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第8話
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修道女という余計な問題があったが、やっと実家に戻ってくることができた。
だがすぐに父上に呼び出された。
俺にくつろぐ時間は与えられない。
いろいろと事情を知りたいのだろうから仕方ないな。
ということで父上との話し合いが始まった。
怒りを抑えている様子は明らかだし、駆け落ちしたことで相当お怒りなのだろう。
「誘拐の容疑は晴れたのか?」
「もちろんです。犯人ではないのですから当然です。待遇に不満はありましたが、騎士団に文句を言うほどのものではありませんでした」
「それはともかく、ハンナはどうなったのだ?」
「失踪しているみたいです。騎士団のほうでもまだ見つけていないようでした」
「そうか……。まずは誘拐犯という疑いが晴れただけでも良しとするか」
父上の話しぶりからすると、俺は信じられていないようだ。
駆け落ちすると書置きしてあったが…状況から判断すれば誘拐に思われても仕方ないか。
それにハンナはまだ帰ってきていないのだろう。
きっと良い男でも見つけて新たな恋に生きているのだろう。
「それでだ、ローアン。お前が駆け落ちなんてしている間にウィンディ嬢との婚約は解消された」
「そうでしたか。どうなっているのか気になっていましたが、解消できていて良かったです」
「気楽に言ってくれるな…。面倒な交渉になった私の苦労も知らずに…」
婚約関係が解消されたのなら父上の見事な交渉手腕が発揮されたのだろう。
「さすが父上です。見事な交渉だったのでしょう」
「それはどうだかな。アトラウド伯爵は相当に譲歩したぞ。まるで何か企んでいるようだったが、それが何なのかはわからなん。ともかく慰謝料の支払いは免れた」
「それは何よりです」
その発言がいけなかった。
父上は激怒した。
「そもそもお前が駆け落ちなんかするからこうなったのだ!少しは反省しろ!」
「も、申し訳ありません………」
だが慰謝料の支払いは免れたのだから、他に何か問題でもあるというのか?
藪蛇になりそうだが気になったので訊いてみる。
「それで慰謝料以外に何か条件でもあったのですか?」
「婚約関係が解消されたのだから、今後は一切関わらないことになった。今になってウィンディ嬢と復縁しようとしたりするなよ?」
「ははは、ご安心ください。そのようなことはありません」
せっかくウィンディと別れられたのだから、どうしてまた一緒にならなくてはならないというのか。
俺にはもっと相応しい相手がいるだろうし、せめて金のある相手と婚約したい。
それがラドニー男爵家の利益にも繋がることだ。
そしてふと修道女のことを思い出してしまった。
父上なら何か知っているのかもしれない。
「ところで父上、見知らぬ修道女が寄付の件で押しかけていたようですが、何がご存じですか?」
「……今度は修道女と婚約したいのか?」
「違います!あのような老婆と婚約するなんてあり得ません!」
「そうか、それなら安心だな。それで寄付の件とは何だ?」
「俺も詳しくは知らないのですが…。でも婚約者がどうのと言っていたような…」
父上の顔が変わった。
驚き、そして苦虫を噛み潰したような、不愉快極まりないといった表情だ。
「アトラウド男爵が何か企んでいるに決まっている。そうか、そのために慰謝料の支払いを無しにし、一切関わらないようにしたのだな」
「あの…わかりやすく教えてください」
父上は大きなため息をついた。
「お前のせいで嵌められたかもしれない。だが大丈夫だ。ローアンを縁切りすれば当家の問題ではなくなる」
「ちょ、そ、え?、あの、どうして縁切りになるのですか!?」
「これ以上ラドニー男爵家に悪影響を及ぼさないためだ。ローアン、お前は厄介な相手を敵にしたようだな」
「……まさかウィンディが?」
「まだはっきりしたことはわからん。だがローアンよ、お前はいろいろと問題を起こしてばかりだな。駆け落ちもだが誘拐犯扱いもだ。おかげで当家の評判もガタガタだ。これ以上問題を起こす前に対処しなくてはな」
その対処が俺との縁を切るということか。
「もう決めた。お前とは縁を切って追放する。荷物をまとめて出ていけ」
追い出されても行く当てなんか無い。
俺にどうしろというのだ?
このまま素直に従っていいのか?
このような理不尽な扱いを受けて何もせずに後悔しないか?
怒りを込めて、一発くらいなら殴っても許されるだろう。
簡単に縁切り追放を決めたのだから、殴られるくらいの覚悟もあるはず。
「わかりました。今までお世話になりました。これはそのお礼――」
父上は強かった。
殴りかかったはずが逆に殴られた俺は床に倒れ込んだ。
少しくらい手加減してくれてもいいだろうに。
容赦なく殴られたのだから、もう俺は完全に不要なのだろう。
「そのくらい元気があるならどうとでもなるだろう。後は好きに生きるがいい。駆け落ちでも何でも好きにしろ」
こうして俺はラドニー男爵家の人間ではなくなった。
行く当ても無ければ金も無い。
どうしろというのだ?
だがすぐに父上に呼び出された。
俺にくつろぐ時間は与えられない。
いろいろと事情を知りたいのだろうから仕方ないな。
ということで父上との話し合いが始まった。
怒りを抑えている様子は明らかだし、駆け落ちしたことで相当お怒りなのだろう。
「誘拐の容疑は晴れたのか?」
「もちろんです。犯人ではないのですから当然です。待遇に不満はありましたが、騎士団に文句を言うほどのものではありませんでした」
「それはともかく、ハンナはどうなったのだ?」
「失踪しているみたいです。騎士団のほうでもまだ見つけていないようでした」
「そうか……。まずは誘拐犯という疑いが晴れただけでも良しとするか」
父上の話しぶりからすると、俺は信じられていないようだ。
駆け落ちすると書置きしてあったが…状況から判断すれば誘拐に思われても仕方ないか。
それにハンナはまだ帰ってきていないのだろう。
きっと良い男でも見つけて新たな恋に生きているのだろう。
「それでだ、ローアン。お前が駆け落ちなんてしている間にウィンディ嬢との婚約は解消された」
「そうでしたか。どうなっているのか気になっていましたが、解消できていて良かったです」
「気楽に言ってくれるな…。面倒な交渉になった私の苦労も知らずに…」
婚約関係が解消されたのなら父上の見事な交渉手腕が発揮されたのだろう。
「さすが父上です。見事な交渉だったのでしょう」
「それはどうだかな。アトラウド伯爵は相当に譲歩したぞ。まるで何か企んでいるようだったが、それが何なのかはわからなん。ともかく慰謝料の支払いは免れた」
「それは何よりです」
その発言がいけなかった。
父上は激怒した。
「そもそもお前が駆け落ちなんかするからこうなったのだ!少しは反省しろ!」
「も、申し訳ありません………」
だが慰謝料の支払いは免れたのだから、他に何か問題でもあるというのか?
藪蛇になりそうだが気になったので訊いてみる。
「それで慰謝料以外に何か条件でもあったのですか?」
「婚約関係が解消されたのだから、今後は一切関わらないことになった。今になってウィンディ嬢と復縁しようとしたりするなよ?」
「ははは、ご安心ください。そのようなことはありません」
せっかくウィンディと別れられたのだから、どうしてまた一緒にならなくてはならないというのか。
俺にはもっと相応しい相手がいるだろうし、せめて金のある相手と婚約したい。
それがラドニー男爵家の利益にも繋がることだ。
そしてふと修道女のことを思い出してしまった。
父上なら何か知っているのかもしれない。
「ところで父上、見知らぬ修道女が寄付の件で押しかけていたようですが、何がご存じですか?」
「……今度は修道女と婚約したいのか?」
「違います!あのような老婆と婚約するなんてあり得ません!」
「そうか、それなら安心だな。それで寄付の件とは何だ?」
「俺も詳しくは知らないのですが…。でも婚約者がどうのと言っていたような…」
父上の顔が変わった。
驚き、そして苦虫を噛み潰したような、不愉快極まりないといった表情だ。
「アトラウド男爵が何か企んでいるに決まっている。そうか、そのために慰謝料の支払いを無しにし、一切関わらないようにしたのだな」
「あの…わかりやすく教えてください」
父上は大きなため息をついた。
「お前のせいで嵌められたかもしれない。だが大丈夫だ。ローアンを縁切りすれば当家の問題ではなくなる」
「ちょ、そ、え?、あの、どうして縁切りになるのですか!?」
「これ以上ラドニー男爵家に悪影響を及ぼさないためだ。ローアン、お前は厄介な相手を敵にしたようだな」
「……まさかウィンディが?」
「まだはっきりしたことはわからん。だがローアンよ、お前はいろいろと問題を起こしてばかりだな。駆け落ちもだが誘拐犯扱いもだ。おかげで当家の評判もガタガタだ。これ以上問題を起こす前に対処しなくてはな」
その対処が俺との縁を切るということか。
「もう決めた。お前とは縁を切って追放する。荷物をまとめて出ていけ」
追い出されても行く当てなんか無い。
俺にどうしろというのだ?
このまま素直に従っていいのか?
このような理不尽な扱いを受けて何もせずに後悔しないか?
怒りを込めて、一発くらいなら殴っても許されるだろう。
簡単に縁切り追放を決めたのだから、殴られるくらいの覚悟もあるはず。
「わかりました。今までお世話になりました。これはそのお礼――」
父上は強かった。
殴りかかったはずが逆に殴られた俺は床に倒れ込んだ。
少しくらい手加減してくれてもいいだろうに。
容赦なく殴られたのだから、もう俺は完全に不要なのだろう。
「そのくらい元気があるならどうとでもなるだろう。後は好きに生きるがいい。駆け落ちでも何でも好きにしろ」
こうして俺はラドニー男爵家の人間ではなくなった。
行く当ても無ければ金も無い。
どうしろというのだ?
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