。
「黒幕はオンネル男爵です。リタニーをアラベリー前伯爵の後妻として送り込み、機を見て毒殺。そしてアラベリー伯爵家の財産を管理するという名目で横領する。……大丈夫ですか?」
「大丈夫ですから続けてください」
聴いていて気分が悪くなったけど、これはアラベリー伯爵となった私が知っておかなければならない事実。
この問題から逃げてしまったらお父様に申し訳が立たない。
ジェイラード様は何か言いたげだったけど、職務を優先したようだ。
「アンジェ様とオーレンス様の婚約はアラベリー前伯爵が望んだ痕跡すらありませんでした。全てはオンネル男爵の指示で行われたもので、リタニーがアラベリー前伯爵が話を進めていたと嘘を伝えたようです」
やはりオーレンス様は継母と共謀して私を陥れた。
…いろいろと怒りはあるけれど、婚約という大切なものまで利用して私を陥れようとしたのだから許さない。
継母もオンネル男爵も許さない。
「ここで調べられた結果は以上です。これだけでも重罪ですし、首謀者とされるオンネル男爵にも事情を訊かなくてはなりません」
「そう…ですか」
明らかになった事実は衝撃的なものばかりだったし、考えなくてはならないことが多すぎる。
「オンネル男爵領に向けて発つのは明日になります。それでアンジェ様も同行なさいますか?」
「私ですか?」
「お望みとあれば、ですが」
ジェイラード様のことだから私が直接オンネル男爵に引導を渡す機会をくれたのだと思う。
でもそれは不正を取り締まる騎士としての職務の邪魔になってしまうのではないか。
ジェイラード様は私のために十分に気遣ってくれた。
これ以上好意に甘える訳にはいかないのだ。
だって……あまりにも頼りになる姿を見せられてしまっては離れたくないと思ってしまうから。
「私は同行しません。これ以上、迷惑をかける訳にはいきませんから」
「迷惑なんてことはありません」
「ジェイラード様には十分すぎるほど良くしていただきました。継母もオーレンス様も、オンネル男爵も罪が明らかになり裁かれるのでしょう?」
「ええ、そうなります」
「もう私の役目は…終わりですよね」
言葉にしてしまうと胸が痛んだ。
本当はジェイラード様と離れたくない。
でもそれが私のわがままだということは理解できる。
私はジェイラード様の邪魔はしたくない。
ジェイラード様は返事に困っているようだ。
私はアラベリー伯爵。
ジェイラード様の身の上を詳しくは聞いていないけど、騎士ということは貴族家の三男以下だと思う。
家名すらも教えてくれないのは恨みを買いやすい職務だから少しでも実家に迷惑をかけないためだと思う。
立場が違い過ぎる。
私が本当の気持ちを伝えてしまったらジェイラード様は困るに決まっている。
立場の違いもあるけど、年齢の差だって少し気になってしまう。
いくら貴族の結婚では歳の差があっても珍しくないとはいえ、気になる人は気になるだろうし。
だから私は逃げの一手を打つ。
勝利のために、今は逃げる。
「困らせてしまって申し訳ありません。ですがお礼の手紙を書くくらいは問題ありませんよね?」
「そうですね…。小隊宛てにしていただければ問題ありません。ですが内容は検められてしまいますが…」
「構いません。読まれて困るようなものではありませんから」
「わかりました。お手紙、お待ちしております」
私はもう覚悟を決めた。
手紙を使ってジェイラード様に好意を伝える。
覚悟を決めたから手紙の内容を知られても問題ないし、外堀を先に埋めることができるかもしれない。
「今までありがとうございました。オンネル男爵の取り締まり、がんばってください」
「はい、必ず罪を明らかにし罰を与えられるようにします」
これが私とジェイラード様の別れの言葉となった。
でも一時の別れだと私は信じている。
「いくつも問題が明らかになりましたが…まずはリタニーによるアンジェ様への虐待は許されるものではありません。それに相当な額の使い込みが確認できました。継母という財産を管理する立場を悪用したのは重罪です。ですが、それよりも…」
ジェイラード様は言い辛そうだ。
「遠慮は不要です」
