結婚を先延ばしにされたのは婚約者が妹のことを好きだったからでした。妹は既婚者なので波乱の予感しかしません。

田太 優

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第1話

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「いいわね、結婚……」

私には幼馴染であり婚約者でもあるバドン・デーゲルがいる。
婚約してから長い間待たされているのに、まだ結婚の具体的な話すら出ていない。
つい、愚痴のようなものが出てしまった。

妹のシェリアのほうが後から婚約者ができたというのに先に結婚までしてしまった。
シェリアはシェリアで幸せそうだからいいけど、私だって結婚して幸せな家庭を築きたいと願っている。

バドンはそんな私の気持ちを知っているはずなのに結婚を先延ばしにしている。
いい加減私だって我慢の限界。
結婚する意思がないならもう婚約破棄してもいいかもしれない。

今になって婚約破棄したところで時間は戻らないし、私に新たな良縁があるかもわからない。
でもバドンのせいで悩む日々は嫌だから。

婚約破棄する覚悟を持ち、バドンと会った。

* * * * * * * * * *

「バドン、ずっと結婚を先延ばしにしてきたけど、本当に結婚する意思はあるの?」

私の言葉は劇薬だった。
バドンにとっても、私にとっても。

「ファーニア、すまないが俺たちの婚約は無かったことにしよう」

平然と、些細な問題のように言われてしまった。
結婚する気が無いなら婚約破棄する覚悟はあったけど、まさか全て無かったことにしたいと言われるなんて思ってもみなかった。

「冗談でしょ!?無かったことにって、ここまで結婚を先延ばしにして、それがバドンの答えなの!?」
「ファーニアは悪くない。全部俺が悪いんだ。こんな俺には構わずにファーニアは自分の幸せを見つけてくれ」
「……酷い。時間は戻らないのよ」

言葉だけではなくバドンを睨みつけることで不満を伝える。
このまま婚約が無かったことになれば今まで費やしてきた全てが無駄になってしまう。
もう行き遅れと呼ばれてもおかしくない私に、これから新たな相手を探せというの?
自分から婚約破棄するならともかく、バドンから婚約を無かったことにしたいと言われたのだから許せなかった。

………バドンのことはもう信用できないけど、ただでさえ婚約が敬遠されるような年齢になってきた私に良い相手が見つかるかはわからない。
バドンと結婚しても最初から信頼関係が破綻しているようでは幸せな家庭は築けないだろう。
でも婚約すらできないまま後妻か何かで結婚するよりかはましかもしれない。

…………どちらも私にとっては不幸なことであり、望まない未来。
こうなったのも全部バドンのせいよ。

「ファーニアと一緒にいることが辛いんだ……」

その言葉は私に抑えきれない怒りを生じさせた。
バドンのせいで私は辛い日々を送ってきたというのに、まるで自分が被害者のように言うなんて。
考えるよりも先に手が出ていた。

パシッ、という音が響く。
バドンの頬を平手打ちした音。
私の怒りに比べて可愛らしい音だった。

私の怒りも悲しみもこんなものではないのに。

「本当はシェリアのことが好きだったんだ……」

突然の告白に私は固まってしまった。
シェリアは私の妹で、既に結婚している。
私ではないことも問題だけど、既婚者を好きだというのも大問題。

同時に私との結婚を先延ばしにしてきた理由も理解してしまった。
バドンがどれだけ私に対して不誠実だったのかも。

既に一度は平手打ちしているのだから、二度目も三度目も抵抗はなかった。
叩いても気分は晴れない。
でも叩かずにはいられなかった。
私の力ではバドンは痛くないだろう。
私の心はこんなにも痛みで苦しいというのに。

「もういいわ。バドン、婚約破棄するわ」
「……すまない」

謝ったところで私は救われない。
自分が楽になりたいから謝っているのだろう。
そのことがバドンを絶対に許さないという気持ちになる。

最後に何か言ってやろうと思ってバドンの顔を見たけど、そこには希望に満ちたような笑顔があった。

………バドンにとっては邪魔な私との婚約関係が無くなって喜ばしいのだろう。
そんなに私との婚約が嫌だったならもっと早くに言ってくれれば良かったのに。

これ以上バドンに関わっているとナイフで刺したくなってしまいそう。
刺されても当然のことをしたバドンだけど、私はそこまで後先考えずに行動したりはしない。
結局何も声をかけずに去ることにした。

でもこれで終わりにはしない。
私を騙して時間を無駄にさせた報いは受けてもらうから。
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