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第1話
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「ローアン様、遅いわね」
今日は婚約者のローアン様と一緒に出掛ける予定。
ローアン様が私の自宅まで迎えにくる予定なので待っていたけど、待てど暮らせど迎えに来ない。
連絡も無しに大幅に遅刻するのは何か事故に巻き込まれたからなのかもしれない。
気になってしまったけど、どうなっているのか確認することは簡単。
ローアン様の屋敷は近くなので、使用人を連絡に出せばいいだけのこと。
入れ違いになっても仕方ないし、何よりもこのまま待っているだけという状況が落ち着かない。
「ちょっといい?ローアン様が約束の時間になっても来ないから、ラドニー男爵家まで行って状況を確認してくれる?」
「かしこまりました」
使用人に任せれば何かはわかるだろう。
何も知らないから不安になるし、もっと早くこうしていれば良かったと思ってしまった。
でも、ローアン様が連絡も無しに遅刻するからこうなってしまった。
後で文句の一つでも言って反省してもらわないと。
……反省するようなローアン様ではないけど。
* * * * * * * * * *
男爵家が王都に居を構えるなら場所は限られている。
アトラウド男爵家とラドニー男爵家はそれほど離れてはいないので、使用人もすぐ帰ってくるだろう。
事実、使用人がそれほど遅くならずに帰ってきた。
ただし普通ではない様子で。
「た、大変です!ウィンディ様!」
相当慌てているようだから何かあったことは間違いない。
問題はそれがどういったものなのか。
ローアン様が怪我でもされていなければいいけど…。
「落ち着きなさい。それでどうしたの?」
「あ、はい、すみません。ラドニー男爵家に行ったところ、ローアン様は不在でした。その理由なのですが…」
使用人は言い辛そうだった。
まさか浮気現場でも目撃したとか!?
でもそれは私の勝手な予想。
私は使用人を急かさず、言葉を待つ。
「ローアン様は平民の女性と駆け落ちしたそうです」
まさかの事態に脱力してしまった。
そんなことになっていたなんて予想していなかったわ。
心配した分だけ損だった。
「……ご苦労様。他に何かわかっていることはある?」
「いえ、ラドニー男爵家としても想定外だったらしく、まだわからないことが多いようです」
「そうだったの。わかったわ。ありがとう」
「恐縮です」
ラドニー男爵家は本当にローアン様のことを知らないのかもしれないし、正直に当家に伝えないだけかもしれない。
でも問題はそこではない。
ローアン様は駆け落ちしたのだから、私ではない女性を選んだということ。
……当然婚約は破棄するしかない。
そうなればラドニー男爵とも慰謝料について話し合わないといけない。
話し合いの場でローアン様のことを直接訊くこともできると思う。
駆け落ちされた以上、探しても簡単には見つけられないだろうし、ローアン様とは縁がなかったのだろう。
でも私に非がなくローアン様に非があるのだから、慰謝料はしっかり請求する。
だって誰の有責なのかはっきりさせないと次の婚約の足を引っ張ることになってしまうから。
過去ばかりに目を向けても幸せにはなれない。
今に目を向け未来を見据えて慰謝料の交渉をしなければならない。
………意外かもしれないけど、ローアン様が駆け落ちしたと知っても動揺はなかった。
きっと私はローアン様を愛してはいなかったのだろう。
そもそも親が決めた相手だし、愛を育めるほどローアン様は私に気を使わなかった。
駆け落ちが答えなら私への態度が良くなかったことも納得できる。
最初から意中の相手がいたのであれば私との関係なんて程々でいい。
…………こんな形で答え合わせすることになるなんてね。
とにかく、今すべきことはラドニー男爵へ婚約破棄を伝え慰謝料の交渉をすること。
お父様の帰宅を待って相談しないと。
お母様にも伝えておくけど、これはアトラウド男爵家としてラドニー男爵家にどうするかという問題。