「気遣わせてしまい申し訳ありません。リタニーとオーレンス様を取り調べた結果、アラベリー前伯爵を毒殺したという自白が得られました」
息を呑んだ。
お父様の急死にそういった事情があったなんて…。
「黒幕はオンネル男爵です。リタニーをアラベリー前伯爵の後妻として送り込み、機を見て毒殺。そしてアラベリー伯爵家の財産を管理するという名目で横領する。……大丈夫ですか?」
「大丈夫ですから続けてください」
聴いていて気分が悪くなったけど、これはアラベリー伯爵となった私が知っておかなければならない事実。
この問題から逃げてしまったらお父様に申し訳が立たない。
ジェイラード様は何か言いたげだったけど、職務を優先したようだ。
「アンジェ様とオーレンス様の婚約はアラベリー前伯爵が望んだ痕跡すらありませんでした。全てはオンネル男爵の指示で行われたもので、リタニーがアラベリー前伯爵が話を進めていたと嘘を伝えたようです」
やはりオーレンス様は継母と共謀して私を陥れた。
…いろいろと怒りはあるけれど、婚約という大切なものまで利用して私を陥れようとしたのだから許さない。
継母もオンネル男爵も許さない。
「ここで調べられた結果は以上です。これだけでも重罪ですし、首謀者とされるオンネル男爵にも事情を訊かなくてはなりません」
「そう…ですか」
明らかになった事実は衝撃的なものばかりだったし、考えなくてはならないことが多すぎる。
「オンネル男爵領に向けて発つのは明日になります。それでアンジェ様も同行なさいますか?」
「私ですか?」
「お望みとあれば、ですが」
ジェイラード様のことだから私が直接オンネル男爵に引導を渡す機会をくれたのだと思う。
でもそれは不正を取り締まる騎士としての職務の邪魔になってしまうのではないか。
ジェイラード様は私のために十分に気遣ってくれた。
これ以上好意に甘える訳にはいかないのだ。
だって……あまりにも頼りになる姿を見せられてしまっては離れたくないと思ってしまうから。
「私は同行しません。これ以上、迷惑をかける訳にはいきませんから」
「迷惑なんてことはありません」
「ジェイラード様には十分すぎるほど良くしていただきました。継母もオーレンス様も、オンネル男爵も罪が明らかになり裁かれるのでしょう?」
「ええ、そうなります」
「もう私の役目は…終わりですよね」
言葉にしてしまうと胸が痛んだ。
本当はジェイラード様と離れたくない。
でもそれが私のわがままだということは理解できる。
私はジェイラード様の邪魔はしたくない。
ジェイラード様は返事に困っているようだ。
私はアラベリー伯爵。
ジェイラード様の身の上を詳しくは聞いていないけど、騎士ということは貴族家の三男以下だと思う。
家名すらも教えてくれないのは恨みを買いやすい職務だから少しでも実家に迷惑をかけないためだと思う。
立場が違い過ぎる。
私が本当の気持ちを伝えてしまったらジェイラード様は困るに決まっている。
立場の違いもあるけど、年齢の差だって少し気になってしまう。
いくら貴族の結婚では歳の差があっても珍しくないとはいえ、気になる人は気になるだろうし。
だから私は逃げの一手を打つ。
勝利のために、今は逃げる。
「困らせてしまって申し訳ありません。ですがお礼の手紙を書くくらいは問題ありませんよね?」
「そうですね…。小隊宛てにしていただければ問題ありません。ですが内容は検められてしまいますが…」
「構いません。読まれて困るようなものではありませんから」
「わかりました。お手紙、お待ちしております」
私はもう覚悟を決めた。
手紙を使ってジェイラード様に好意を伝える。
覚悟を決めたから手紙の内容を知られても問題ないし、外堀を先に埋めることができるかもしれない。
「今までありがとうございました。オンネル男爵の取り締まり、がんばってください」
「はい、必ず罪を明らかにし罰を与えられるようにします」
これが私とジェイラード様の別れの言葉となった。
でも一時の別れだと私は信じている。
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