2 / 11
第2話
しおりを挟む
ミハイ殿下から婚約破棄されたことを、お父様に報告しないといけない。
帰宅した私はお父様の都合を伺い、幸いにもお父様の時間が取れたので、お父様の執務室へ向かった。
「失礼します」
「重要な要件だと聞いた。どうしたんだ」
私を出迎えたお父様はベルネスク公爵としての威厳に満ち溢れている。
ミハイ殿下ならこういった風格は身につかないだろう。
私もお父様に見習い毅然と振る舞う。
「ミハイ殿下から婚約破棄されました。それと、ミハイ殿下はウルーナのことが好きだと言っていました。ミハイ殿下は冗談だとも言っていました」
「……そうか」
お父様は私の言葉を疑いもせず受け入れてくれた。
予期せぬ事だと思うけど動揺した様子もない。
やはりお父様は頼れるし、動じない姿には憧れてしまう。
「冗談という言葉も本当なのか疑わしいな。だが婚約破棄を告げられたのは事実だ。事が事だけに国王陛下に報告するしかあるまい。イリアナ、同行してもらうぞ」
「はい」
お父様は執事に国王陛下との面会の約束を取り付けるように指示を出した。
私とは国王陛下との面会で想定される問題について話し合い、ベルネスク公爵家としての意思を擦り合わせた。
そこにはウルーナには一切悟られないようにするというものも含まれている。
ウルーナが関わると話がこじれそうだから当然だ。
* * * * * * * * * *
当日中に国王陛下との面会が叶ったのは、ミハイ殿下から婚約破棄を重大な問題だと認識していたからだろう。
事が事だけに、まだ公にする訳にもいかず、内密に話をするには都合の良さそうな部屋に案内された。
少しだけ待たされ、国王陛下とミハイ殿下が部屋に入ってきた。
威厳を感じさせる国王陛下とは対照的に、ミハイ殿下はどことなく怯えているような印象を受けた。
「この度はお時間を取っていただき誠に感謝しております」
「よい。それよりもミハイに関する重要な要件だと思ったが、間違いないか?」
「はい、間違いございません」
国王陛下の言葉からするとミハイ殿下は正しく報告していないのだと思う。
ミハイ殿下のことだから本当の事を告げたら怒られるとでも考えたのだろう。
自分にとって都合の良いことばかり伝えたから国王陛下は私からも事情を訊こうとしたのだと理解した。
「では用件を聞こう」
「はっ。恐れながらイリアナがミハイ殿下より婚約破棄を受けたとのことです。この件について、国王陛下と相談すべきだと判断しました」
「ほう?」
お父様の言葉に国王陛下の眉が動き、ミハイ殿下のほうへと視線を向けた。
ミハイ殿下は委縮しているようだけど、発言を求められていると理解したようだ。
「…婚約破棄は冗談でした。俺は冗談だと何度もイリアナに伝えましたが、イリアナは取り合ってくれませんでした」
「そんなこと冗談でも許されるか!!」
恐々とミハイ殿下は真実を告げたけど、やはりというべきか、国王陛下の怒りを買っただけだった。
国王陛下は私たちに向き直り、頭を下げた。
「ミハイが失礼なことをした。謝罪する。冗談と言おうが王族の言葉は重い。イリアナ嬢、婚約破棄はそのままでいいのか?」
「はい、撤回してもらう意思は一切ありません」
「そうか、本当に申し訳ないことをした。だが図々しいことを承知で、今一度ミハイにチャンスを与えることはできないだろうか?」
…国王陛下に頭を下げられてしまえば私は自分の意思を貫けない。
でもチャンスを与えるように言われたのだから、それは完全なやり直しではない。
与えられたチャンスをミハイ殿下がふいにすれば、今度こそ婚約破棄できるだろう。
「どうする、イリアナ」
「………ミハイ殿下にもう一度だけチャンスを与えることに同意します」
「そうか、寛大な処置に感謝する」
こうなるに決まっている。
国王陛下に逆らうことはできず、お願いというのは事実上の命令でしかないのだから。
肝心のミハイ殿下はというと、頭すら下げていない。
脅えたように様子を窺うだけだし、きっとできるだけ軽い罰で済むよう祈っているのだろう。
悲しいけどミハイ殿下がそういった人だと何度も実感する出来事があった。
だから今回も本気で悪いことをしたとは思っていないと考えて間違いない。
これならチャンスを与えたところで無駄にしかならないはず。
…だから私も考えがある。
「もしミハイ殿下がまた問題を起こすようなら、今度は厳しく対処すると約束してください」
「…約束しよう」
不遜な要求だけど、私だって国王陛下には譲歩しているのだから受け入れるしかないだろう。
ミハイ殿下が問題を起こさなければいいだけの話なのだから。
私が断れなかったように、今度は国王陛下が私の要求を受け入れる番。
「ミハイ殿下もよろしいですか?」
「……ああ」
渋々受け入れるといった反応。
反省していないようだから私の考えは、きっと上手くいくだろう。
こうして国王陛下との面会は終わった。
ミハイ殿下の婚約破棄が無かったことのようになるかもしれないけど、実態は全然違う。
もう後が無いミハイ殿下がどういった態度を見せてくれるのか楽しみだ。
帰宅した私はお父様の都合を伺い、幸いにもお父様の時間が取れたので、お父様の執務室へ向かった。
「失礼します」
「重要な要件だと聞いた。どうしたんだ」
私を出迎えたお父様はベルネスク公爵としての威厳に満ち溢れている。
ミハイ殿下ならこういった風格は身につかないだろう。
私もお父様に見習い毅然と振る舞う。
「ミハイ殿下から婚約破棄されました。それと、ミハイ殿下はウルーナのことが好きだと言っていました。ミハイ殿下は冗談だとも言っていました」
「……そうか」
お父様は私の言葉を疑いもせず受け入れてくれた。
予期せぬ事だと思うけど動揺した様子もない。
やはりお父様は頼れるし、動じない姿には憧れてしまう。
「冗談という言葉も本当なのか疑わしいな。だが婚約破棄を告げられたのは事実だ。事が事だけに国王陛下に報告するしかあるまい。イリアナ、同行してもらうぞ」
「はい」
お父様は執事に国王陛下との面会の約束を取り付けるように指示を出した。
私とは国王陛下との面会で想定される問題について話し合い、ベルネスク公爵家としての意思を擦り合わせた。
そこにはウルーナには一切悟られないようにするというものも含まれている。
ウルーナが関わると話がこじれそうだから当然だ。
* * * * * * * * * *
当日中に国王陛下との面会が叶ったのは、ミハイ殿下から婚約破棄を重大な問題だと認識していたからだろう。
事が事だけに、まだ公にする訳にもいかず、内密に話をするには都合の良さそうな部屋に案内された。
少しだけ待たされ、国王陛下とミハイ殿下が部屋に入ってきた。
威厳を感じさせる国王陛下とは対照的に、ミハイ殿下はどことなく怯えているような印象を受けた。
「この度はお時間を取っていただき誠に感謝しております」
「よい。それよりもミハイに関する重要な要件だと思ったが、間違いないか?」
「はい、間違いございません」
国王陛下の言葉からするとミハイ殿下は正しく報告していないのだと思う。
ミハイ殿下のことだから本当の事を告げたら怒られるとでも考えたのだろう。
自分にとって都合の良いことばかり伝えたから国王陛下は私からも事情を訊こうとしたのだと理解した。
「では用件を聞こう」
「はっ。恐れながらイリアナがミハイ殿下より婚約破棄を受けたとのことです。この件について、国王陛下と相談すべきだと判断しました」
「ほう?」
お父様の言葉に国王陛下の眉が動き、ミハイ殿下のほうへと視線を向けた。
ミハイ殿下は委縮しているようだけど、発言を求められていると理解したようだ。
「…婚約破棄は冗談でした。俺は冗談だと何度もイリアナに伝えましたが、イリアナは取り合ってくれませんでした」
「そんなこと冗談でも許されるか!!」
恐々とミハイ殿下は真実を告げたけど、やはりというべきか、国王陛下の怒りを買っただけだった。
国王陛下は私たちに向き直り、頭を下げた。
「ミハイが失礼なことをした。謝罪する。冗談と言おうが王族の言葉は重い。イリアナ嬢、婚約破棄はそのままでいいのか?」
「はい、撤回してもらう意思は一切ありません」
「そうか、本当に申し訳ないことをした。だが図々しいことを承知で、今一度ミハイにチャンスを与えることはできないだろうか?」
…国王陛下に頭を下げられてしまえば私は自分の意思を貫けない。
でもチャンスを与えるように言われたのだから、それは完全なやり直しではない。
与えられたチャンスをミハイ殿下がふいにすれば、今度こそ婚約破棄できるだろう。
「どうする、イリアナ」
「………ミハイ殿下にもう一度だけチャンスを与えることに同意します」
「そうか、寛大な処置に感謝する」
こうなるに決まっている。
国王陛下に逆らうことはできず、お願いというのは事実上の命令でしかないのだから。
肝心のミハイ殿下はというと、頭すら下げていない。
脅えたように様子を窺うだけだし、きっとできるだけ軽い罰で済むよう祈っているのだろう。
悲しいけどミハイ殿下がそういった人だと何度も実感する出来事があった。
だから今回も本気で悪いことをしたとは思っていないと考えて間違いない。
これならチャンスを与えたところで無駄にしかならないはず。
…だから私も考えがある。
「もしミハイ殿下がまた問題を起こすようなら、今度は厳しく対処すると約束してください」
「…約束しよう」
不遜な要求だけど、私だって国王陛下には譲歩しているのだから受け入れるしかないだろう。
ミハイ殿下が問題を起こさなければいいだけの話なのだから。
私が断れなかったように、今度は国王陛下が私の要求を受け入れる番。
「ミハイ殿下もよろしいですか?」
「……ああ」
渋々受け入れるといった反応。
反省していないようだから私の考えは、きっと上手くいくだろう。
こうして国王陛下との面会は終わった。
ミハイ殿下の婚約破棄が無かったことのようになるかもしれないけど、実態は全然違う。
もう後が無いミハイ殿下がどういった態度を見せてくれるのか楽しみだ。
3,071
お気に入りに追加
2,331
あなたにおすすめの小説

甘やかされて育ってきた妹に、王妃なんて務まる訳がないではありませんか。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラフェリアは、実家との折り合いが悪く、王城でメイドとして働いていた。
そんな彼女は優秀な働きが認められて、第一王子と婚約することになった。
しかしその婚約は、すぐに破談となる。
ラフェリアの妹であるメレティアが、王子を懐柔したのだ。
メレティアは次期王妃となることを喜び、ラフェリアの不幸を嘲笑っていた。
ただ、ラフェリアはわかっていた。甘やかされて育ってきたわがまま妹に、王妃という責任ある役目は務まらないということを。
その兆候は、すぐに表れた。以前にも増して横暴な振る舞いをするようになったメレティアは、様々な者達から反感を買っていたのだ。

【完結】まだ結婚しないの? 私から奪うくらい好きな相手でしょう?
