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第3話

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頭を上げたラドニー男爵の顔は困惑していた。
本気で慰謝料請求されると思わなかったのだろうか?
とにかくラドニー男爵にとって困った事態になったのは間違いないだろう。

「さて、慰謝料はどれくらいがいいだろうか。何の非も無いウィンディが駆け落ちされたんだ。ラドニー男爵の誠意を見せてもらおうではないか」
「……慰謝料を支払って当然だ。だが…当家には十分な慰謝料を支払う余裕は無い」
「それはラドニー男爵家の事情であろう?請求はする。支払えないならラドニー男爵家が信用を失うだけだ。それが嫌なら支払えばいい」
「くっ、少しくらい手心を加えても良かろうに」
「それを言える立場かな?そのような態度では容赦する必要もあるまい」

ラドニー男爵は、とにかく慰謝料を安く済ませたいようだった。
そのために言い訳すればするほど逆効果に思えるけど……。

本当に金銭的に余裕が無いのであれば、使用人たちも最低限しか雇えないはず。
やたらと疲れたような使用人たちを見かけたのは人手が足りず仕事が忙しいからだろう。

これでは十分な慰謝料は望めない。
請求したところで支払われないだろう。
それならそれでラドニー男爵家の信用が無くなるだけだけど、私の気持ちは収まらない。

そして閃いてしまった。

「お父様、慰謝料が決まるまでは正式に婚約関係の解消はできませんよね?」
「ああ、そうなるな」
「私としては早く慰謝料の金額を決めて婚約関係を清算したいところですけど、ラドニー男爵様も急なことで困っておられるようです。少しくらい猶予を設けたほうがよろしいのではありませんか?」

お父様は私の意図を考えているようだけど、そう簡単に正解に辿り着けるはずがない。

「ウィンディはそれでいいのか?」
「はい」
「ならば…いいだろう。ラドニー男爵、何日の猶予が必要だ?」
「……3日ほどいただきたい」
「いいだろう。3日は待つ。その間にどうにかするんだな」

3日あれば十分。
どうせ何日あってもラドニー男爵家の財政状況が改善するはずがないし、最初から慰謝料を支払ってもらえるとも思っていない。
だからこの3日という期間を有効活用する。

どうせ支払う意思のないラドニー男爵なのだから、それなりに痛い目に遭ってもらう。
そうしないと制裁にならないもの。
慰謝料だけで済ませられるかもしれなかったのに、ラドニー男爵家が全て失うことになったとしても、それはラドニー男爵の選択の結果。

「では3日後にまた会おう。その時は良い返事を期待している」
「………」

ラドニー男爵は何も言わなかった。
言えなかったのかもしれない。
どうせ支払えないのだから諦めてしまったのかもしれないし、私たちのことを逆恨みしての反応なのかもしれない。

ローアン様が駆け落ちなんてしなければこうはならなかったのに。
駆け落ち相手のことを知っているようだし、駆け落ちされないよう手を打っておけばこうはならなかったのに。
ラドニー男爵やローアン様の失態の結果がこの現状。
きっとこのままどうにもならずに下り坂を転げ落ちるようにラドニー男爵家は破滅へ向かっていくだろう。

* * * * * * * * * *

帰りの馬車の中、お父様から先ほどの交渉について確認された。

「3日の猶予を与えたところでラドニー男爵は慰謝料を工面できないだろう。このままでは慰謝料なんてほとんど取れないぞ」
「はい、それは承知の上です。きっと全く支払われないでしょう」
「同感だ。だが何か考えがあってのことだろう?」
「もちろんです」

お父様にまで秘密にしておく必要はないので、この機会に私の考えを伝えることにする。
反対はされないと思うけど、正直お父様がどう反応するかはわからない。
褒めるか呆れるか………。

「まず、慰謝料は支払われないと思うので、最初から請求はしないことにします。その代わりに今後何があろうと一切を不問とするよう条件を出します」
「ほう?」
「ラドニー男爵のことですから、目先の慰謝料無しという条件に飛びつくでしょう。もちろんそれは餌で、本命は一切を不問とするところにあります」
「そこに罠を仕掛けるのか」
「はい」

私が考えている罠をお父様に伝えた。

「ははっ、いいだろう。そのほうがラドニー男爵家にとっては痛手だろうな。目先のことしか目に入らなければ破滅もやむを得まい」

良かった、お父様は反対しなかった。
これで遠慮せずに私の仕返しを実行できる。
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