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第9話

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苦しい運営状況の孤児院に多少寄付したところで焼け石に水。
それでもしないよりはしたほうがいい。
私は無理のない範囲で寄付すべく孤児院を訪ねた。

前回と同じように応接室へ通され、院長がやってきた。
心なしか落胆しているように見受けられた。

「わざわざお越しいただき感謝します。寄付していただけるとお聞きしましたが…」
「はい。今回は私個人による寄付です」

私の言葉を聞いて院長は表情が明るくなった。
寄付してもらえるとわかればこの反応。
それだけ大変な状況なのだろう。

「それほど多くはありませんが…」
「いえ、額の問題ではありません。寄付していただけるなら金額の多寡は関係ありません」

気のせいか金額について何かこだわりがありそう。
そういえばラドニー男爵家からは寄付してもらえたのだろうか?
この様子だと寄付してもらえなかったと思うけど…。

「ではこちらを」
「ありがとうございます」

お金の入った小袋ごと渡した。
その場で中身を確認するような失礼なこともなかったけど、後で金額を確認して落胆したりしないでほしい。

やはり気になったことを訊くことにした。

「そういえばラドニー男爵家からは寄付を受けられましたか?私はあれから婚約破棄により関係ない立場になってしまったので、その後どうなったのか知らないのです」

嘘はついていないし、あえて本当のことを正確に伝える必要もない。
さりげなく私は知らない、無関係な立場だというアピールも兼ねている。

「それが…ラドニー男爵様を訪ねたのですが、門前払いされました。ちょうどその場にローアン様がいらっしゃったのですが、酷い言葉で追い返されてしまいました」
「そうだったのですね…」
「残念でしたが寄付を強要することはできません。ラドニー男爵家とは縁が無かったようです。寄付していただいたウィンディ様には感謝しています」
「できる範囲でしかありませんので、これ以上の礼は不要です」
「はい、わかりました」

ローアン様がいたのなら、駆け落ちはもう終わってしまったということなの?
駆け落ち?
ただの旅行?
それとも家出?
もう婚約者でもないのでどうでもいいけど、戻ってきたのなら駆け落ちは失敗だったのだろう。
良い話を聞かせてもらった。

用が済んだので孤児院を後にしようとしたところ、ちょうど入れ違いになるような形で一人の若い男性が孤児院に入ってきた。
見た目は貴族らしい服装だったし、平民とは違い気品が感じらた。
貴族だからといて誰でも気品があるものではないけど。
しかも男爵家のような雰囲気ではない。
伯爵家か侯爵家あたりかもしれない。
かといって正式な場でもないし声をかけてくる雰囲気でもないので、私は会釈してやり過ごした。

でも…男性は私の顔をよく見ていたようにも思える。
どこかで会った記憶は無いし、誰かに似ていたのかもしれない。
考えたところで答えはわからないのだから気にしないことにする。

とにかく孤児院への用事は済んだのだ。
寄付することで私にできることもしたし、ローアン様のその後についても知ることができた。
気になっていたことが片付くと気分も明るくなる。
何か良さそうなことがありそうな予感もした。

…特に何もなかったけど。
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