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第5話
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約束の3日が過ぎ、私とお父様は再びラドニー男爵と交渉した。
「やはり当家としては慰謝料を支払う余裕は無い」
開き直ったラドニー男爵は堂々と言った。
予想していたとはいえ、こうも開き直られると不愉快だ。
「それなら他の条件で譲歩しよう。慰謝料を請求しない代わりに、婚約破棄したら今後一切関わらないことに同意してもらおう」
「…関わらないということはお互いに関わらないという意味だな?」
「もちろんだとも」
本命の条件を提示したお父様だけど、あまりにもラドニー男爵家に譲歩しているように思えたのか、ラドニー男爵は裏がないか考えているようだった。
裏があって当然だもの。
考えることは悪くない。
「関わらないということは当家を非難したりはしないということだな?」
「もちろんだとも。まだ他に気になるところはあるか?」
「……いいだろう。この条件で婚約破棄に同意しよう」
残念だけど私がしようとしていることは非難なんかではない。
お互いに関わらないから後から当家を責めることもできない。
ラドニー男爵なりに考えた結果だろうけど、そうそう都合良く譲歩するはずがないのに。
とはいえアトラウド男爵とラドニー男爵の同意の上で婚約破棄が決まったのだ。
後は書類を作ってサインするだけ。
それだけで私はローアン様の婚約者という立場から解放され、同時に仕掛けた罠でラドニー男爵家を追い詰めることができる。
書類を作りサインする間は私が特にすべきことはない。
こうなった以上、今から状況を覆されることもないだろう。
* * * * * * * * * *
契約書に両者がサインし、正式に私とローアン様の婚約関係は解消された。
愛していなかったから悲しくもなかったし、むしろ面倒な関係が終わったことが嬉しかった。
そういえば今日のラドニー男爵は謝罪すら無かった。
前回の謝罪をもって謝罪はもう済んだとでも考えているのだろう。
もうお互いに関わらないことになったので、今になってローアン様の駆け落ちを追求することはできない。
そもそも追及する気も無かったけど。
探すのも面倒だし、そのために人員やお金を使ったところで得られるものは少ないだろう。
だからこそ最初からラドニー男爵家を嵌めることにしたのだ。
素直に慰謝料を支払っておけば致命傷は避けられたかもしれないのに。
慰謝料すら支払えないような財政事情なら遠からず破産するかもしれないけど。
「では帰るとしよう」
「はい」
用が済んだので私たちは帰路につく。
ラドニー男爵は見送りもしない。
厄介な相手が消えるのだから清々しているのかもしれない。
自分の息子に非があるのだから、親としてはもう少し誠意を見せても良かったと思う。
そういったことができないから私も遠慮なく仕返しできるというもの。
これで終わらないのに、今だけでも安堵していればいい。
駆け落ちを防げず慰謝料すら支払わなかった報いを受ければいい。
「やはり当家としては慰謝料を支払う余裕は無い」
開き直ったラドニー男爵は堂々と言った。
予想していたとはいえ、こうも開き直られると不愉快だ。
「それなら他の条件で譲歩しよう。慰謝料を請求しない代わりに、婚約破棄したら今後一切関わらないことに同意してもらおう」
「…関わらないということはお互いに関わらないという意味だな?」
「もちろんだとも」
本命の条件を提示したお父様だけど、あまりにもラドニー男爵家に譲歩しているように思えたのか、ラドニー男爵は裏がないか考えているようだった。
裏があって当然だもの。
考えることは悪くない。
「関わらないということは当家を非難したりはしないということだな?」
「もちろんだとも。まだ他に気になるところはあるか?」
「……いいだろう。この条件で婚約破棄に同意しよう」
残念だけど私がしようとしていることは非難なんかではない。
お互いに関わらないから後から当家を責めることもできない。
ラドニー男爵なりに考えた結果だろうけど、そうそう都合良く譲歩するはずがないのに。
とはいえアトラウド男爵とラドニー男爵の同意の上で婚約破棄が決まったのだ。
後は書類を作ってサインするだけ。
それだけで私はローアン様の婚約者という立場から解放され、同時に仕掛けた罠でラドニー男爵家を追い詰めることができる。
書類を作りサインする間は私が特にすべきことはない。
こうなった以上、今から状況を覆されることもないだろう。
* * * * * * * * * *
契約書に両者がサインし、正式に私とローアン様の婚約関係は解消された。
愛していなかったから悲しくもなかったし、むしろ面倒な関係が終わったことが嬉しかった。
そういえば今日のラドニー男爵は謝罪すら無かった。
前回の謝罪をもって謝罪はもう済んだとでも考えているのだろう。
もうお互いに関わらないことになったので、今になってローアン様の駆け落ちを追求することはできない。
そもそも追及する気も無かったけど。
探すのも面倒だし、そのために人員やお金を使ったところで得られるものは少ないだろう。
だからこそ最初からラドニー男爵家を嵌めることにしたのだ。
素直に慰謝料を支払っておけば致命傷は避けられたかもしれないのに。
慰謝料すら支払えないような財政事情なら遠からず破産するかもしれないけど。
「では帰るとしよう」
「はい」
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ラドニー男爵は見送りもしない。
厄介な相手が消えるのだから清々しているのかもしれない。
自分の息子に非があるのだから、親としてはもう少し誠意を見せても良かったと思う。
そういったことができないから私も遠慮なく仕返しできるというもの。
これで終わらないのに、今だけでも安堵していればいい。
駆け落ちを防げず慰謝料すら支払わなかった報いを受ければいい。
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