横居花琉
恋愛
長い間婚約しているのに結婚の話が進まないことに悩むフローラ。
婚約者のケインに相談を持ち掛けても消極的な返事だった。
しかし、ある時からケインの行動が変わったように感じられた。
ついに結婚に乗り気になったのかと期待したが、期待は裏切られた。
それも妹のリリーによってだった。

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。
これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。
しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。
それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。
事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。
妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。
故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。
木山楽斗
恋愛
伯爵家の令嬢であるアルシエラは、高慢な妹とそんな妹ばかり溺愛する両親に嫌気が差していた。
ある時、彼女は父親から縁を切ることを言い渡される。アルシエラのとある行動が気に食わなかった妹が、父親にそう進言したのだ。
不安はあったが、アルシエラはそれを受け入れた。
ある程度の年齢に達した時から、彼女は実家に見切りをつけるべきだと思っていた。丁度いい機会だったので、それを実行することにしたのだ。
伯爵家を追い出された彼女は、商人としての生活を送っていた。
偶然にも人脈に恵まれた彼女は、着々と力を付けていき、見事成功を収めたのである。
そんな彼女の元に、実家から申し出があった。
事情があって窮地に立たされた伯爵家が、支援を求めてきたのだ。
しかしながら、そんな義理がある訳がなかった。
アルシエラは、両親や妹からの申し出をきっぱりと断ったのである。
※8話からの登場人物の名前を変更しました。1話の登場人物とは別人です。(バーキントン→ラナキンス)

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。
和泉鷹央
恋愛
雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。
女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。
聖女の健康が、その犠牲となっていた。
そんな生活をして十年近く。
カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。
その理由はカトリーナを救うためだという。
だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。
他の投稿サイトでも投稿しています。

婚約者が私の妹と結婚したいと言い出したら、両親が快く応じた話
しがついつか
恋愛
「リーゼ、僕たちの婚約を解消しよう。僕はリーゼではなく、アルマを愛しているんだ」
「お姉様、ごめんなさい。でも私――私達は愛し合っているの」
父親達が友人であったため婚約を結んだリーゼ・マイヤーとダニエル・ミュラー。
ある日ダニエルに呼び出されたリーゼは、彼の口から婚約の解消と、彼女の妹のアルマと婚約を結び直すことを告げられた。
婚約者の交代は双方の両親から既に了承を得ているという。
両親も妹の味方なのだと暗い気持ちになったリーゼだったが…。

溺愛されている妹がお父様の子ではないと密告したら立場が逆転しました。ただお父様の溺愛なんて私には必要ありません。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるレフティアの日常は、父親の再婚によって大きく変わることになった。
妾だった継母やその娘である妹は、レフティアのことを疎んでおり、父親はそんな二人を贔屓していた。故にレフティアは、苦しい生活を送ることになったのである。
しかし彼女は、ある時とある事実を知ることになった。
父親が溺愛している妹が、彼と血が繋がっていなかったのである。
レフティアは、その事実を父親に密告した。すると調査が行われて、それが事実であることが判明したのである。
その結果、父親は継母と妹を排斥して、レフティアに愛情を注ぐようになった。
だが、レフティアにとってそんなものは必要なかった。継母や妹ともに自分を虐げていた父親も、彼女にとっては排除するべき対象だったのである。
妹ばかり見ている婚約者はもういりません
水谷繭
恋愛
子爵令嬢のジュスティーナは、裕福な伯爵家の令息ルドヴィクの婚約者。しかし、ルドヴィクはいつもジュスティーナではなく、彼女の妹のフェリーチェに会いに来る。
自分に対する態度とは全く違う優しい態度でフェリーチェに接するルドヴィクを見て傷つくジュスティーナだが、自分は妹のように愛らしくないし、魔法の能力も中途半端だからと諦めていた。
そんなある日、ルドヴィクが妹に婚約者の証の契約石に見立てた石を渡し、「君の方が婚約者だったらよかったのに」と言っているのを聞いてしまう。
さらに婚約解消が出来ないのは自分が嫌がっているせいだという嘘まで吐かれ、我慢の限界が来たジュスティーナは、ルドヴィクとの婚約を破棄することを決意するが……。
◆エールありがとうございます!
◇表紙画像はGirly Drop様からお借りしました💐
◆なろうにも載せ始めました
◇いいね押してくれた方ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる