1 / 9
第1話
しおりを挟む
「アンジェ、これでも本当に掃除したの?掃除すら満足にできないの?やり直しなさい」
「はい」
使用人のように働かされる私はアラベリー伯爵家の一人娘。
嫌がらせのように難癖をつけるのが継母のリタニー。
名前を呼ぶのも不快なくらいだし、継母らしいことといえば私を虐げるくらい。
本来なら私を守ってくれるはずのお父様は継母を迎えて間もなく急死してしまった。
最愛の母を失った私は最愛の父すら失ってしまった。
まだ成人ではない私を継母が育てるのは義務であり当然のことだけど、実態は私を使用人扱いして虐げるだけだった。
粗末な服に物置を兼ねた部屋が私の待遇。
文句を言うにも暫定的とはいえ継母が当家の最高権力者になってしまったから、アラベリー伯爵の実の娘である私の意見ですら撥ね退けられてしまう。
これも私が未成年だから。
そうでなければ平民出身で血の繋がりもない継母がアラベリー伯爵家の権力を握れるはずがない。
他の使用人たちの多くは解雇されてしまったし、継母に逆らおうとする人は排除されてしまった。
当然私に積極的に味方してくれる人はいないけど、幸いなことに積極的に敵対する人もいなかった。
私の邪魔をして仕事が遅れると自分たちも叱責されるからかもしれないけど。
使用人を解雇しすぎたと思ったのか、継母は新たに使用人を雇い入れたけど、揃いも揃って無能ばかり。
もう家の管理も領地の管理もガタガタだ。
「手が止まってるわよ」
「すみません」
考え事に気を取られて掃除が疎かになれば注意される。
私の監視を兼ねたいびりだろうけど、そんなことをするなんて暇だと思う。
実際に継母は仕事もないし伯爵家のことも領地運営のことも執事に全部丸投げのようだし、暇なのだ。
暇だから私へ嫌がらせするなんて酷い親だと思う。
私は親とは認めないけど。
これが私の日常。
* * * * * * * * * *
そんな私だけど、婚約者のオーレンス様に会う時だけは別だった。
一着しかないまともな服を着せられ、普段の雑な扱いの痕跡を消すように身なりを整えられる。
きっとオーレンス様に普段の仕打ちを悟られないようにするためだと思う。
継母も自分が悪いことをしている自覚があるから表沙汰にしないように注意しているのだろう。
オーレンス様は私の希望であり救いだった。
オーレンス様と一緒に過ごす時間だけが本当の私に戻れる時間。
使用人のように扱われる私は本当の私ではなく、アラベリー伯爵家の令嬢こそが本当の私。
そう思っていた。
「実はな、俺、リタニーのことが好きなんだ。だから婚約破棄する」
「そんな…」
普段とは違う様子のオーレンス様にどうしたのか尋ねたところ、信じられないことを言われてしまった。
オーレンス様のことは信じていたのに、よりにもよって継母のことが好きだなんて……。
「冗談…でしょ!?」
「本気なんだ」
オーレンス様は冗談を言っているような雰囲気ではなく、真剣だった。
何もかもが信じられなかった。
今までの私への態度は何だったの?
どうして継母のことを好きになってしまったの?
「もう決めたことなんだ。だからアンジェも納得してほしい」
「どうしてあの人を選んだの!?」
「誰かを好きになるのに理由は必要かい?」
「………」
理由も無く継母を好きになるはずなんてない。
まさか…オーレンス様は母親くらい年上の女性でないと好きになれないというの!?
それなら私との婚約なんて不本意でしかなかったのだろう。
オーレンス様との婚約はお父様が亡くなる前から進められていたと聞かされていた。
お父様が私の嫌がるようなことをするはずがないし…まさか、これも継母が勝手に決めたこと!?
そう考えたほうが自然だ。
タイミングも自然。
最初から仕組まれていたことだった!?
「そういうことだから。しつこく付き纏うなよ?」
愕然とする私にオーレンス様は冷酷に告げた。
もう私は愛する婚約者ではなく継母との恋路の邪魔者になってしまったのだろう。
そもそも愛されてなんかいなかった。
愛しているならこんなにも無残に私を捨てるはずがないし、継母を好きになんてなるはずがないのだから。
去り行くオーレンス様の後姿を見送り、私は考えを巡らす。
私にとって救いだったオーレンス様はもう過去のもの。
継母は私を虐げるだけ。
その継母をオーレンス様は好きになった。
……まさか。
「二人は最初から私を傷つけるために共謀していた?」
「はい」
使用人のように働かされる私はアラベリー伯爵家の一人娘。
嫌がらせのように難癖をつけるのが継母のリタニー。
名前を呼ぶのも不快なくらいだし、継母らしいことといえば私を虐げるくらい。
本来なら私を守ってくれるはずのお父様は継母を迎えて間もなく急死してしまった。
最愛の母を失った私は最愛の父すら失ってしまった。
まだ成人ではない私を継母が育てるのは義務であり当然のことだけど、実態は私を使用人扱いして虐げるだけだった。
粗末な服に物置を兼ねた部屋が私の待遇。
文句を言うにも暫定的とはいえ継母が当家の最高権力者になってしまったから、アラベリー伯爵の実の娘である私の意見ですら撥ね退けられてしまう。
これも私が未成年だから。
そうでなければ平民出身で血の繋がりもない継母がアラベリー伯爵家の権力を握れるはずがない。
他の使用人たちの多くは解雇されてしまったし、継母に逆らおうとする人は排除されてしまった。
当然私に積極的に味方してくれる人はいないけど、幸いなことに積極的に敵対する人もいなかった。
私の邪魔をして仕事が遅れると自分たちも叱責されるからかもしれないけど。
使用人を解雇しすぎたと思ったのか、継母は新たに使用人を雇い入れたけど、揃いも揃って無能ばかり。
もう家の管理も領地の管理もガタガタだ。
「手が止まってるわよ」
「すみません」
考え事に気を取られて掃除が疎かになれば注意される。
私の監視を兼ねたいびりだろうけど、そんなことをするなんて暇だと思う。
実際に継母は仕事もないし伯爵家のことも領地運営のことも執事に全部丸投げのようだし、暇なのだ。
暇だから私へ嫌がらせするなんて酷い親だと思う。
私は親とは認めないけど。
これが私の日常。
* * * * * * * * * *
そんな私だけど、婚約者のオーレンス様に会う時だけは別だった。
一着しかないまともな服を着せられ、普段の雑な扱いの痕跡を消すように身なりを整えられる。
きっとオーレンス様に普段の仕打ちを悟られないようにするためだと思う。
継母も自分が悪いことをしている自覚があるから表沙汰にしないように注意しているのだろう。
オーレンス様は私の希望であり救いだった。
オーレンス様と一緒に過ごす時間だけが本当の私に戻れる時間。
使用人のように扱われる私は本当の私ではなく、アラベリー伯爵家の令嬢こそが本当の私。
そう思っていた。
「実はな、俺、リタニーのことが好きなんだ。だから婚約破棄する」
「そんな…」
普段とは違う様子のオーレンス様にどうしたのか尋ねたところ、信じられないことを言われてしまった。
オーレンス様のことは信じていたのに、よりにもよって継母のことが好きだなんて……。
「冗談…でしょ!?」
「本気なんだ」
オーレンス様は冗談を言っているような雰囲気ではなく、真剣だった。
何もかもが信じられなかった。
今までの私への態度は何だったの?
どうして継母のことを好きになってしまったの?
「もう決めたことなんだ。だからアンジェも納得してほしい」
「どうしてあの人を選んだの!?」
「誰かを好きになるのに理由は必要かい?」
「………」
理由も無く継母を好きになるはずなんてない。
まさか…オーレンス様は母親くらい年上の女性でないと好きになれないというの!?
それなら私との婚約なんて不本意でしかなかったのだろう。
オーレンス様との婚約はお父様が亡くなる前から進められていたと聞かされていた。
お父様が私の嫌がるようなことをするはずがないし…まさか、これも継母が勝手に決めたこと!?
そう考えたほうが自然だ。
タイミングも自然。
最初から仕組まれていたことだった!?
「そういうことだから。しつこく付き纏うなよ?」
愕然とする私にオーレンス様は冷酷に告げた。
もう私は愛する婚約者ではなく継母との恋路の邪魔者になってしまったのだろう。
そもそも愛されてなんかいなかった。
愛しているならこんなにも無残に私を捨てるはずがないし、継母を好きになんてなるはずがないのだから。
去り行くオーレンス様の後姿を見送り、私は考えを巡らす。
私にとって救いだったオーレンス様はもう過去のもの。
継母は私を虐げるだけ。
その継母をオーレンス様は好きになった。
……まさか。
「二人は最初から私を傷つけるために共謀していた?」
201
お気に入りに追加
662
あなたにおすすめの小説

