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第2話
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デリック様は友人たちと楽し気に会話していた。
近づく私に気付いた友人が揶揄うようにデリック様に話しかける。
「おい、デリック。愛しの婚約者がやってきたぞ」
「お前たちに婚約者がいないからって揶揄うなよ」
友人たちは確か婚約者がいなかったと記憶している。
デリック様とは領地が近いこともあり、入学前に婚約の話があり、学園に通い始めてから間もなく婚約した経緯がある。
早くも婚約者がいるデリック様は、そのことだけで揶揄われてしまうのだろう。
「ご歓談中のところ失礼します。デリック様、お話があるので少々お時間をよろしいでしょうか?」
「そうか、仕方ないな」
「これが逢瀬ってやつか?」
「婚約者がいる奴はいいよな~」
「う、羨ましくなんかないんだからな!」
デリック様の友人たちをあまり悪く言いたくはないけど、あまりにも幼稚で、同年代の普通の人たちに比べても明らかに問題がある。
学園では貴族としての在り方も学ぶはずなのに、彼らは伸び伸びと育ち過ぎている。
どうせ領地は田舎だろうし、家柄に見合った品性を持っているのだろう。
気心の知れた関係は大切にしたほうがいいのは理解しているけど、あのような友人が将来役に立つのかは疑問。
でも男性は年齢に比べて子供っぽくても驚くほど成長することもあると聞いた。
彼らもまだまだこれからなのだと思うことにする。
少し離れた場に移動した。
「それで何の用なんだ?」
「これは噂を耳にしただけなのですけど、どうも私が浮気しているという噂があるようです。デリック様はご存じでしたか?」
「いや、知らないな。噂は間違いないのか?」
「直接聞いたのではないので人づてなので確かとは言えませんが……」
「なら何かの間違いだろう」
ここまで言い切られてしまうのはデリック様が噂を聞いたこともなく信じてもいないから。
私を信用しているから噂を信じないのであれば嬉しいけど、そもそも私が言ったことすら信じていないのかもしれない。
それはともかく、噂が本当だとすれば私だけではなくデリック様の名誉にも関わってくる。
「ですがもし噂が本当に存在しているなら私だけではなくデリック様にとっても不名誉なことになってしまいます。もう少し調べてみませんか?」
「調べても噂なんて無かったらどうする?そんなことを気にして調べた間抜けだと俺が笑い者にされるだけだろう?」
「そこまで言われるとは思いませんけど…」
「とにかく余計なことはするな。動くならもっと明らかな証拠を得てからだ。いいな?」
「……わかりました」
噂の存在自体が本当なのかを早めに知っておいたほうがいいと思うし、証拠を得るためには動かなくてはならない。
矛盾、というかデリック様は私に何もしてほしくないのだろう。
余計なことをするな、と言った気持ちも理解できるけど、私はデリック様の名誉のことも心配している。
婚約者だからといって気持ちを理解してもらえるものではないし、気持ちなんて伝わらないものなのね。
私だけが心配していて空回りしているようで……。
そんな私にデリック様は余計なことをするなと言う。
胸の内に悲しい気持ちが広がる。
余計なことをしようとした私が悪いのだろう。
でもそれだってデリック様の意思を確認しないことにはどうにもならなかったし、婚約者のことを心配した私は悪くない。
余計なことが悪かったのだろう。
余計なこと……。
調べようとすることが余計だと言われても違和感がある。
まるで調べてほしくないような………。
それなら私はデリック様の真意を測るべく、一つだけ問いかけてみる。
内容は今思いついたでっち上げのものだけど。
「実はもう一つ噂があって、デリック様が浮気しているというものです。噂について調べなくてもよろしいのですか?」
「……俺が浮気しているはずがない。そんな噂は無視しろ。とにかく余計なことはするなよ?」
「わかりました」
自分のことであっても調べることについては否定的。
気にしないというよりも私が何かすること自体を望まないような印象を受けた。
誰が噂を流しているか調べるだけなら問題ないと思うけど、調べること自体を嫌がるのは納得できない。
デリック様が何か隠しているように思える。
