継母と元婚約者が共謀して伯爵家を乗っ取ろうとしたようですが、正式に爵位を継げるのは私だけですよ?

田太 優

文字の大きさ
上 下
4 / 9

第4話

しおりを挟む
アラベリー伯爵領から王都までは馬車で三日ほどかかる。
若い娘の一人旅は危険だけど、幸いにして問題も起きずに王都までやってくることができた。

私が向かったのは王城の爵位の継承を司る部署。
受付の人は成人したばかりの私が爵位を継ぐ手続きを申し込んだことで驚いたけど、身分を証明する指輪と、アラベリー伯爵家の資料を確認して私の申し込みが受理された。
どれくらい時間がかかるのかはわからないけど、しばらく待つように言われたから待つしかないかった。

そしてしばらく待っていると、不意に声をかけられた。

「貴女がアンジェ・アラベリー様ですか?」
「はい、そうですが…」

見た目はまだ若い男性で、文官とは違い武人のような雰囲気を発していた。

「各領地の不正を取り締まる騎士団の小隊長を務めておりますジェイラードと申します。いくつか伺いたいことがありますが、よろしいでしょうか?」
「はい」
「内容が内容ですので別室で話を伺わせていただきます」
「はい」

不正ということで継母とオーレンス様のことが頭に思い浮かんだ。
そのことなのかはジェイラード様との話し合いでわかるだろう。
私は素直に指示に従った。

* * * * * * * * * *

私はジェイラード様に訊かれるがままに全て正直に答えた。
それに私の事情も話した。
継母が嫁いできたこと、お父様の急死、オーレンス様との婚約、継母から虐げられた日々、オーレンス様からの婚約破棄…。

辛い日々を思い出し、つい堪えきれず涙を流してしまったけど、そんな私にジェイラード様は労わるような優しい言葉をかけてくれた。
優しいふりをしていたオーレンス様とは違い、心から私のことを気遣ってくれたように感じられた。
ジェイラード様は騎士ということもあり、きっと立派な志を抱いているのだと思う。
でもそれに甘えるだけではいけない。
私はアラベリー伯爵を継ぐのだから、強くならなくてはならない。

「取り乱してしまってすみません」
「大変だったでしょう。でももう大丈夫です。我々が不正を明らかにし、アンジェ様に平穏な日々を取り戻すことをお約束します」
「…ありがとうございます」

ジェイラード様の言葉を信用する。
私の表情も和らいだのか、ジェイラード様も少しだけ微笑んでくれた。
でも真面目な表情に戻った。

「さて、リタニーとオーレンス様のことですが、不審な点が多くあります。これは直接アラベリー伯爵領へ調査しに行かないといけません」
「はい」
「それにアンジェ様の身の安全も確保しなくてはなりません。騎士団の小隊が同行することを許可願えますか?」
「許可します。ですが私はまだ正式にアラベリー伯爵位を継いだわけではありませんが…」
「問題ありませんよ。すぐに解決しますから」

その時だった。
ドアがノックされ、文官が入ってきた。
告げられた言葉は爵位を継ぐ手続きが完了したとのことだった。

「ほら、問題ありませんでしたよ」

お茶目な振る舞いはジェイラード様なりに私を安心させるための行動だったのだろう。
真面目な騎士として振る舞い、時にはこんな一面を見せるなんて…。

それからは細かい打ち合わせをした。
私はアラベリー伯爵として領地に戻る。
護衛と不正の調査を兼ねてジェイラード様が率いる小隊が同行する。
なんという心強い味方だろうか。

これで継母とオーレンス様の不正を明らかにし適切な罰を与える。
今までは法で縛られていたけど、法に則りアラベリー伯爵を継いだ私が法に基づき二人の企みを明らかにする。
その先に待つのも法による裁きだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

え、幼馴染みを愛している? 彼女の『あの噂』のこと、ご存じないのですか?

水上
恋愛
「おれはお前ではなく、幼馴染である彼女を愛しているんだ」 子爵令嬢である私、アマンダ・フィールディングは、婚約者であるサム・ワイスマンが連れて来た人物を見て、困惑していた。 彼が愛している幼馴染というのは、ボニー・フルスカという女性である。 しかし彼女には、『とある噂』があった。 いい噂ではなく、悪い噂である。 そのことをサムに教えてあげたけれど、彼は聞く耳を持たなかった。 彼女はやめておいた方がいいと、私はきちんと警告しましたよ。 これで責任は果たしました。 だからもし、彼女に関わったせいで身を滅ぼすことになっても、どうか私を恨まないでくださいね?

