5 / 13
第5話
しおりを挟む
約束の3日が過ぎ、私とお父様は再びラドニー男爵と交渉した。
「やはり当家としては慰謝料を支払う余裕は無い」
開き直ったラドニー男爵は堂々と言った。
予想していたとはいえ、こうも開き直られると不愉快だ。
「それなら他の条件で譲歩しよう。慰謝料を請求しない代わりに、婚約破棄したら今後一切関わらないことに同意してもらおう」
「…関わらないということはお互いに関わらないという意味だな?」
「もちろんだとも」
本命の条件を提示したお父様だけど、あまりにもラドニー男爵家に譲歩しているように思えたのか、ラドニー男爵は裏がないか考えているようだった。
裏があって当然だもの。
考えることは悪くない。
「関わらないということは当家を非難したりはしないということだな?」
「もちろんだとも。まだ他に気になるところはあるか?」
「……いいだろう。この条件で婚約破棄に同意しよう」
残念だけど私がしようとしていることは非難なんかではない。
お互いに関わらないから後から当家を責めることもできない。
ラドニー男爵なりに考えた結果だろうけど、そうそう都合良く譲歩するはずがないのに。
とはいえアトラウド男爵とラドニー男爵の同意の上で婚約破棄が決まったのだ。
後は書類を作ってサインするだけ。
それだけで私はローアン様の婚約者という立場から解放され、同時に仕掛けた罠でラドニー男爵家を追い詰めることができる。
書類を作りサインする間は私が特にすべきことはない。
こうなった以上、今から状況を覆されることもないだろう。
* * * * * * * * * *
契約書に両者がサインし、正式に私とローアン様の婚約関係は解消された。
愛していなかったから悲しくもなかったし、むしろ面倒な関係が終わったことが嬉しかった。
そういえば今日のラドニー男爵は謝罪すら無かった。
前回の謝罪をもって謝罪はもう済んだとでも考えているのだろう。
もうお互いに関わらないことになったので、今になってローアン様の駆け落ちを追求することはできない。
そもそも追及する気も無かったけど。
探すのも面倒だし、そのために人員やお金を使ったところで得られるものは少ないだろう。
だからこそ最初からラドニー男爵家を嵌めることにしたのだ。
素直に慰謝料を支払っておけば致命傷は避けられたかもしれないのに。
慰謝料すら支払えないような財政事情なら遠からず破産するかもしれないけど。
「では帰るとしよう」
「はい」
用が済んだので私たちは帰路につく。
ラドニー男爵は見送りもしない。
厄介な相手が消えるのだから清々しているのかもしれない。
自分の息子に非があるのだから、親としてはもう少し誠意を見せても良かったと思う。
そういったことができないから私も遠慮なく仕返しできるというもの。
これで終わらないのに、今だけでも安堵していればいい。
駆け落ちを防げず慰謝料すら支払わなかった報いを受ければいい。
「やはり当家としては慰謝料を支払う余裕は無い」
開き直ったラドニー男爵は堂々と言った。
予想していたとはいえ、こうも開き直られると不愉快だ。
「それなら他の条件で譲歩しよう。慰謝料を請求しない代わりに、婚約破棄したら今後一切関わらないことに同意してもらおう」
「…関わらないということはお互いに関わらないという意味だな?」
「もちろんだとも」
本命の条件を提示したお父様だけど、あまりにもラドニー男爵家に譲歩しているように思えたのか、ラドニー男爵は裏がないか考えているようだった。
裏があって当然だもの。
考えることは悪くない。
「関わらないということは当家を非難したりはしないということだな?」
「もちろんだとも。まだ他に気になるところはあるか?」
「……いいだろう。この条件で婚約破棄に同意しよう」
残念だけど私がしようとしていることは非難なんかではない。
お互いに関わらないから後から当家を責めることもできない。
ラドニー男爵なりに考えた結果だろうけど、そうそう都合良く譲歩するはずがないのに。
とはいえアトラウド男爵とラドニー男爵の同意の上で婚約破棄が決まったのだ。
後は書類を作ってサインするだけ。
それだけで私はローアン様の婚約者という立場から解放され、同時に仕掛けた罠でラドニー男爵家を追い詰めることができる。
書類を作りサインする間は私が特にすべきことはない。
こうなった以上、今から状況を覆されることもないだろう。
* * * * * * * * * *
契約書に両者がサインし、正式に私とローアン様の婚約関係は解消された。
愛していなかったから悲しくもなかったし、むしろ面倒な関係が終わったことが嬉しかった。
そういえば今日のラドニー男爵は謝罪すら無かった。
前回の謝罪をもって謝罪はもう済んだとでも考えているのだろう。
もうお互いに関わらないことになったので、今になってローアン様の駆け落ちを追求することはできない。
そもそも追及する気も無かったけど。
探すのも面倒だし、そのために人員やお金を使ったところで得られるものは少ないだろう。
だからこそ最初からラドニー男爵家を嵌めることにしたのだ。
素直に慰謝料を支払っておけば致命傷は避けられたかもしれないのに。
慰謝料すら支払えないような財政事情なら遠からず破産するかもしれないけど。
「では帰るとしよう」
「はい」
用が済んだので私たちは帰路につく。
ラドニー男爵は見送りもしない。
厄介な相手が消えるのだから清々しているのかもしれない。
自分の息子に非があるのだから、親としてはもう少し誠意を見せても良かったと思う。
そういったことができないから私も遠慮なく仕返しできるというもの。
これで終わらないのに、今だけでも安堵していればいい。
駆け落ちを防げず慰謝料すら支払わなかった報いを受ければいい。
1,480
お気に入りに追加
1,482
あなたにおすすめの小説

私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。
木山楽斗
恋愛
侯爵家の令嬢であるアルティアは、家で冷遇されていた。
彼女の父親は、妾とその娘である妹に熱を上げており、アルティアのことは邪魔とさえ思っていたのである。
しかし妾の子である意網を婿に迎える立場にすることは、父親も躊躇っていた。周囲からの体裁を気にした結果、アルティアがその立場となったのだ。
だが、彼女は婚約者から拒絶されることになった。彼曰くアルティアは面白味がなく、多少わがままな妹の方が可愛げがあるそうなのだ。
父親もその判断を支持したことによって、アルティアは家に居場所がないことを悟った。
そこで彼女は、母親が懇意にしている伯爵家を頼り、新たな生活をすることを選んだ。それはアルティアにとって、悪いことという訳ではなかった。家の呪縛から解放された彼女は、伸び伸びと暮らすことにするのだった。
程なくして彼女の元に、婚約者が訪ねて来た。
彼はアルティアの妹のわがままさに辟易としており、さらには社交界において侯爵家が厳しい立場となったことを伝えてきた。妾の子であるということを差し引いても、甘やかされて育ってきた妹の評価というものは、高いものではなかったのだ。
戻って来て欲しいと懇願する婚約者だったが、アルティアはそれを拒絶する。
彼女にとって、婚約者も侯爵家も既に助ける義理はないものだったのだ。

捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?
ミィタソ
恋愛
「みんな聞いてくれ! 今日をもって、エルザ・ローグアシュタルとの婚約を破棄する! そして、その妹——アイリス・ローグアシュタルと正式に婚約することを決めた! 今日という祝いの日に、みんなに伝えることができ、嬉しく思う……」
ローグアシュタル公爵家の長女――エルザは、マクーン・ザルカンド王子の誕生日記念パーティーで婚約破棄を言い渡される。
それどころか、王子の横には舌を出して笑うエルザの妹――アイリスの姿が。
傷心を癒すため、父親の勧めで隣国へ行くのだが……

身勝手な婚約者のために頑張ることはやめました!
風見ゆうみ
恋愛
ロイロン王国の第二王女だった私、セリスティーナが政略結婚することになったのはワガママな第二王子。
彼には前々から愛する人、フェイアンナ様がいて、仕事もせずに彼女と遊んでばかり。
あまりの酷さに怒りをぶつけた次の日のパーティーで、私は彼とフェイアンナ様に殺された……はずなのに、パーティー当日の朝に戻っていました。
政略結婚ではあるけれど、立場は私の国のほうが立場は強いので、お父様とお母様はいつでも戻って来て良いと言ってくれていました。
どうして、あんな人のために私が死ななくちゃならないの?
そう思った私は、王子を野放しにしている両陛下にパーティー会場で失礼な発言をしても良いという承諾を得てから聞いてみた。
「婚約破棄させていただこうと思います」
私の発言に、騒がしかったパーティー会場は一瞬にして静まり返った。

今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。
ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」
書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。
今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、
5年経っても帰ってくることはなかった。
そして、10年後…
「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…

婚約者の不倫相手は妹で?
岡暁舟
恋愛
公爵令嬢マリーの婚約者は第一王子のエルヴィンであった。しかし、エルヴィンが本当に愛していたのはマリーの妹であるアンナで…。一方、マリーは幼馴染のアランと親しくなり…。

妹と婚約者は私が邪魔なようなので、家から出て行きます
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私アリカが作った魔法道具の評判はよかったけど、妹メディナが作ったことにされてしまう。
婚約者ダゴンはメディナの方が好きと言い、私を酷使しようと目論んでいた。
伯爵令嬢でいたければ従えと命令されて、私は全てがどうでもよくなってしまう。
家から出て行くことにして――魔法道具は私がいなければ直せないことを、ダゴン達は知ることとなる。

こんな人とは頼まれても婚約したくありません!
Mayoi
恋愛
ダミアンからの辛辣な一言で始まった縁談は、いきなり終わりに向かって進み始めた。
最初から望んでいないような態度に無理に婚約する必要はないと考えたジュディスは狙い通りに破談となった。
しかし、どうしてか妹のユーニスがダミアンとの縁談を望んでしまった。
不幸な結末が予想できたが、それもユーニスの選んだこと。
ジュディスは妹の行く末を見守りつつ、自分の幸せを求めた。

そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。
木山楽斗
恋愛
伯爵家の令嬢であるアルシエラは、高慢な妹とそんな妹ばかり溺愛する両親に嫌気が差していた。
ある時、彼女は父親から縁を切ることを言い渡される。アルシエラのとある行動が気に食わなかった妹が、父親にそう進言したのだ。
不安はあったが、アルシエラはそれを受け入れた。
ある程度の年齢に達した時から、彼女は実家に見切りをつけるべきだと思っていた。丁度いい機会だったので、それを実行することにしたのだ。
伯爵家を追い出された彼女は、商人としての生活を送っていた。
偶然にも人脈に恵まれた彼女は、着々と力を付けていき、見事成功を収めたのである。
そんな彼女の元に、実家から申し出があった。
事情があって窮地に立たされた伯爵家が、支援を求めてきたのだ。
しかしながら、そんな義理がある訳がなかった。
アルシエラは、両親や妹からの申し出をきっぱりと断ったのである。
※8話からの登場人物の名前を変更しました。1話の登場人物とは別人です。(バーキントン→ラナキンス)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる