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第10話

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それからの日々は変わり映えしなかった。
お母様からは新たな婚約者を探すよう言われ、乗り気ではなかったけど社交の場に参加したこともあった。
特に出会いは無かったけど、でも、いくつか気になる噂を知ることができたのは収穫だった。

ラドニー男爵家が孤児院に寄付すると約束しておきながら反故にしたという噂が広まっていた。
当然酷い行為だと非難されていたし、少額でもいいから寄付すれば良かったのにとか、金銭的に厳しいのではないかとか、悪評や悪く考えているものが多かった。
私はそのような噂を広めたりはしていないけど、広める原因を作ってしまったことは事実。
でもそれだってラドニー男爵が慰謝料を支払わなかったのだから仕方のないこと。
不問にする条件を受け入れたのだから私は悪くないし、そもそも寄付してあげれば良かっただけのこと。
わずかなお金を惜しんで名誉を損なうなんてラドニー男爵も残念な人だ。

また別の機会に知った噂は私についてのことだった。
孤児院に寄付した立派な人と言われ、少しだけ恥ずかしかった。
それほど多くの金額ではないし、立派と言われるようなものでもなかったのだから。

それよりもどうして私が寄付した話が広まっているかのほうが疑問だった。
孤児院の院長が噂の出どころだとは思うけど、院長には貴族の社交の場との繋がりはないはず。
もしかしたら私の知らない誰かが関わっているのかもしれない。

疑問は解消されなかったけど、悪い噂ではないので放置しておくことにした。

他の噂は誰が不倫しているだの懸想しているだのといった定番の話題。
あとは人さらいが出たとか治安の悪化の話題とか。

自分が変わり映えのしない日々を過ごしていても世の中は勝手に変わっていくのだと思った。
私だっていつまでもこのままではいけないと思った。
……思ったところで日々が劇的に変化するはずがない。
でも何かきっかけがあれば私も変われると思う。

* * * * * * * * * *

ある日のこと、お父様から縁談の申し出があったことを伝えられた。

「私に縁談ですか?」
「そうだ。マイザース伯爵家の令息でメイオール殿だ。知っている相手か?」
「いえ、初めて聞く名です」

私の名が社交の場で少しだけ話題になったこともあったけど、その程度のことで縁談を望むとは思えない。
でも他に私を選ぶような理由も考えられないし、ましてやメイオール様はマイザース伯爵家の令息という。
釣り合いが取れないようにも思えるけど、私にとっては条件だけは良いように思える。

相手の面子の問題もあるし、断る理由も無い。
どうして私に興味を抱いたのかも気になる。
それに…いつまでも婚約者がいないままでは良くないし、このままでは私も変われない。

だからこれはチャンス。
会ってみて良い人だったら最高だし、駄目だったら駄目で諦めればいい。

「嫌でなければ会ってみないか?」
「わかりました。会うことにします」
「そうか、では先方へは連絡しておく」
「よろしくお願いします」

お父様も安堵したようだった。
相手はマイザース伯爵家なのだから、会うことすらせずに断っていたら大変だっただろう。

今になってメイオール様がマイザース伯爵家の者だという重みを実感できるようになった。
会って断ることになったらどうなるかわからない。
先ほどまでは前向きな気持ちだったけど、今は不安になってしまった。

…貴族の婚約は難しいのだと、改めて思った。
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