罠に嵌められたのは一体誰?
チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。
誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。
そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。
しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

あなたの妻にはなりません
風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。
彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。
幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。
彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。
悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。
彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。
あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。
悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。
「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」

公爵令嬢の白銀の指輪
夜桜
恋愛
公爵令嬢エリザは幸せな日々を送っていたはずだった。
婚約者の伯爵ヘイズは婚約指輪をエリザに渡した。けれど、その指輪には猛毒が塗布されていたのだ。
違和感を感じたエリザ。
彼女には貴金属の目利きスキルがあった。
直ちに猛毒のことを訴えると、伯爵は全てを失うことになった。しかし、これは始まりに過ぎなかった……。

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

私知らないから!
mery
恋愛
いきなり子爵令嬢に殿下と婚約を解消するように詰め寄られる。
いやいや、私の権限では決められませんし、直接殿下に言って下さい。
あ、殿下のドス黒いオーラが見える…。
私、しーらないっ!!!

本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。
四季
恋愛
本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

侯爵令嬢は限界です
まる
恋愛
「グラツィア・レピエトラ侯爵令嬢この場をもって婚約を破棄する!!」
何言ってんだこの馬鹿。
いけない。心の中とはいえ、常に淑女たるに相応しく物事を考え…
「貴女の様な傲慢な女は私に相応しくない!」
はい無理でーす!
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
サラッと読み流して楽しんで頂けたなら幸いです。
※物語の背景はふんわりです。
読んで下さった方、しおり、お気に入り登録本当にありがとうございました!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる