結婚を先延ばしにされたのは婚約者が妹のことを好きだったからでした。妹は既婚者なので波乱の予感しかしません。

田太 優

文字の大きさ
上 下
3 / 8

第3話

しおりを挟む
ファーニアへ婚約破棄を告げた俺は自由の身。
これで本当に愛しているシェリアにアプローチすることができる。

とはいえファーニアからの婚約破棄は予定外だったから、その他の準備は何もできていない。
シェリアには花束を贈ろうか?
それとも指輪がいいだろうか?
ここで失敗する訳にはいかないから慎重に選ばなないといけない。
吟味すれば俺の気持ちはきっと伝わるだろう。

長い間我慢してきたのだから、ここで一日や二日時間をかけるのも悪くない。
何よりも恐れるべきはシェリアの気に入らない物を贈ってしまうことだ。

レンヴィル公爵家の令息と結婚してしまったシェリアは贅沢に慣れているかもしれず、単純に財力で勝負したら俺に勝ち目はない。
だがシェリアを愛する気持ちなら絶対に負けていない。
その俺がシェリアのために全力で選ぶのだから、きっと気に入るだろう。

とはいえ選ぶのは難しい。
だが楽しくもある。
このような気持ちはファーニアとの仕方なく結んだ婚約では味わうことができなかった。

この気持ちはシェリアへの愛だ。
自由の身になった今、シェリアへの熱い想いを伝えなくてはならない。

* * * * * * * * * *

いろいろと考えた挙句、俺が選んだのは花束だった。
できる限り派手に見えるように注文したので結構高くついてしまったが、これでシェリアが笑顔になるなら安いものだ。
これは俺の気持ちでもある。
金ではなく気持ちの問題。
だからきっとシェリアにも伝わるだろう。

シェリアがいるレンヴィル公爵家の別邸に向かった俺だったが、さっそく邪魔が入った。

「ここはレンヴィル公爵家の別邸です。予定のない方はお通しできません」

生意気な衛兵が俺の愛を邪魔した。
この花束を見てシェリアに渡そうとした意図が伝わらなかったというのか?
所詮は衛兵だ。
仕方ないから言葉で伝える。

「俺はバドン・デーゲル。伯爵家の者だ」
「これは失礼しました。ですが訪問の予定は入っておりませんので、お通しすることはできません」
「その程度のことは気にするな。俺はシェリアに用がある。呼び出してくれないか?」
「……申し訳ありませんが予定のない方の要望にはお応えできません」

まったく融通の利かない衛兵だな。

「どうしても通さないというのか?」
「アポイントメントを取ってください」
「そのようなことをするまでもないだろう」

埒が明かないので俺はもっと直接的な手段に出る。
通さないならば構わない。
愛を伝える方法は他にもあるのだから。

俺は大きく息を吸い込んだ。

「シェリア!俺だ!バドンだ!!愛してる!!!」

大声で叫んだからシェリアも気付いてくれたかもしれない。
もし気付かないようなら何度でも叫べばいい。
俺のシェリアへの愛の気持ちは何度叫ぼうが無くなることはない。

「シェリア!!俺は」

叫んでいる途中に衛兵によって組み伏せられてしまった。

「ええい、何をする!俺はバドン・デーゲル!無礼だぞ!!」
「申し訳ありませんがレンヴィル公爵家への嫌がらせは看過できません。大人しくしてください」
「嫌がらせ扱いとは失礼にも程があるぞ!侮辱するのか!!この程度のことで俺が諦めると思っているのか!!!」

俺は必死に抵抗したが衛兵を振りほどくことはできなかった。
やがて衛兵の応援が来て俺は身柄を拘束され、やっとレンヴィル公爵家の別邸へと入ることができた。

……そのはずだったのに、俺が通されたのは別邸ではなく小さな建物だった。
どうやら衛兵の詰所も兼ねているようだ。
そこで俺は一室に入れられた。
鉄格子に守られた、いわゆる牢屋のようなものだ。

「おい!これはどういうことだ!それと花束ももってこい!高かったんだぞ!それにシェリアに贈るものだから丁重に扱え!!」

返事はなかった。

…もしかしたらシェリアが面会にやってくるかもしれない。
少なくとも物理的な距離は近づいたのだから、確実に前進している。

「焦らさないでくれよ、シェリア」

こんな場所からは早く出たいが、シェリアが来てくれるならそれでもいい。

* * * * * * * * * *

……………待てど暮らせど誰も来なかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます

21時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。 エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。 悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

王太子殿下に婚約者がいるのはご存知ですか?

通木遼平
恋愛
フォルトマジア王国の王立学院で卒業を祝う夜会に、マレクは卒業する姉のエスコートのため参加をしていた。そこに来賓であるはずの王太子が平民の卒業生をエスコートして現れた。 王太子には婚約者がいるにも関わらず、彼の在学時から二人の関係は噂されていた。 周囲のざわめきをよそに何事もなく夜会をはじめようとする王太子の前に数名の令嬢たちが進み出て――。 ※以前他のサイトで掲載していた作品です

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

妹に幸せになって欲しくて結婚相手を譲りました。

しあ
恋愛
「貴女は、真心からこの男子を夫とすることを願いますか」 神父様の問いに、新婦はハッキリと答える。 「いいえ、願いません!私は彼と妹が結婚することを望みます!」 妹と婚約者が恋仲だと気付いたので、妹大好きな姉は婚約者を結婚式で譲ることに! 100%善意の行動だが、妹と婚約者の反応はーーー。

【完結】「妹が欲しがるのだから与えるべきだ」と貴方は言うけれど……

小笠原 ゆか
恋愛
私の婚約者、アシュフォード侯爵家のエヴァンジェリンは、後妻の産んだ義妹ダルシニアを虐げている――そんな噂があった。次期王子妃として、ひいては次期王妃となるに相応しい振る舞いをするよう毎日叱責するが、エヴァンジェリンは聞き入れない。最後の手段として『婚約解消』を仄めかしても動じることなく彼女は私の下を去っていった。 この作品は『小説家になろう』でも公開中です。

婚約者が私の妹と結婚したいと言い出したら、両親が快く応じた話

しがついつか
恋愛
「リーゼ、僕たちの婚約を解消しよう。僕はリーゼではなく、アルマを愛しているんだ」 「お姉様、ごめんなさい。でも私――私達は愛し合っているの」 父親達が友人であったため婚約を結んだリーゼ・マイヤーとダニエル・ミュラー。 ある日ダニエルに呼び出されたリーゼは、彼の口から婚約の解消と、彼女の妹のアルマと婚約を結び直すことを告げられた。 婚約者の交代は双方の両親から既に了承を得ているという。 両親も妹の味方なのだと暗い気持ちになったリーゼだったが…。

処理中です...