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第4話

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長かった。
この日をどれほど待ち焦がれていただろうか。
やっとルコムが帰ってくる日がやってきた。
ルコムからの素っ気ない手紙を待ちわびる日々も、マーシャから見下される日々も、もう終わる。

5年も会わなかったのだからルコムはどれだけ成長しているだろうか。
この街よりも都会で暮らしていたのだから見違えるように洗練されているかもしれない。
私だって年頃だし、今日は精いっぱい着飾ったつもりだけど、ルコムが気に入ってくれるかは自信がない。

ルコムからの手紙では帰ってきたらすぐに私の家に挨拶に来ると書かれていた。
そろそろ来てもいい時間だけど…。

「まだかな…。早く来ないかな……」

窓から見える風景はいつも通り。
待ち遠しさもルコムへの愛の証明。
苦しくもあるけど、これまでの日々に比べたら些細なこと。

落ち着かなかったけど、馬車が見えて私は玄関から飛び出した。

停まった馬車からは成長し魔法使いらしいローブ姿のルコムが降りてきた。
まずは何と声をかけようか。
あれこれ考えていたはずなのに、こうして直接会ってしまったら頭からすっかり抜け落ちてしまった。

その時だった。
私の横を何かが通り過ぎていった。
マーシャだった。

「ルコム!」
「マーシャか!!会いたかったよ!」

マーシャはそのままルコムに抱きついた。

………………………どうしてマーシャがルコムに抱きついているの?
どうしてルコムもマーシャを抱いているの?
信じられない光景に私は何も言えずに立ち尽くすだけだった。

そんな私の姿をルコムが見たけど、その目からは愛情どころか冷酷さを感じた。
離れている間にルコムに何があったというの?
私は信じて待っていたのに、ルコムはどうしてしまったというの?

「残念だったわね、お義姉様。ルコムは私のものなの」
「そんな…嘘……でしょ?」

マーシャのことだから私への嫌がらせで、これくらいのことをしてもおかしくはない。
でもルコムまでそれに乗るとは思えない。
そもそも二人は会ったこともないはず。

「まだ現実を認められないのか?リナリア、俺はマーシャと結婚することにしたんだ」
「…私との約束は?」
「そんな口約束、無効だ」

私はルコムをずっと信じてきた。
結婚という言葉は出さなかったけど、立派な魔法使いになって私を迎えに来ると約束してくれた。
それからの日々も全部無駄だったの?

「……どうして?どうしてマーシャなの?」

私との約束を無かったことにしたのはマーシャとの結婚のためだったの?
どうしてマーシャとそういった関係になったの?
疑問だらけだった。
ルコムが答えてくれるかはわからなかったけど、訊かずにはいられなかった。

「辛いとき、俺を支えてくれたのがマーシャだったからだ」
「そんな………」

私は手紙を通じてルコムの支えになっていたと思っていた。
マーシャだって家にいたし、どうやってルコムの支えになったというの?

「まだ現実を認められないの?お義姉様はルコムに選ばれなかったの。ルコムが選んだのは私。ルコムと結婚するのは私なのよ」
「………………」

否定しないルコムはマーシャの言葉が嘘ではないと証明している。
いつの間にかに私が知らなかっただけで二人はそういった関係になっていたということ。
私一人空回りしていたのね………。
自分が惨めに思えた。

こんな現実認めたくない。
ルコムを信じて待っていた私の時間は何だったというの?

「マーシャ、両親に結婚の挨拶をするんだろう?さあ、行こうか」
「うん!」

二人は馬車に乗り込み、馬車は走り出した。
私は何もできず何も考えられず、立ち尽くした。

ルコムとマーシャが結婚してしまうなら私はどんな顔で二人と接すればいいの?
マーシャは私からルコムを奪って、これからは何を奪うというの?
思い返せばマーシャがやって来てから全てが上手くいかなくなったように思える。
わがままばかりで、いつしか家の主みたいに振る舞うようになり、両親も強く言えずに今に至る。
このまま家にいたら私はマーシャによって虐げられるかもしれないし、そうでなくともルコムとの幸せな姿を見せつけられ嘲笑われるだろう。

「もう嫌。こんなの、嫌よ……」

家の中の居場所を奪われ、愛していたルコムまで奪われてしまった。
もう私は家にいられない。
ルコムとマーシャがいるこの街にもいられない。

そんな私が頼れる人は一人しかいない。
イザイード伯父様。
私のことを可愛がってくれたし、マーシャが何か言っても物事を正しく判断してくれると思う。
両親は当てにならないし、イザイード伯父様を頼るしかない。

もう決めた。
マーシャが帰ってきたら邪魔をされるかもしれないし、親に相談したら引き止められるかもしれないので何も告げず、私はお金だけ持ち出して家から出た。

目指すはイザイード伯父様のところ。
乗合馬車でも結構な時間がかかるけど、他に頼れる人もいないし、この決断を後悔したくなかった。

馬車に揺られる私は不安もあったけど、もうルコムにもマーシャにも会わなくて済むと思うと安心できた。
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