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第5話

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「馬鹿者が!!!!何てことをしてくれたんだ!!!!!!」

レンヴィル公爵家の別邸で身柄を拘束されてから数日後、父上がやってきて俺はやっと解放された。
釈明しようとしても父上は黙ってろの一転張りで、結局帰宅するまで会話らしい会話ができなかった。
そして父上の執務室に通され、第一声がこれだった。

「俺はシェリアへの愛を伝えに行っただけです。それなのに通そうとしなかった衛兵が悪いのです。デーゲル伯爵家の人間だということも伝えたのに酷い仕打ちです。レンヴィル公爵家に抗議してください」
「そのような恥知らずな真似ができるか!この馬鹿息子が!!」

どうして俺が怒られないといけないのか。
俺の身分を知って邪魔した衛兵が悪く、その責任を認めないレンヴィル公爵家の問題だというのに。
俺は貴族だぞ?
デーゲル伯爵家の人間が衛兵ごときに狼藉を働かれたんだぞ?

「そもそもシェリア様はオースティー様の奥方だ。愛を伝えるだと?何を考えている?」
「ですからずっとシェリアのことを好きだったので想いを告げようとしただけです」
「…それが問題なのだ。どうして既婚者にそのようなことをするのだ」
「愛する気持ちは止められませんから。せっかくファーニアとの婚約が無くなったのですから、本来結ばれるべきシェリアに想いを告げることを責められたくはありません。それに伝えなくてはシェリアが本当の幸せを選べないでしょう」
「………どこで間違ってしまったのだ。バドンはどうしてこうも理解できないのか……………」

俺だって父上が邪魔することを理解できない。
俺はシェリアに気持ちを伝え、そしてシェリアが選べばいい。
どうして伝えようとする邪魔をするのか。
シェリアが俺を待っているかもしれないというのに、何を伝えないほうが酷いと思う。

「お前のせいでデーゲル伯爵家は終わりかもしれん。レンヴィル公爵家を敵にしたのはまずかった。それにミュレー伯爵家への慰謝料も支払わないといけない。とんだ支出だ」

身分を失ってしまってはシェリアも俺を選ばないかもしれない。
どうにかデーゲル伯爵家を存続させないといけないな。

「そもそもお前をファーニア嬢と婚約させたのが間違いだった。許されるかはわからないが、できることをするしかないな」

父上は俺を見据えた。

「バドン。お前とは親子の縁を切る。お前はもうデーゲル伯爵家の人間ではない。出ていけ」

………まさかこのような仕打ちを受けるとは。
これはファーニアが何かしたのだと直感的に理解した。

「わかりました」

俺がすべきはファーニアへの復讐だ。
シェリアとの仲を嫉妬のあまり邪魔したに違いない。
幸い俺は自由の身になる。
ファーニアへの復讐を遂げないとシェリアへの愛を伝えられないのなら容赦しない。

俺の邪魔をしたことを後悔させてやる。

父上の執務室を後にした俺は、金やナイフを持ち出した。
当面の生活はどうにかなるだろう。

「待ってろよ、ファーニア。こうなった責任を取らせてやる」
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