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第3話

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その夜、両親にオレーシオ様の様子がおかしかったこと、昨日見かけた見知らぬ女性のことを打ち明けた。

「オレーシオ殿がそのようなことをするとは……。ドリエを不安にさせた時点で有罪だな」
「タリーノ伯爵夫人は社交の場でも見かけないわね。でも親子ほど年齢が離れているようには見えなかったのでしょう?母親というのは絶対に嘘よ」
「それならオレーシオ様が浮気していないか調べませんか?浮気相手かもしれない見知らぬ女性の正体も明らかになるでしょうし、そうなれば自ずと浮気の有無もわかると思います」
「そうだな、そうしよう。後はこちらで手配しておこう」
「こんなに可愛いドリエが婚約者なのにオレーシオ様は何が不満だったのかしらね?」

もうすっかりオレーシオ様が浮気している前提になっている。
私だってオレーシオ様は浮気していると思うけど、でも婚約者を信じたい気持ちも嘘ではない。
…だから調査結果を待つしかない。
浮気しているにせよ、していないにせよ、とにかく待つしかないのだ。

* * * * * * * * * *

自室に戻った私はオレーシオ様との婚約の経緯や思い出の数々を思い出していた。

オレーシオ様との婚約は派閥の意向を受けてのものであり、私にもオレーシオ様にも拒否することはできなかった。
だから私はオレーシオ様に気に入ってもらえるように努力した。
そんな私をオレーシオ様も大切にしてくれたように思えたけど、もしかしたらそれは私がそう思っていただけなのかもしれない。
他人の心の内なんてわからないものだから。
疑念を抱いた今、何もかもが疑わしく思えてしまった。

オレーシオ様はタリーノ伯爵家の嫡男だから、伯爵家を継ぐことを重荷に感じていたのかもしれない。
他人から羨まれる立場でも本人がどう思うかは別だ。
侯爵家から妻を娶ることも不自由に思っていたのかもしれない。

「オレーシオ様もいろいろと重荷があったのかもしれないわね。だから心安らげる関係を望んだのかも」

昼間の言動が腑に落ちた。
でもそれは私に至らないところがあったということでもあり、私は婚約者としてまだまだだと思った。
だから広い心が必要だと言われたのだろう。

「こんな私では駄目ね。オレーシオ様の婚約者としてもっと成長しないと」

私は私のできることをしないと。
そう考えてみたけど、こんなにも嘘みたいな言葉で自分を誤魔化すことはできず、真実が明らかになるまではオレーシオ様を無条件で信じることはできないと思った。

* * * * * * * * * *

それから半月が経ち、調査結果をお父様から教えられた。

「残念な結果だった。オレーシオは浮気していた」
「そんな……」

信じていたし努力もしたし、もっと努力しようと決意して私はがんばったというのに。
オレーシオ様が裏切っていたのなら私の努力は全てが無駄だったということ。
過去は変わらないし問題はこれからのこと。
浮気の事実は変わらないのだから、それを踏まえてどうするか。

「浮気も問題だが素行に怪しいところがあってだな」
「どういったものですか?」
「下級貴族を相手にした怪しげな集まりに参加しているようだ。詳細までは調べられなかったが、他人に知られて困るようなことをしているのだろうよ」
「そんな……まさか……」

浮気だけでもショックだったけど、もっと不審なことまでしていたなんて。
そんなことをするような人だとは思わなかったし、私はオレーシオ様のことを理解していなかったということでもある。
怪しげな集まりも浮気と関係があるのかも。

「もしかしたら謀反でも企てているのかもしれない。それを裏付ける理由の一つが浮気相手の正体だ。何しろあのアウド男爵家の娘なのだからな」
「アウド男爵家?」

貴族社会にとっては常識でもあるアウド男爵家。
まさかその男爵家の令嬢と浮気するなんて………。

「浮気は間違いないのですよね?」
「ああ」
「それなら婚約関係を見直さないといけませんね」
「その通りだ。だができればオレーシオのほうから婚約破棄するように仕向けたい。それに誰もがオレーシオの有責だと考え同情の余地のないものが望ましい」
「難しいですね」
「できれば、だ。無理ならこちらから婚約破棄すればいい」
「それなら私に考えがあるので任せていただけませんか?」
「いいだろう。だが無理だと思ったら難しく考えずに婚約破棄するんだぞ?」
「わかりました」
「それと謀反の疑いについても調べておく。時間がかかるだろうし婚約破棄とは直接関係はないが、一応頭には入れておいてくれ」
「はい」

私を裏切ったオレーシオにただ婚約破棄しただけで許せるはずがないし、どうせだから悲惨な目に遭ってもらいたい。
あのアウド男爵家の令嬢がいいなら相応しい仕返しをしてあげる。
もうオレーシオには幻滅したから容赦しない。
シェランディー侯爵家が舐められないためにも必要なことなのだから。
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