申し訳ないけどお母様に決定権はない。
今日は婚約者のローアン様と一緒に出掛ける予定。
ローアン様が私の自宅まで迎えにくる予定なので待っていたけど、待てど暮らせど迎えに来ない。
連絡も無しに大幅に遅刻するのは何か事故に巻き込まれたからなのかもしれない。
気になってしまったけど、どうなっているのか確認することは簡単。
ローアン様の屋敷は近くなので、使用人を連絡に出せばいいだけのこと。
入れ違いになっても仕方ないし、何よりもこのまま待っているだけという状況が落ち着かない。
「ちょっといい?ローアン様が約束の時間になっても来ないから、ラドニー男爵家まで行って状況を確認してくれる?」
「かしこまりました」
使用人に任せれば何かはわかるだろう。
何も知らないから不安になるし、もっと早くこうしていれば良かったと思ってしまった。
でも、ローアン様が連絡も無しに遅刻するからこうなってしまった。
後で文句の一つでも言って反省してもらわないと。
……反省するようなローアン様ではないけど。
* * * * * * * * * *
男爵家が王都に居を構えるなら場所は限られている。
アトラウド男爵家とラドニー男爵家はそれほど離れてはいないので、使用人もすぐ帰ってくるだろう。
事実、使用人がそれほど遅くならずに帰ってきた。
ただし普通ではない様子で。
「た、大変です!ウィンディ様!」
相当慌てているようだから何かあったことは間違いない。
問題はそれがどういったものなのか。
ローアン様が怪我でもされていなければいいけど…。
「落ち着きなさい。それでどうしたの?」
「あ、はい、すみません。ラドニー男爵家に行ったところ、ローアン様は不在でした。その理由なのですが…」
使用人は言い辛そうだった。
まさか浮気現場でも目撃したとか!?
でもそれは私の勝手な予想。
私は使用人を急かさず、言葉を待つ。
「ローアン様は平民の女性と駆け落ちしたそうです」
まさかの事態に脱力してしまった。
そんなことになっていたなんて予想していなかったわ。
心配した分だけ損だった。
「……ご苦労様。他に何かわかっていることはある?」
「いえ、ラドニー男爵家としても想定外だったらしく、まだわからないことが多いようです」
「そうだったの。わかったわ。ありがとう」
「恐縮です」
ラドニー男爵家は本当にローアン様のことを知らないのかもしれないし、正直に当家に伝えないだけかもしれない。
でも問題はそこではない。
ローアン様は駆け落ちしたのだから、私ではない女性を選んだということ。
……当然婚約は破棄するしかない。
そうなればラドニー男爵とも慰謝料について話し合わないといけない。
話し合いの場でローアン様のことを直接訊くこともできると思う。
駆け落ちされた以上、探しても簡単には見つけられないだろうし、ローアン様とは縁がなかったのだろう。
でも私に非がなくローアン様に非があるのだから、慰謝料はしっかり請求する。
だって誰の有責なのかはっきりさせないと次の婚約の足を引っ張ることになってしまうから。
過去ばかりに目を向けても幸せにはなれない。
今に目を向け未来を見据えて慰謝料の交渉をしなければならない。
………意外かもしれないけど、ローアン様が駆け落ちしたと知っても動揺はなかった。
きっと私はローアン様を愛してはいなかったのだろう。
そもそも親が決めた相手だし、愛を育めるほどローアン様は私に気を使わなかった。
駆け落ちが答えなら私への態度が良くなかったことも納得できる。
最初から意中の相手がいたのであれば私との関係なんて程々でいい。
…………こんな形で答え合わせすることになるなんてね。
とにかく、今すべきことはラドニー男爵へ婚約破棄を伝え慰謝料の交渉をすること。
お父様の帰宅を待って相談しないと。
お母様にも伝えておくけど、これはアトラウド男爵家としてラドニー男爵家にどうするかという問題。
申し訳ないけどお母様に決定権はない。
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