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第2話
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夜、お父様が帰宅するなり、私は事のあらましを伝えた。
「何ということだ……。だが駆け落ちした以上、どのような制裁を受けようが覚悟してのことだろう。ラドニー男爵にも責任を取らせないとな」
信じられない出来事を聞かされたお父様は少しの思案のあと、気持ちを切り替えたようだった。
「ウィンディ、ローアン殿への気持ちはあるのか?」
「ありません。容赦なく制裁してください」
「そうか、わかった」
私の中にはローアン様への恨みの気持ちが多く存在している。
でもそれをお父様に聞かせたところで問題は解決しないしローアン様への制裁にはならない。
お父様だって私の気持ちは理解してくれるはず。
「せっかくだ、ウィンディも一緒にラドニー男爵と交渉しよう」
「私がですか?」
「ああ。ラドニー男爵なら詳しいことを知っているだろう。事情や態度次第でどの程度制裁するか考慮してもいいだろう」
「そうですね。ではご一緒します」
ローアン様のことをもっと詳しく知りたい気持ちはある。
それに私が制裁について口出しできるということは、お父様はそれだけ私の気持ちを優先してくれるということ。
断る理由は無かった。
「明日、朝になったら先触れを出そう。事が事だから早めに片を付けないとな。とにかく明日を待て」
「はい」
* * * * * * * * * *
翌日の昼前、私とお父様はラドニー男爵の屋敷を訪れた。
これだけ早い対応になったのは事の重大性を認識してのものかもしれない。
むしろそれくらいは当然。
問題はどの程度の誠意を見せてくれるのか。
応接室へ通されたけど、途中で目に入った使用人たちは元気がなさそうだった。
ローアン様の駆け落ちで大変なのかもしれないけど、私だって被害者だ。
ラドニー男爵に詳しいことを訊かないといけないし、場合によっては容赦なく制裁しなくてはならない。
ラドニー男爵はすぐにやってきた。
「ローアンが申し訳ないことをした。謝罪する!」
部屋に入ってくるなり頭を下げた。
謝罪はポーズ。
そんなことよりも詳しい話が聞きたい。
「頭を上げてくれ、ラドニー男爵。今はそれよりも詳しい話が聞きたい」
「ああ」
ラドニー男爵はテーブルを挟んだ向こう側に座った。
焦燥しているような顔つきだったけど、表情からは何を考えているのかは読み取れなかった。
「ローアンが駆け落ちしたのは間違いない。書置きを残して消えてしまった。どこへ行ったのかは一切不明だ」
「何もわからないということか。だが相手の予想はできるだろう?」
「ああ。ハンナという平民だ。商会の娘だな。商会のほうにも確認したが姿が見えないようだ。ローアンと一緒に駆け落ちしたと考えるべきだろう」
「そうか。そういった関係だったのだな」
そう、駆け落ちするくらいなのだから以前から親密な関係だったに決まっている。
私に隠れて浮気していたのだろうし、浮気どころか駆け落ちするくらい本気だし、擁護のしようのないくらいの私への裏切りだ。
その分だけラドニー男爵家の非が強まる。
お父様は私に視線を向けた。
「ウィンディ」
その言葉だけで察した。
「ラドニー男爵様、ローアン様との婚約を破棄します」
「……わかった。ローアンが申し訳ないことをした」
ラドニー男爵が再び頭を下げた。
そこにお父様が追い討ちをかける。
「さて、謝罪はそこまでにしてもらおう。ローアン殿に非があるのだから当然慰謝料を支払ってもらわないとな」
頭を下げたままのラドニー男爵の顔は見えないけど、一瞬びくっと体が震えたような気がした。
まさか謝罪だけで終わるとでも考えていたのだろうか?
「何ということだ……。だが駆け落ちした以上、どのような制裁を受けようが覚悟してのことだろう。ラドニー男爵にも責任を取らせないとな」
信じられない出来事を聞かされたお父様は少しの思案のあと、気持ちを切り替えたようだった。
「ウィンディ、ローアン殿への気持ちはあるのか?」
「ありません。容赦なく制裁してください」
「そうか、わかった」
私の中にはローアン様への恨みの気持ちが多く存在している。
でもそれをお父様に聞かせたところで問題は解決しないしローアン様への制裁にはならない。
お父様だって私の気持ちは理解してくれるはず。
「せっかくだ、ウィンディも一緒にラドニー男爵と交渉しよう」
「私がですか?」
「ああ。ラドニー男爵なら詳しいことを知っているだろう。事情や態度次第でどの程度制裁するか考慮してもいいだろう」
「そうですね。ではご一緒します」
ローアン様のことをもっと詳しく知りたい気持ちはある。
それに私が制裁について口出しできるということは、お父様はそれだけ私の気持ちを優先してくれるということ。
断る理由は無かった。
「明日、朝になったら先触れを出そう。事が事だから早めに片を付けないとな。とにかく明日を待て」
「はい」
* * * * * * * * * *
翌日の昼前、私とお父様はラドニー男爵の屋敷を訪れた。
これだけ早い対応になったのは事の重大性を認識してのものかもしれない。
むしろそれくらいは当然。
問題はどの程度の誠意を見せてくれるのか。
応接室へ通されたけど、途中で目に入った使用人たちは元気がなさそうだった。
ローアン様の駆け落ちで大変なのかもしれないけど、私だって被害者だ。
ラドニー男爵に詳しいことを訊かないといけないし、場合によっては容赦なく制裁しなくてはならない。
ラドニー男爵はすぐにやってきた。
「ローアンが申し訳ないことをした。謝罪する!」
部屋に入ってくるなり頭を下げた。
謝罪はポーズ。
そんなことよりも詳しい話が聞きたい。
「頭を上げてくれ、ラドニー男爵。今はそれよりも詳しい話が聞きたい」
「ああ」
ラドニー男爵はテーブルを挟んだ向こう側に座った。
焦燥しているような顔つきだったけど、表情からは何を考えているのかは読み取れなかった。
「ローアンが駆け落ちしたのは間違いない。書置きを残して消えてしまった。どこへ行ったのかは一切不明だ」
「何もわからないということか。だが相手の予想はできるだろう?」
「ああ。ハンナという平民だ。商会の娘だな。商会のほうにも確認したが姿が見えないようだ。ローアンと一緒に駆け落ちしたと考えるべきだろう」
「そうか。そういった関係だったのだな」
そう、駆け落ちするくらいなのだから以前から親密な関係だったに決まっている。
私に隠れて浮気していたのだろうし、浮気どころか駆け落ちするくらい本気だし、擁護のしようのないくらいの私への裏切りだ。
その分だけラドニー男爵家の非が強まる。
お父様は私に視線を向けた。
「ウィンディ」
その言葉だけで察した。
「ラドニー男爵様、ローアン様との婚約を破棄します」
「……わかった。ローアンが申し訳ないことをした」
ラドニー男爵が再び頭を下げた。
そこにお父様が追い討ちをかける。
「さて、謝罪はそこまでにしてもらおう。ローアン殿に非があるのだから当然慰謝料を支払ってもらわないとな」
頭を下げたままのラドニー男爵の顔は見えないけど、一瞬びくっと体が震えたような気がした。
まさか謝罪だけで終わるとでも考えていたのだろうか?
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