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第1話
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「セレステア、婚約が決まった。相手はバリート伯爵家の嫡男、ライール殿だ」
お父様が告げた相手の名を聞いて、悪くない相手だと思った。
スペクトラ子爵家としてはバリート伯爵家との婚姻で得られるメリットは多く、よくこのような相手との婚約を成立させたものだと関心してしまった。
「立派な相手ですね。私も気に入っていただけるよう、尽力します」
「うむ、頼んだぞ」
せっかくのチャンスをふいにすることは許されない。
ライール様がどのような人なのかはわからないけど、誠心誠意尽くせば私のことを気に入って愛してくれるはず。
「それにしても会わずに決めてしまってよろしかったのでしょうか?」
「それがだな、ライール殿のほうから婚約を受け入れると言われたのだ。もちろん一度会ってから決めても問題ないことは伝えた。それでも考えを変えることはなかったということだ。セレステアのことを知っていたのかもしれないな」
「私はライール様との面識はありませんけど…噂等で知っていた可能性はありますね」
とはいえ本人に会わずに決めてしまうのはリスクが高いと思う。
勝手に期待させて会ってみたら期待外れで幻滅されてしまったら悲劇でしかない。
先ほどまでは喜んでいたはずなのに、急に不安になってしまった。
今になって婚約をなかったことにはできないだろうし、杞憂に終わることを願うしかない。
「そのことも含めて本人に訊くしかないだろう。直接訊かずとも話をしてみれば納得できる理由を知ることができるかもしれない。まずは会ってみることだな」
「そうですね。気にしてもどうにもなりませんし。それで近々会うことはできるのでしょうか?」
「ああ、セレステアとライール殿だけで会う予定はある。それで都合だが――」
私の都合は問題なく、お父様からバリート伯爵家へと伝えることになった。
私は不安と期待が入り混じりつつ、ライール様と会う日を待った。
* * * * * * * * * *
そしてやってきたライール様と初めて会う日。
私は約束の場へと向かった。
約束の場では既にライール様が待っていた。
待たせてしまったのは私の失態。
こんなことで印象を悪くしてしまうのは良くないけど、謝罪で挽回するしかない。
「遅くなってしまい申し訳ありません。お初にお目にかかります。スペクトラ子爵家のセレステアと申します」
「遅刻は別に問題ではない。気にするな。バリート伯爵家のライールだ」
偉そうだし冷たい口ぶりだし、ライール様はきっと内心怒っているのだろう。
非は私にあるのだから受け入れるしかない。
せっかくの婚約を、こんなことで台無しにする訳にはいかないのだから。
「最初に言っておく。俺はお前を愛するつもりはない。だが婚約を解消する意思もない。せいぜい問題を起こすなよ」
「えっ……」
怒りだけでそのようなことを言うとは思えなかった。
ライール様の言葉が本心からなら、最初から私を愛するつもりはなく、何らかの理由があって婚約したことになる。
ここからどうやって信用を勝ち取り愛されるようにすればいいというの?
「理解できなかったか?ならばもう一度言ってやろう。お前を愛することはない。期待するな。余計なこともするな。わかったか?」
「……………はい」
ライール様の理由はわからないけど、きっと何かを訊いたところで不興を買うだけだろう。
この場で怒らせてしまえば婚約自体なかったことになってしまうかもしれない。
それはスペクトラ子爵家のためにはならず、むしろライール様の怒りを買った分だけスペクトラ子爵家にとって不利益な結果になってしまうかもしれない。
どうすればいいのか私にはわからなかった。
まるで自分ではない誰かが返事をしたかのようだった。
「以上だ。用は済んだから帰る」
「はい」
ライール様は踵を返し、私のことを気にする様子も無く去っていった。
私は呆然と見送った。
このような始まりの婚約が上手くいくとは思えなかった。
どうすればいいのかもわからず、私は立ち尽くしてしまった。
一つだけ理解したことは、ライール様は私を愛することはないということだけ。
私が努力しようと覆すことはできなさそう。
「お父様に相談しないと……」
もう私だけの問題ではない。
これはスペクトラ子爵家の未来にも関係してくる問題。
私は急いで帰宅した。
お父様が告げた相手の名を聞いて、悪くない相手だと思った。
スペクトラ子爵家としてはバリート伯爵家との婚姻で得られるメリットは多く、よくこのような相手との婚約を成立させたものだと関心してしまった。
「立派な相手ですね。私も気に入っていただけるよう、尽力します」
「うむ、頼んだぞ」
せっかくのチャンスをふいにすることは許されない。
ライール様がどのような人なのかはわからないけど、誠心誠意尽くせば私のことを気に入って愛してくれるはず。
「それにしても会わずに決めてしまってよろしかったのでしょうか?」
「それがだな、ライール殿のほうから婚約を受け入れると言われたのだ。もちろん一度会ってから決めても問題ないことは伝えた。それでも考えを変えることはなかったということだ。セレステアのことを知っていたのかもしれないな」
「私はライール様との面識はありませんけど…噂等で知っていた可能性はありますね」
とはいえ本人に会わずに決めてしまうのはリスクが高いと思う。
勝手に期待させて会ってみたら期待外れで幻滅されてしまったら悲劇でしかない。
先ほどまでは喜んでいたはずなのに、急に不安になってしまった。
今になって婚約をなかったことにはできないだろうし、杞憂に終わることを願うしかない。
「そのことも含めて本人に訊くしかないだろう。直接訊かずとも話をしてみれば納得できる理由を知ることができるかもしれない。まずは会ってみることだな」
「そうですね。気にしてもどうにもなりませんし。それで近々会うことはできるのでしょうか?」
「ああ、セレステアとライール殿だけで会う予定はある。それで都合だが――」
私の都合は問題なく、お父様からバリート伯爵家へと伝えることになった。
私は不安と期待が入り混じりつつ、ライール様と会う日を待った。
* * * * * * * * * *
そしてやってきたライール様と初めて会う日。
私は約束の場へと向かった。
約束の場では既にライール様が待っていた。
待たせてしまったのは私の失態。
こんなことで印象を悪くしてしまうのは良くないけど、謝罪で挽回するしかない。
「遅くなってしまい申し訳ありません。お初にお目にかかります。スペクトラ子爵家のセレステアと申します」
「遅刻は別に問題ではない。気にするな。バリート伯爵家のライールだ」
偉そうだし冷たい口ぶりだし、ライール様はきっと内心怒っているのだろう。
非は私にあるのだから受け入れるしかない。
せっかくの婚約を、こんなことで台無しにする訳にはいかないのだから。
「最初に言っておく。俺はお前を愛するつもりはない。だが婚約を解消する意思もない。せいぜい問題を起こすなよ」
「えっ……」
怒りだけでそのようなことを言うとは思えなかった。
ライール様の言葉が本心からなら、最初から私を愛するつもりはなく、何らかの理由があって婚約したことになる。
ここからどうやって信用を勝ち取り愛されるようにすればいいというの?
「理解できなかったか?ならばもう一度言ってやろう。お前を愛することはない。期待するな。余計なこともするな。わかったか?」
「……………はい」
ライール様の理由はわからないけど、きっと何かを訊いたところで不興を買うだけだろう。
この場で怒らせてしまえば婚約自体なかったことになってしまうかもしれない。
それはスペクトラ子爵家のためにはならず、むしろライール様の怒りを買った分だけスペクトラ子爵家にとって不利益な結果になってしまうかもしれない。
どうすればいいのか私にはわからなかった。
まるで自分ではない誰かが返事をしたかのようだった。
「以上だ。用は済んだから帰る」
「はい」
ライール様は踵を返し、私のことを気にする様子も無く去っていった。
私は呆然と見送った。
このような始まりの婚約が上手くいくとは思えなかった。
どうすればいいのかもわからず、私は立ち尽くしてしまった。
一つだけ理解したことは、ライール様は私を愛することはないということだけ。
私が努力しようと覆すことはできなさそう。
「お父様に相談しないと……」
もう私だけの問題ではない。
これはスペクトラ子爵家の未来にも関係してくる問題。
私は急いで帰宅した。
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