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第6話
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どうしてこうなってしまったんだ?
俺はパルメラのことを愛していなかったはずだ。
ただ…誘われたし、現実逃避のために抱いただけだったはずだ。
抱いたことで情が移ってしまったのかもしれないが……パルメラを愛してはいなかったしドリエを愛してもいなかった。
だからといってシェランディー侯爵家と揉め事を起こす気はなかったのに婚約破棄させられていた。
「それで私との婚約はいつするの?すぐにでもいいけど?」
「まずは親の許可を取らないと」
「そうね…。でも忘れないで。もし私を捨てたら諦めずに絶対に婚約するから。何を犠牲にしてでもオレーシオと婚約するから。忘れないでね?」
「あ、ああ」
パルメラの迫力が怖い。
どうしてこんな年増と俺が婚約しないといけないんだ?
こうなったら親が婚約を認めなかったと言い訳して諦めてもらうしかないよな。
「逃げられるとは思わないでね。オレーシオが婚約すると言ったことはみんなに教えておくから。もし婚約しなかったとなるとオレーシオだけではなくタリーノ伯爵家の信用も失うから気をつけてね?」
「…はい」
「じゃあ朗報を待っているから。愛してるわ、オレーシオ」
「……」
「愛しているわ、オレーシオ」
「………俺もだよ、パルメラ」
そう言うほかなかった。
パルメラは満足した表情で先に出て行った。
俺は間違いなく人生の岐路に立たされている。
このピンチをどうにか乗り切らないと俺の人生が終わってしまう。
幸いなことにまだ事実を知る人は少ないからどうにかなるかもしれない。
失意と希望が入り混じる中、俺も個室から出たが、そこで待ち構えていたのは学友たちだった。
「婚約おめでとう!」
「オレーシオ、おめでとう!」
「さすがオレーシオ様。パルメラ様とお幸せになられて」
「二人の幸せを祈っておきます」
「あれがドリエ様を捨ててまで選んだパルメラ様なのですね。二人は絶対に幸せになれると信じています」
どうしてみんながここにいて内容まで知っているんだ?
もう口止めも無理だろうし、事実を揉み消すことも難しいだろう。
だがまだ諦めるのは早い。
「……まだ婚約はしていない」
「ええっ!?でも婚約するって言いましたよね?」
「照れないでくださいよ」
「往生際が悪いぞ。素直に認めろよ」
「まさか婚約するって口から出まかせだったの?信じられない!」
「パルメラ様に愛してると言ったこと、確かに聞きましたわ」
こいつら、俺が何を言っても無駄のようだ。
だがまだ正式に婚約はしていない。
婚約は我がタリーノ伯爵家とパルメラのアウド男爵家の合意がなければ成立しない。
タリーノ伯爵家の嫡男である俺の婚約者としてパルメラは相応しくない。
年齢も、家格もだ。
だからまだ婚約が成立しない可能性だって十分にある!
「とにかく!まだ正式には決まっていないんだ!」
つい声を張り上げてしまった。
だがその時、遠くからパルメラが見ていたことに気付いてしまった。
その形相は見る者を視線だけで殺せそうなものに思えた。
「……だから俺は正式に婚約できるよう努力する!決まるまでは騒がないでくれ!」
そう言ったことでパルメラの形相が普通に戻った。
だが俺は大切なものを失ってしまったのかもしれない。
仕方がなかったんだ。
俺はここでパルメラに殺される訳にはいかなかったんだ。
まだ正式に婚約していないし努力するとは言ったが努力の結果までは保障できない。
まだチャンスはある。
まだ俺は終わってなんかいないんだ。
俺たちの関係を祝福する学友たちが悪魔のように思えた。
俺の気持ちを考えれば祝えるはずがないのだから、こいつらはみんな悪魔みたいなものだ。
どうせシェランディー侯爵家に忖度した取り巻きのような奴らだ。
ドリエのせいで俺がどれだけ苦労したか理解しない奴らは気楽でいいよな。
この先、俺を待ち受けているのは難しい交渉を始めとした数々の困難だろう。
能天気に騒ぐ奴らのことは放っておく。
どうにか父上を説得する方法を考えないと。
俺はパルメラのことを愛していなかったはずだ。
ただ…誘われたし、現実逃避のために抱いただけだったはずだ。
抱いたことで情が移ってしまったのかもしれないが……パルメラを愛してはいなかったしドリエを愛してもいなかった。
だからといってシェランディー侯爵家と揉め事を起こす気はなかったのに婚約破棄させられていた。
「それで私との婚約はいつするの?すぐにでもいいけど?」
「まずは親の許可を取らないと」
「そうね…。でも忘れないで。もし私を捨てたら諦めずに絶対に婚約するから。何を犠牲にしてでもオレーシオと婚約するから。忘れないでね?」
「あ、ああ」
パルメラの迫力が怖い。
どうしてこんな年増と俺が婚約しないといけないんだ?
こうなったら親が婚約を認めなかったと言い訳して諦めてもらうしかないよな。
「逃げられるとは思わないでね。オレーシオが婚約すると言ったことはみんなに教えておくから。もし婚約しなかったとなるとオレーシオだけではなくタリーノ伯爵家の信用も失うから気をつけてね?」
「…はい」
「じゃあ朗報を待っているから。愛してるわ、オレーシオ」
「……」
「愛しているわ、オレーシオ」
「………俺もだよ、パルメラ」
そう言うほかなかった。
パルメラは満足した表情で先に出て行った。
俺は間違いなく人生の岐路に立たされている。
このピンチをどうにか乗り切らないと俺の人生が終わってしまう。
幸いなことにまだ事実を知る人は少ないからどうにかなるかもしれない。
失意と希望が入り混じる中、俺も個室から出たが、そこで待ち構えていたのは学友たちだった。
「婚約おめでとう!」
「オレーシオ、おめでとう!」
「さすがオレーシオ様。パルメラ様とお幸せになられて」
「二人の幸せを祈っておきます」
「あれがドリエ様を捨ててまで選んだパルメラ様なのですね。二人は絶対に幸せになれると信じています」
どうしてみんながここにいて内容まで知っているんだ?
もう口止めも無理だろうし、事実を揉み消すことも難しいだろう。
だがまだ諦めるのは早い。
「……まだ婚約はしていない」
「ええっ!?でも婚約するって言いましたよね?」
「照れないでくださいよ」
「往生際が悪いぞ。素直に認めろよ」
「まさか婚約するって口から出まかせだったの?信じられない!」
「パルメラ様に愛してると言ったこと、確かに聞きましたわ」
こいつら、俺が何を言っても無駄のようだ。
だがまだ正式に婚約はしていない。
婚約は我がタリーノ伯爵家とパルメラのアウド男爵家の合意がなければ成立しない。
タリーノ伯爵家の嫡男である俺の婚約者としてパルメラは相応しくない。
年齢も、家格もだ。
だからまだ婚約が成立しない可能性だって十分にある!
「とにかく!まだ正式には決まっていないんだ!」
つい声を張り上げてしまった。
だがその時、遠くからパルメラが見ていたことに気付いてしまった。
その形相は見る者を視線だけで殺せそうなものに思えた。
「……だから俺は正式に婚約できるよう努力する!決まるまでは騒がないでくれ!」
そう言ったことでパルメラの形相が普通に戻った。
だが俺は大切なものを失ってしまったのかもしれない。
仕方がなかったんだ。
俺はここでパルメラに殺される訳にはいかなかったんだ。
まだ正式に婚約していないし努力するとは言ったが努力の結果までは保障できない。
まだチャンスはある。
まだ俺は終わってなんかいないんだ。
俺たちの関係を祝福する学友たちが悪魔のように思えた。
俺の気持ちを考えれば祝えるはずがないのだから、こいつらはみんな悪魔みたいなものだ。
どうせシェランディー侯爵家に忖度した取り巻きのような奴らだ。
ドリエのせいで俺がどれだけ苦労したか理解しない奴らは気楽でいいよな。
この先、俺を待ち受けているのは難しい交渉を始めとした数々の困難だろう。
能天気に騒ぐ奴らのことは放っておく。
どうにか父上を説得する方法を考えないと。
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