妹の事が好きだと冗談を言った王太子殿下。妹は王太子殿下が欲しいと言っていたし、本当に冗談なの?

田太 優

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第2話

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ミハイ殿下から婚約破棄されたことを、お父様に報告しないといけない。
帰宅した私はお父様の都合を伺い、幸いにもお父様の時間が取れたので、お父様の執務室へ向かった。

「失礼します」
「重要な要件だと聞いた。どうしたんだ」

私を出迎えたお父様はベルネスク公爵としての威厳に満ち溢れている。
ミハイ殿下ならこういった風格は身につかないだろう。
私もお父様に見習い毅然と振る舞う。

「ミハイ殿下から婚約破棄されました。それと、ミハイ殿下はウルーナのことが好きだと言っていました。ミハイ殿下は冗談だとも言っていました」
「……そうか」

お父様は私の言葉を疑いもせず受け入れてくれた。
予期せぬ事だと思うけど動揺した様子もない。
やはりお父様は頼れるし、動じない姿には憧れてしまう。

「冗談という言葉も本当なのか疑わしいな。だが婚約破棄を告げられたのは事実だ。事が事だけに国王陛下に報告するしかあるまい。イリアナ、同行してもらうぞ」
「はい」

お父様は執事に国王陛下との面会の約束を取り付けるように指示を出した。
私とは国王陛下との面会で想定される問題について話し合い、ベルネスク公爵家としての意思を擦り合わせた。

そこにはウルーナには一切悟られないようにするというものも含まれている。
ウルーナが関わると話がこじれそうだから当然だ。

* * * * * * * * * *

当日中に国王陛下との面会が叶ったのは、ミハイ殿下から婚約破棄を重大な問題だと認識していたからだろう。
事が事だけに、まだ公にする訳にもいかず、内密に話をするには都合の良さそうな部屋に案内された。

少しだけ待たされ、国王陛下とミハイ殿下が部屋に入ってきた。
威厳を感じさせる国王陛下とは対照的に、ミハイ殿下はどことなく怯えているような印象を受けた。

「この度はお時間を取っていただき誠に感謝しております」
「よい。それよりもミハイに関する重要な要件だと思ったが、間違いないか?」
「はい、間違いございません」

国王陛下の言葉からするとミハイ殿下は正しく報告していないのだと思う。
ミハイ殿下のことだから本当の事を告げたら怒られるとでも考えたのだろう。
自分にとって都合の良いことばかり伝えたから国王陛下は私からも事情を訊こうとしたのだと理解した。

「では用件を聞こう」
「はっ。恐れながらイリアナがミハイ殿下より婚約破棄を受けたとのことです。この件について、国王陛下と相談すべきだと判断しました」
「ほう?」

お父様の言葉に国王陛下の眉が動き、ミハイ殿下のほうへと視線を向けた。
ミハイ殿下は委縮しているようだけど、発言を求められていると理解したようだ。

「…婚約破棄は冗談でした。俺は冗談だと何度もイリアナに伝えましたが、イリアナは取り合ってくれませんでした」
「そんなこと冗談でも許されるか!!」

恐々とミハイ殿下は真実を告げたけど、やはりというべきか、国王陛下の怒りを買っただけだった。
国王陛下は私たちに向き直り、頭を下げた。

「ミハイが失礼なことをした。謝罪する。冗談と言おうが王族の言葉は重い。イリアナ嬢、婚約破棄はそのままでいいのか?」
「はい、撤回してもらう意思は一切ありません」
「そうか、本当に申し訳ないことをした。だが図々しいことを承知で、今一度ミハイにチャンスを与えることはできないだろうか?」

…国王陛下に頭を下げられてしまえば私は自分の意思を貫けない。
でもチャンスを与えるように言われたのだから、それは完全なやり直しではない。
与えられたチャンスをミハイ殿下がふいにすれば、今度こそ婚約破棄できるだろう。

「どうする、イリアナ」
「………ミハイ殿下にもう一度だけチャンスを与えることに同意します」
「そうか、寛大な処置に感謝する」

こうなるに決まっている。
国王陛下に逆らうことはできず、お願いというのは事実上の命令でしかないのだから。

肝心のミハイ殿下はというと、頭すら下げていない。
脅えたように様子を窺うだけだし、きっとできるだけ軽い罰で済むよう祈っているのだろう。
悲しいけどミハイ殿下がそういった人だと何度も実感する出来事があった。
だから今回も本気で悪いことをしたとは思っていないと考えて間違いない。
これならチャンスを与えたところで無駄にしかならないはず。

…だから私も考えがある。

「もしミハイ殿下がまた問題を起こすようなら、今度は厳しく対処すると約束してください」
「…約束しよう」

不遜な要求だけど、私だって国王陛下には譲歩しているのだから受け入れるしかないだろう。
ミハイ殿下が問題を起こさなければいいだけの話なのだから。
私が断れなかったように、今度は国王陛下が私の要求を受け入れる番。

「ミハイ殿下もよろしいですか?」
「……ああ」

渋々受け入れるといった反応。
反省していないようだから私の考えは、きっと上手くいくだろう。

こうして国王陛下との面会は終わった。
ミハイ殿下の婚約破棄が無かったことのようになるかもしれないけど、実態は全然違う。
もう後が無いミハイ殿下がどういった態度を見せてくれるのか楽しみだ。
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