私は私のために噂の出どころを調べてみる。
疑問を抱いたままデリック様と何事もなかったかのように振る舞える自信はないもの。
これはデリック様のためでもあるのだから。
近づく私に気付いた友人が揶揄うようにデリック様に話しかける。
「おい、デリック。愛しの婚約者がやってきたぞ」
「お前たちに婚約者がいないからって揶揄うなよ」
友人たちは確か婚約者がいなかったと記憶している。
デリック様とは領地が近いこともあり、入学前に婚約の話があり、学園に通い始めてから間もなく婚約した経緯がある。
早くも婚約者がいるデリック様は、そのことだけで揶揄われてしまうのだろう。
「ご歓談中のところ失礼します。デリック様、お話があるので少々お時間をよろしいでしょうか?」
「そうか、仕方ないな」
「これが逢瀬ってやつか?」
「婚約者がいる奴はいいよな~」
「う、羨ましくなんかないんだからな!」
デリック様の友人たちをあまり悪く言いたくはないけど、あまりにも幼稚で、同年代の普通の人たちに比べても明らかに問題がある。
学園では貴族としての在り方も学ぶはずなのに、彼らは伸び伸びと育ち過ぎている。
どうせ領地は田舎だろうし、家柄に見合った品性を持っているのだろう。
気心の知れた関係は大切にしたほうがいいのは理解しているけど、あのような友人が将来役に立つのかは疑問。
でも男性は年齢に比べて子供っぽくても驚くほど成長することもあると聞いた。
彼らもまだまだこれからなのだと思うことにする。
少し離れた場に移動した。
「それで何の用なんだ?」
「これは噂を耳にしただけなのですけど、どうも私が浮気しているという噂があるようです。デリック様はご存じでしたか?」
「いや、知らないな。噂は間違いないのか?」
「直接聞いたのではないので人づてなので確かとは言えませんが……」
「なら何かの間違いだろう」
ここまで言い切られてしまうのはデリック様が噂を聞いたこともなく信じてもいないから。
私を信用しているから噂を信じないのであれば嬉しいけど、そもそも私が言ったことすら信じていないのかもしれない。
それはともかく、噂が本当だとすれば私だけではなくデリック様の名誉にも関わってくる。
「ですがもし噂が本当に存在しているなら私だけではなくデリック様にとっても不名誉なことになってしまいます。もう少し調べてみませんか?」
「調べても噂なんて無かったらどうする?そんなことを気にして調べた間抜けだと俺が笑い者にされるだけだろう?」
「そこまで言われるとは思いませんけど…」
「とにかく余計なことはするな。動くならもっと明らかな証拠を得てからだ。いいな?」
「……わかりました」
噂の存在自体が本当なのかを早めに知っておいたほうがいいと思うし、証拠を得るためには動かなくてはならない。
矛盾、というかデリック様は私に何もしてほしくないのだろう。
余計なことをするな、と言った気持ちも理解できるけど、私はデリック様の名誉のことも心配している。
婚約者だからといって気持ちを理解してもらえるものではないし、気持ちなんて伝わらないものなのね。
私だけが心配していて空回りしているようで……。
そんな私にデリック様は余計なことをするなと言う。
胸の内に悲しい気持ちが広がる。
余計なことをしようとした私が悪いのだろう。
でもそれだってデリック様の意思を確認しないことにはどうにもならなかったし、婚約者のことを心配した私は悪くない。
余計なことが悪かったのだろう。
余計なこと……。
調べようとすることが余計だと言われても違和感がある。
まるで調べてほしくないような………。
それなら私はデリック様の真意を測るべく、一つだけ問いかけてみる。
内容は今思いついたでっち上げのものだけど。
「実はもう一つ噂があって、デリック様が浮気しているというものです。噂について調べなくてもよろしいのですか?」
「……俺が浮気しているはずがない。そんな噂は無視しろ。とにかく余計なことはするなよ?」
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デリック様が何か隠しているように思える。
私は私のために噂の出どころを調べてみる。
疑問を抱いたままデリック様と何事もなかったかのように振る舞える自信はないもの。
これはデリック様のためでもあるのだから。
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