私知らないから!

mery
恋愛
いきなり子爵令嬢に殿下と婚約を解消するように詰め寄られる。 いやいや、私の権限では決められませんし、直接殿下に言って下さい。 あ、殿下のドス黒いオーラが見える…。 私、しーらないっ!!!

わたしを捨てた騎士様の末路

夜桜
恋愛
 令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。  ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。 ※連載

もう愛は冷めているのですが?

希猫 ゆうみ
恋愛
「真実の愛を見つけたから駆け落ちするよ。さよなら」 伯爵令嬢エスターは結婚式当日、婚約者のルシアンに無残にも捨てられてしまう。 3年後。 父を亡くしたエスターは令嬢ながらウィンダム伯領の領地経営を任されていた。 ある日、金髪碧眼の美形司祭マクミランがエスターを訪ねてきて言った。 「ルシアン・アトウッドの居場所を教えてください」 「え……?」 国王の命令によりエスターの元婚約者を探しているとのこと。 忘れたはずの愛しさに突き動かされ、マクミラン司祭と共にルシアンを探すエスター。 しかしルシアンとの再会で心優しいエスターの愛はついに冷め切り、完全に凍り付く。 「助けてくれエスター!僕を愛しているから探してくれたんだろう!?」 「いいえ。あなたへの愛はもう冷めています」 やがて悲しみはエスターを真実の愛へと導いていく……  ◇ ◇ ◇ 完結いたしました!ありがとうございました! 誤字報告のご協力にも心から感謝申し上げます。

両親から溺愛されている妹に婚約者を奪われました。えっと、その婚約者には隠し事があるようなのですが、大丈夫でしょうか?

水上
恋愛
「悪いけど、君との婚約は破棄する。そして私は、君の妹であるキティと新たに婚約を結ぶことにした」 「え……」  子爵令嬢であるマリア・ブリガムは、子爵令息である婚約者のハンク・ワーナーに婚約破棄を言い渡された。  しかし、私たちは政略結婚のために婚約していたので、特に問題はなかった。  昔から私のものを何でも奪う妹が、まさか婚約者まで奪うとは思っていなかったので、多少驚いたという程度のことだった。 「残念だったわね、お姉さま。婚約者を奪われて悔しいでしょうけれど、これが現実よ」  いえいえ、べつに悔しくなんてありませんよ。  むしろ、政略結婚のために嫌々婚約していたので、お礼を言いたいくらいです。  そしてその後、私には新たな縁談の話が舞い込んできた。  妹は既に婚約しているので、私から新たに婚約者を奪うこともできない。  私は家族から解放され、新たな人生を歩みだそうとしていた。  一方で、私から婚約者を奪った妹は後に、婚約者には『とある隠し事』があることを知るのだった……。

公爵令嬢の白銀の指輪

夜桜
恋愛
 公爵令嬢エリザは幸せな日々を送っていたはずだった。  婚約者の伯爵ヘイズは婚約指輪をエリザに渡した。けれど、その指輪には猛毒が塗布されていたのだ。  違和感を感じたエリザ。  彼女には貴金属の目利きスキルがあった。  直ちに猛毒のことを訴えると、伯爵は全てを失うことになった。しかし、これは始まりに過ぎなかった……。

妹を叩いた?事実ですがなにか?

基本二度寝
恋愛
王太子エリシオンにはクアンナという婚約者がいた。 冷たい瞳をした婚約者には愛らしい妹マゼンダがいる。 婚約者に向けるべき愛情をマゼンダに向けていた。 そんな愛らしいマゼンダが、物陰でひっそり泣いていた。 頬を押えて。 誰が!一体何が!? 口を閉ざしつづけたマゼンダが、打った相手をようやく口にして、エリシオンの怒りが頂点に達した。 あの女…! ※えろなし ※恋愛カテゴリーなのに恋愛させてないなと思って追加21/08/09

朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。……これは一体どういうことですか!?

四季
恋愛
朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。

処理中です...