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第1話
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「アンジェ、これでも本当に掃除したの?掃除すら満足にできないの?やり直しなさい」
「はい」
使用人のように働かされる私はアラベリー伯爵家の一人娘。
嫌がらせのように難癖をつけるのが継母のリタニー。
名前を呼ぶのも不快なくらいだし、継母らしいことといえば私を虐げるくらい。
本来なら私を守ってくれるはずのお父様は継母を迎えて間もなく急死してしまった。
最愛の母を失った私は最愛の父すら失ってしまった。
まだ成人ではない私を継母が育てるのは義務であり当然のことだけど、実態は私を使用人扱いして虐げるだけだった。
粗末な服に物置を兼ねた部屋が私の待遇。
文句を言うにも暫定的とはいえ継母が当家の最高権力者になってしまったから、アラベリー伯爵の実の娘である私の意見ですら撥ね退けられてしまう。
これも私が未成年だから。
そうでなければ平民出身で血の繋がりもない継母がアラベリー伯爵家の権力を握れるはずがない。
他の使用人たちの多くは解雇されてしまったし、継母に逆らおうとする人は排除されてしまった。
当然私に積極的に味方してくれる人はいないけど、幸いなことに積極的に敵対する人もいなかった。
私の邪魔をして仕事が遅れると自分たちも叱責されるからかもしれないけど。
使用人を解雇しすぎたと思ったのか、継母は新たに使用人を雇い入れたけど、揃いも揃って無能ばかり。
もう家の管理も領地の管理もガタガタだ。
「手が止まってるわよ」
「すみません」
考え事に気を取られて掃除が疎かになれば注意される。
私の監視を兼ねたいびりだろうけど、そんなことをするなんて暇だと思う。
実際に継母は仕事もないし伯爵家のことも領地運営のことも執事に全部丸投げのようだし、暇なのだ。
暇だから私へ嫌がらせするなんて酷い親だと思う。
私は親とは認めないけど。
これが私の日常。
* * * * * * * * * *
そんな私だけど、婚約者のオーレンス様に会う時だけは別だった。
一着しかないまともな服を着せられ、普段の雑な扱いの痕跡を消すように身なりを整えられる。
きっとオーレンス様に普段の仕打ちを悟られないようにするためだと思う。
継母も自分が悪いことをしている自覚があるから表沙汰にしないように注意しているのだろう。
オーレンス様は私の希望であり救いだった。
オーレンス様と一緒に過ごす時間だけが本当の私に戻れる時間。
使用人のように扱われる私は本当の私ではなく、アラベリー伯爵家の令嬢こそが本当の私。
そう思っていた。
「実はな、俺、リタニーのことが好きなんだ。だから婚約破棄する」
「そんな…」
普段とは違う様子のオーレンス様にどうしたのか尋ねたところ、信じられないことを言われてしまった。
オーレンス様のことは信じていたのに、よりにもよって継母のことが好きだなんて……。
「冗談…でしょ!?」
「本気なんだ」
オーレンス様は冗談を言っているような雰囲気ではなく、真剣だった。
何もかもが信じられなかった。
今までの私への態度は何だったの?
どうして継母のことを好きになってしまったの?
「もう決めたことなんだ。だからアンジェも納得してほしい」
「どうしてあの人を選んだの!?」
「誰かを好きになるのに理由は必要かい?」
「………」
理由も無く継母を好きになるはずなんてない。
まさか…オーレンス様は母親くらい年上の女性でないと好きになれないというの!?
それなら私との婚約なんて不本意でしかなかったのだろう。
オーレンス様との婚約はお父様が亡くなる前から進められていたと聞かされていた。
お父様が私の嫌がるようなことをするはずがないし…まさか、これも継母が勝手に決めたこと!?
そう考えたほうが自然だ。
タイミングも自然。
最初から仕組まれていたことだった!?
「そういうことだから。しつこく付き纏うなよ?」
愕然とする私にオーレンス様は冷酷に告げた。
もう私は愛する婚約者ではなく継母との恋路の邪魔者になってしまったのだろう。
そもそも愛されてなんかいなかった。
愛しているならこんなにも無残に私を捨てるはずがないし、継母を好きになんてなるはずがないのだから。
去り行くオーレンス様の後姿を見送り、私は考えを巡らす。
私にとって救いだったオーレンス様はもう過去のもの。
継母は私を虐げるだけ。
その継母をオーレンス様は好きになった。
……まさか。
「二人は最初から私を傷つけるために共謀していた?」
「はい」
使用人のように働かされる私はアラベリー伯爵家の一人娘。
嫌がらせのように難癖をつけるのが継母のリタニー。
名前を呼ぶのも不快なくらいだし、継母らしいことといえば私を虐げるくらい。
本来なら私を守ってくれるはずのお父様は継母を迎えて間もなく急死してしまった。
最愛の母を失った私は最愛の父すら失ってしまった。
まだ成人ではない私を継母が育てるのは義務であり当然のことだけど、実態は私を使用人扱いして虐げるだけだった。
粗末な服に物置を兼ねた部屋が私の待遇。
文句を言うにも暫定的とはいえ継母が当家の最高権力者になってしまったから、アラベリー伯爵の実の娘である私の意見ですら撥ね退けられてしまう。
これも私が未成年だから。
そうでなければ平民出身で血の繋がりもない継母がアラベリー伯爵家の権力を握れるはずがない。
他の使用人たちの多くは解雇されてしまったし、継母に逆らおうとする人は排除されてしまった。
当然私に積極的に味方してくれる人はいないけど、幸いなことに積極的に敵対する人もいなかった。
私の邪魔をして仕事が遅れると自分たちも叱責されるからかもしれないけど。
使用人を解雇しすぎたと思ったのか、継母は新たに使用人を雇い入れたけど、揃いも揃って無能ばかり。
もう家の管理も領地の管理もガタガタだ。
「手が止まってるわよ」
「すみません」
考え事に気を取られて掃除が疎かになれば注意される。
私の監視を兼ねたいびりだろうけど、そんなことをするなんて暇だと思う。
実際に継母は仕事もないし伯爵家のことも領地運営のことも執事に全部丸投げのようだし、暇なのだ。
暇だから私へ嫌がらせするなんて酷い親だと思う。
私は親とは認めないけど。
これが私の日常。
* * * * * * * * * *
そんな私だけど、婚約者のオーレンス様に会う時だけは別だった。
一着しかないまともな服を着せられ、普段の雑な扱いの痕跡を消すように身なりを整えられる。
きっとオーレンス様に普段の仕打ちを悟られないようにするためだと思う。
継母も自分が悪いことをしている自覚があるから表沙汰にしないように注意しているのだろう。
オーレンス様は私の希望であり救いだった。
オーレンス様と一緒に過ごす時間だけが本当の私に戻れる時間。
使用人のように扱われる私は本当の私ではなく、アラベリー伯爵家の令嬢こそが本当の私。
そう思っていた。
「実はな、俺、リタニーのことが好きなんだ。だから婚約破棄する」
「そんな…」
普段とは違う様子のオーレンス様にどうしたのか尋ねたところ、信じられないことを言われてしまった。
オーレンス様のことは信じていたのに、よりにもよって継母のことが好きだなんて……。
「冗談…でしょ!?」
「本気なんだ」
オーレンス様は冗談を言っているような雰囲気ではなく、真剣だった。
何もかもが信じられなかった。
今までの私への態度は何だったの?
どうして継母のことを好きになってしまったの?
「もう決めたことなんだ。だからアンジェも納得してほしい」
「どうしてあの人を選んだの!?」
「誰かを好きになるのに理由は必要かい?」
「………」
理由も無く継母を好きになるはずなんてない。
まさか…オーレンス様は母親くらい年上の女性でないと好きになれないというの!?
それなら私との婚約なんて不本意でしかなかったのだろう。
オーレンス様との婚約はお父様が亡くなる前から進められていたと聞かされていた。
お父様が私の嫌がるようなことをするはずがないし…まさか、これも継母が勝手に決めたこと!?
そう考えたほうが自然だ。
タイミングも自然。
最初から仕組まれていたことだった!?
「そういうことだから。しつこく付き纏うなよ?」
愕然とする私にオーレンス様は冷酷に告げた。
もう私は愛する婚約者ではなく継母との恋路の邪魔者になってしまったのだろう。
そもそも愛されてなんかいなかった。
愛しているならこんなにも無残に私を捨てるはずがないし、継母を好きになんてなるはずがないのだから。
去り行くオーレンス様の後姿を見送り、私は考えを巡らす。
私にとって救いだったオーレンス様はもう過去のもの。
継母は私を虐げるだけ。
その継母をオーレンス様は好きになった。
……まさか。
「二人は最初から私を傷つけるために共謀していた?」
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