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第6話
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愛するハンナと結ばれるためには駆け落ちするしか無かった。
だから俺たちは駆け落ちした。
もう貧乏男爵家の暮らしは嫌だった!
ウィンディとの婚約なんて望んでいなかった!
俺はハンナと結婚すべきだったが、それすら認められなかったのだから駆け落ちするしかなかったのだ。
愛の逃避行は最初こそ満たされるものがあり、俺たちは燃え上がった。
しかし…現実は厳しい。
ハンナは商会の娘だというのに、ほとんど金を持たずに駆け落ちしたのだ。
ハンナの金を当てにしていたから金銭的に厳しい。
このままではどうにもならないぞ………。
「まだこんな安宿で暮らさないといけないの?」
「家を借りるにも金が必要だ。その金がない」
「ローアン様はお貴族様でしょ?どうにかならないの?」
「貴族だからといって横暴に振る舞って許されるものではない。領地持ちならともかくな」
「そうだったの…。なんだか考えていたのとは違うのね」
「そう言われてもな……」
ハンナは不満だらけのようだ。
商会の娘として可愛がられていれば贅沢もわがままも許されるだろう。
だが今は俺たち二人だけなのだ。
いつまでも甘い考えでいられては困る。
「実家から援助は受けられないのか?」
「無理よ。顔を出したら二度と家から出してもらえなくなるわよ」
「そうか…。それだけは避けないといけないな」
「ローアン様はどうなの?実家を頼れないの?」
「難しいだろうな……」
今になって顔を出したら大問題になるだろう。
当然ハンナとは引き裂かれるに決まっている。
そもそも実家には金がない。
それが嫌だからハンナの金を当てにして駆け落ちした訳だが…上手くはいかないものだな。
「ローアン様、頼りないのね。前はもっと威勢のいいことばかり言ってたじゃない。嘘だったの?」
「嘘ではないが金がない」
「そう。金、金、金。ローアン様はお金が大好きなのね。私よりもお金のことばかり気にしてる」
「そんなことはない。俺はハンナを愛している」
「それならお金をどうにかしてよね。もっといい宿に泊まりたいの。それに服だって買い換えたいの。演劇だって見に行きたいの。私のことを愛しているなら行動で証明してよ」
あまりのお気楽ぶりに怒りたくなったが堪えた。
どうしてこんな女と駆け落ちしてしまったのかと後悔しつつある。
…今ならまだ駆け落ちしなかったことにできないだろうか?
……このままなら金が尽きてどうにもならなくなる。
………ハンナは駄目だ。
…………こうなったらハンナとは別れて帰るしかない。
「なあ、ハンナ。俺が間違っていたよ」
「やっとわかってくれたのね。嬉しいわ」
「ああ。だから別れよう。もう駆け落ちは終わりだ」
そう告げたらハンナの顔が鬼のような形相になってしまった。
「嘘付き!私を騙したのね!許さないから!!」
「ハンナだってこのままなら上手くいかないことは理解できるだろう?今のうちに別れるしかないんだ」
「酷い!私のことは遊びだったのね!絶対に許さない!!」
「あ、待ってくれ、待て!ハンナ!」
ハンナは部屋から飛び出ていってしまった。
今は感情的になっているから何を言っても無駄だろう。
無駄どころか逆効果だ。
それなら落ち着くまで待ってやるのが正解だ。
そのうち戻ってくるだろう。
* * * * * * * * * *
その日も、翌日も、ハンナは戻ってこなかった。
きっと実家に戻ったのだろう。
もう俺との駆け落ちは終わった。
俺も家に帰るとしよう。
怒られるだろうが仕方ない。
ウィンディからも責められるだろうな。
……………気が重い。
だから俺たちは駆け落ちした。
もう貧乏男爵家の暮らしは嫌だった!
ウィンディとの婚約なんて望んでいなかった!
俺はハンナと結婚すべきだったが、それすら認められなかったのだから駆け落ちするしかなかったのだ。
愛の逃避行は最初こそ満たされるものがあり、俺たちは燃え上がった。
しかし…現実は厳しい。
ハンナは商会の娘だというのに、ほとんど金を持たずに駆け落ちしたのだ。
ハンナの金を当てにしていたから金銭的に厳しい。
このままではどうにもならないぞ………。
「まだこんな安宿で暮らさないといけないの?」
「家を借りるにも金が必要だ。その金がない」
「ローアン様はお貴族様でしょ?どうにかならないの?」
「貴族だからといって横暴に振る舞って許されるものではない。領地持ちならともかくな」
「そうだったの…。なんだか考えていたのとは違うのね」
「そう言われてもな……」
ハンナは不満だらけのようだ。
商会の娘として可愛がられていれば贅沢もわがままも許されるだろう。
だが今は俺たち二人だけなのだ。
いつまでも甘い考えでいられては困る。
「実家から援助は受けられないのか?」
「無理よ。顔を出したら二度と家から出してもらえなくなるわよ」
「そうか…。それだけは避けないといけないな」
「ローアン様はどうなの?実家を頼れないの?」
「難しいだろうな……」
今になって顔を出したら大問題になるだろう。
当然ハンナとは引き裂かれるに決まっている。
そもそも実家には金がない。
それが嫌だからハンナの金を当てにして駆け落ちした訳だが…上手くはいかないものだな。
「ローアン様、頼りないのね。前はもっと威勢のいいことばかり言ってたじゃない。嘘だったの?」
「嘘ではないが金がない」
「そう。金、金、金。ローアン様はお金が大好きなのね。私よりもお金のことばかり気にしてる」
「そんなことはない。俺はハンナを愛している」
「それならお金をどうにかしてよね。もっといい宿に泊まりたいの。それに服だって買い換えたいの。演劇だって見に行きたいの。私のことを愛しているなら行動で証明してよ」
あまりのお気楽ぶりに怒りたくなったが堪えた。
どうしてこんな女と駆け落ちしてしまったのかと後悔しつつある。
…今ならまだ駆け落ちしなかったことにできないだろうか?
……このままなら金が尽きてどうにもならなくなる。
………ハンナは駄目だ。
…………こうなったらハンナとは別れて帰るしかない。
「なあ、ハンナ。俺が間違っていたよ」
「やっとわかってくれたのね。嬉しいわ」
「ああ。だから別れよう。もう駆け落ちは終わりだ」
そう告げたらハンナの顔が鬼のような形相になってしまった。
「嘘付き!私を騙したのね!許さないから!!」
「ハンナだってこのままなら上手くいかないことは理解できるだろう?今のうちに別れるしかないんだ」
「酷い!私のことは遊びだったのね!絶対に許さない!!」
「あ、待ってくれ、待て!ハンナ!」
ハンナは部屋から飛び出ていってしまった。
今は感情的になっているから何を言っても無駄だろう。
無駄どころか逆効果だ。
それなら落ち着くまで待ってやるのが正解だ。
そのうち戻ってくるだろう。
* * * * * * * * * *
その日も、翌日も、ハンナは戻ってこなかった。
きっと実家に戻ったのだろう。
もう俺との駆け落ちは終わった。
俺も家に帰るとしよう。
怒られるだろうが仕方ない。
ウィンディからも責められるだろうな。
……………気が重い。
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