婚約者に反論したら悪評を広められ、王子まで巻き込んだ断罪に発展してしまいました。

田太 優

文字の大きさ
上 下
5 / 8

第5話

しおりを挟む
「パーシー殿、ちょっと話を聞かせてもらえないかな?」
「いいですよ」

ふいにオルファス殿下から話しかけられた。
話というのは俺がアイラの噂を流したことについてだろう。
困ったことにオルファス殿下が俺を犯人だと決めつけているように思える。
だが証拠が無ければ俺を犯人扱いすることはできないだろう。
オルファス殿下の為人は知らないが堂々と受け答えれば問題ない。

「アイラ嬢の噂が広まっていることは知ってる?」
「はい、知ってます」
「噂の内容も知ってる?」
「はい、知ってます」
「…その噂について何か思うことはある?」
「くだらない噂だと思います」
「そうだね、僕もそう思うよ」

あまり突っ込んだことは訊かれないし話の流れは悪くない。
これは形だけの事情聴取か?
このままどうにか乗り切れるか?

「アイラ嬢が僕を狙っているらしいけど、どう思う?」
「アイラは身の程知らずなので殿下を狙っても不思議ではありません」
「そうだよね、身の程知らずは害悪でしかない。きっと適切な処分が下されると思うよ」
「そうあるべきですし、処分が下されることが待ち遠しいです」

オルファス殿下もアイラの噂は不愉快なようだな。
アイラの心証も悪くなっただろう。
逆に俺とオルファス殿下の信頼関係も構築されつつある。
もしアイラが心を入れ替え謝罪するようなら殿下との間を取り持ってやることを検討してやってもいいだろう。

「ところで、噂の出どころがパーシー殿という噂があるけど、どう思う?」
「失礼極まりないことだと思います。何を根拠に俺がやったと決めつけるのか知りたいくらいです」

生意気なアイラにやり返すのは当然のことだ。
誰が何を言ったのかは知らないが、俺の事情を知っているのか?
関係ない人間は適当なことばかり言うし責任も持たない。
そういった奴らも処罰を下してほしいくらいだ。

「そうだよね、そう思うよね。話を聞かせてくれてありがとう。きっと犯人が明らかになって適切に罰が与えられることになるだろう」
「いえ、お役に立てれば何よりです」

どうにか乗り切れたようだし、オルファス殿下に俺のことを印象付けられたに違いない。
これがきっかけでピーケット伯爵家もオルファス殿下との繋がりが強化されるかもしれないな。
このままオルファス殿下の側近として迎えられれば俺にとってもピーケット伯爵家にとっても喜ばしい。

しかし、アイラには本当に迷惑をかけられてばかりだ。
だが噂が広まってアイラの評判も下がっただろう。
これに懲りたら俺に素直に従えばいい。
理解できないようなら何かまた制裁してやればいい。

そうでなくとも俺がオルファス殿下の側近になれればアイラのような婚約者なんて捨ててやればいい。
俺にはもっと相応しい相手がいるはずだ。

* * * * * * * * * *

その翌日のことだった。
珍しく学園の掲示板の周りに人だかりができていたので俺も近づいて見ることにした。

俺の姿を見た人が道を空けていく。
まるで王様が通るかのように掲示板への道ができた。
もうオルファス殿下の側近として周知されたのか?
俺は気分よく掲示板に近づく。
周囲の人たちがヒソヒソ話をしていたが、きっと掲示物の内容に関係しているのだろう。

この状況から考えられることは簡単だ。
オルファス殿下の側近として俺が迎えられることを掲示してあるのだ。
だから俺を羨んだり取り入ろうか相談するためにヒソヒソ話をしているのだ。

まるで俺のために用意されたかのような空間。
俺は堂々と立ち、掲示物を確認する。

「な…んだ……と………」

そこには俺の名前が書かれていた。
事実無根の噂を広めた人物として、俺の名前が。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染を溺愛する旦那様の前から、消えてあげることにします

新野乃花(大舟)
恋愛
「旦那様、幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

婚約破棄されるのらしいで、今まで黙っていた事を伝えてあげたら、婚約破棄をやめたいと言われました

新野乃花(大舟)
恋愛
ロベルト第一王子は、婚約者であるルミアに対して婚約破棄を告げた。しかしその時、ルミアはそれまで黙っていた事をロベルトに告げることとした。それを聞いたロベルトは慌てふためき、婚約破棄をやめたいと言い始めるのだったが…。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

【完結】真実の愛だと称賛され、二人は別れられなくなりました

紫崎 藍華
恋愛
ヘレンは婚約者のティルソンから、面白みのない女だと言われて婚約解消を告げられた。 ティルソンは幼馴染のカトリーナが本命だったのだ。 ティルソンとカトリーナの愛は真実の愛だと貴族たちは賞賛した。 貴族たちにとって二人が真実の愛を貫くのか、それとも破滅へ向かうのか、面白ければどちらでも良かった。

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

処理中です...