上 下
5 / 11

第5話

しおりを挟む
デリック様が浮気したという噂が広まっていることは確認できたし、噂のことを調べようとして無駄だったことまで確認できた。
友人ネットワークを通じて調べた結果だけど、この程度の情報なら難しくはなかった。
次はこの状態をデリック様がどう考えているのか確認しないとね。

「デリック様、浮気しているという噂を耳にしましたけど本当ですか?」
「そんなはずないだろう?ミレイの邪推というものだ。噂ごときに踊らされるなんてみっともないぞ」

自分のことは棚に上げるのね。
私の噂はどうでもよくて、自分の噂は調べようとしたことを私は知っている。
デリック様は私が知っているなんて思わないだろう。
どう言い訳するのか楽しくなってきたわ。

「そうですか。デリック様も大変ですね」
「ああそうだ。大変な俺を笑いにでも来たのか?」
「いえ、そのようなことはありません。ただ噂の内容が事実なのか確認したかっただけです」
「…浮気を疑ったというのか?そんなに俺の信用がないのか?」

ええ、もちろん。
だってデリック様は私に嘘をついたから。
でもまだ茶番を続けたいので適当な言い分で会話を続ける。

「事実を確認しただけですよ。本人の口からはっきり否定してほしいと思うのは当然だと思いますけど?」
「……まあ言い分には納得できる。だが俺は大変な状況なんだ。少しくらい助けてくれてもいいとは思わないのか?」

それをデリック様が言うのね。

「あら、面白い冗談ですね。以前に私の噂が広まった際、デリック様は調べたりするなと言いましたよね?」
「………ああ、言ったな」
「それならどうして今回は動いたのですか?どうして私のときには余計なことをするなと言い、ご自身のときには調べて回ったのですか?」
「ええい、うるさいな。俺は色々大変なんだ。邪魔しないでくれ」

都合の悪い追及をごまかすために無理矢理話を打ち切ろうとする。
これがデリック様の本性なのだろう。
自分の非を認めることなんてできず、適切な言い訳ができる訳でもなく、感情的に振る舞って話を終わらせようとする。
もう信用もないけど人としての評価も最低になったわ。

「邪魔だと思うのなら、いっそのこと婚約破棄してください」
「…………ミレイ、お前は本気で婚約破棄を望んでいるのか?」
「どうでしょうね?でもデリック様が浮気しているという噂ですし、信用していいのか疑問を抱いていることは事実です」
「だから俺は浮気なんてしていない」
「それなら噂は嘘だと言うのですか?嘘ならどうしてこんなにも広まっているのでしょうね?事実だからではありませんか?」
「そんなに俺のことが信用できないのか!」
「はい」
「……………」

本当のことを言って黙ってしまうなんて、デリック様は問題から逃げるのね。
デリック様のほうから私に攻撃してきたというのに、自分がやり返されるなんて思わなかったの?
婚約破棄も視野に入れて覚悟してのことではなかったの?

「お互いに冷静になろう。婚約破棄なんて軽々しく口にするものではないんだ」
「そうですか。ではデリック様が適切に判断できることを願っています」

逃げたいなら逃げればいい。
この場は退いてあげるけど、これが終わりではないもの。
この程度のことで私は許したりはしないから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男と女の初夜

緑谷めい
恋愛
 キクナー王国との戦にあっさり敗れたコヅクーエ王国。  終戦条約の約款により、コヅクーエ王国の王女クリスティーヌは、"高圧的で粗暴"という評判のキクナー王国の国王フェリクスに嫁ぐこととなった。  しかし、クリスティーヌもまた”傲慢で我が儘”と噂される王女であった――

幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。 ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。

そんなあなたには愛想が尽きました

ララ
恋愛
愛する人は私を裏切り、別の女性を体を重ねました。 そんなあなたには愛想が尽きました。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

【完結】キズモノになった私と婚約破棄ですか?別に構いませんがあなたが大丈夫ですか?

なか
恋愛
「キズモノのお前とは婚約破棄する」 顔にできた顔の傷も治らぬうちに第二王子のアルベルト様にそう宣告される 大きな傷跡は残るだろう キズモノのとなった私はもう要らないようだ そして彼が持ち出した条件は婚約破棄しても身体を寄越せと下卑た笑いで告げるのだ そんな彼を殴りつけたのはとある人物だった このキズの謎を知ったとき アルベルト王子は永遠に後悔する事となる 永遠の後悔と 永遠の愛が生まれた日の物語

愛する人は幼馴染に奪われました

杉本凪咲
恋愛
愛する人からの突然の婚約破棄。 彼の隣では、私の幼馴染が嬉しそうに笑っていた。 絶望に染まる私だが、あることを思い出し婚約破棄を了承する。

妹ばかりを贔屓し溺愛する婚約者にウンザリなので、わたしも辺境の大公様と婚約しちゃいます

新世界のウサギさん
恋愛
わたし、リエナは今日婚約者であるローウェンとデートをする予定だった。 ところが、いつになっても彼が現れる気配は無く、待ちぼうけを喰らう羽目になる。 「私はレイナが好きなんだ!」 それなりの誠実さが売りだった彼は突如としてわたしを捨て、妹のレイナにぞっこんになっていく。 こうなったら仕方ないので、わたしも前から繋がりがあった大公様と付き合うことにします!

処理中です...