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第1話

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「リナリア、聞いてくれ!すごいことがわかったんだ!」

私の家を訪ねてきたのは、幼馴染のルコムだった。
こんなに息を切らせてまで知らせたいことは何なのだろう?

「どんなことなの?」
「聞いて驚くなよ?実は俺、魔法の才能があったんだ!」
「そうなの!?すごいね!」

思わず二人で手を取り合って喜び合ってしまった。

魔法の才能に恵まれるかは運次第。
血筋も身分も関係なく、どんな人にだってチャンスはある。
もし魔法の才能が認められれば魔法使いになれるし、平民でも魔法使いになれれば下手なお貴族様よりも裕福な暮らしだってできる。
もうルコムの将来は約束されたようなもの。
運に恵まれたとはいえ、喜んで当然のことだと思った。

それなのに、ふいに喜んでいたルコムの表情が曇った。

「どうしたの?」
「……それがさ、魔法使いになるには専門の機関で学ばないといけないんだ。リナリアとも離れ離れになってしまう」

ルコムと離れ離れになってしまうのは私も悲しい。
ルコムが私のことをどう考えているのかはわからないけど、私はルコムのことが好き。
魔法の才能がなくたって将来一緒になれたらいいなと思うくらいはルコムのことが好き。

でもルコムが私のことをどう思っているのかはわからない。
この話しぶりからすると、ルコムも私のことが好きなのかもしれない。
勘違いだったら恥ずかしいけど、離れ離れになってしまうことが嫌そうだから、私の考えは間違っていないと思う。

それでもルコムは魔法の才能に恵まれたのだから、自分の将来のためにも決断すべき。

「ルコムの将来のためだよ。離れ離れになるのは悲しいけど…」
「たぶん5年くらいは会えないぞ?リナリアはそれでもいいのか?」

さみしいけど、私のわがままでルコムの才能を活かせないようなことはしたくない。
私はルコムの足手まといにはなりたくない。

「……仕方ないよ。でも、もしだよ。もしルコムが私との将来を約束してくれるなら…我慢できる」
「そうか…。それなら約束する。立派な魔法使いになってリナリアを迎えに来る」

その言葉は愛の告白でもあり結婚の約束でもある。
嬉しいけど嘘みたい。
本当に信じてしまっていいのか、改めてルコムに訊いてみる。

「いいの?信じて待ってるからね?」
「ああ、任せろ。驚くほど立派な魔法使いになってみせるさ」

平民の結婚にはお貴族様みたいな婚約なんて普通はしない。
せいぜい約束がいいところ。
だからこれは結婚の約束みたいなもの。
ルコムも私のことを結婚したいくらい好きだということ。

ルコムの気持ちを知った今、自然と笑みがこぼれてくる。
ルコムの将来のために涙で見送るよりも笑顔で見送りたい。

こうしてルコムは魔法使いになるべく遠くの都市へ行くことになった。
期間はおおよそ5年間。
離れ離れになるけど将来の約束もあるし、私たちの未来のためにも私は笑顔でルコムを送り出したい。

* * * * * * * * * *

ルコムの旅立ちの日。
馬車に乗る前のルコムと最後の会話をする。

「じゃあ行ってくる。手紙、待ってるからな」
「たくさん書くから。ルコムもがんばってね」
「ああ」

手紙のやりとりをしようと約束したのだから、距離は遠くなっても気持ちは通じ合えるはず。
会えない日々も私たちの将来のためにはきっと必要なことなのだと思う。
この程度のことで私たちの愛は揺らがない。

ルコムが馬車に乗り、馬車が動き出した。

「立派な魔法使いになってね、ルコム!待ってるから!」

聞こえたかはわからないけど、気持ちは届いたと思う。

遠ざかる馬車を見えなくなるまで見送った。
私は笑顔で送り出すことができた。
私はルコムを信じている。
約束を守ってくれると信じている。
立派な魔法使いになって私を迎えに来てくれるという約束を信じている。
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