大切にされなくても構いません。私には最愛の人の想い出と希望があるのですから。

田太 優

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第8話

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ディクス様の機嫌が直ることはないまま日数だけは過ぎていった。
きっともう何をしてもディップトン男爵家は破滅を免れないのだろう。
だから私はディクス様に離婚を告げた。

ディクス様は私を責めたし嵌めたと決めつけたけど、私のせいにされても困るし、事態は何ら解決しない。
不毛なやり取りも飽きたし、いい加減潔く離婚に応じてほしい。

「もういいですか?離婚しましょう」
「………」
「これ以上夫婦関係を続けたところでメリットもないでしょう」
「お前も俺を見捨てるというのか?」
「当然です。だってディクス様にされてきたことを考えれば当然です」
「酷いな」

酷いのはディクス様のほうだ。
いい加減離婚に応じてほしいけど、その前にどうしても決めておかないといけないことがある。

「オルトのことはどうするつもりですか?」
「…ルルシーとの間に作った子もきっと不幸をもたらす存在だ。だからお前が引き取れ」
「わかりました。ではオルトを私が引き取るので離婚してください」
「……いいだろう。ただしオルトにディップトン男爵を継がせない。ディップトン男爵家からも除籍する。今になって嫌だとは言うなよ?」
「言いませんよ」
「後からどうこう言うなよ?」
「言いませんから安心してください」

ディクスがにとっては邪魔なオルトかもしれないけど、私にとっては大切な存在であり私が守らなければならない存在。
ディップトン男爵家も家自体が無くなってしまえば継ぐ意味がない。
継がせるつもりもないけど。
私にとってはディクス様が考えているほどディップトン男爵家に価値は見いだせない。
それにしても後出しで条件を追加するなんて、ディクスは本当に性格が捻じ曲がっている。

それからは書面で離婚の条件をまとめ、離婚することになった。
離婚してしまえば私はこの家にいる必要がない。
私を苦しめたこの家からも出て行けるとなれば気分も晴れやかになる。

まだ幼い我が子を抱き、私は家を出た。

* * * * * * * * * *

帰る場所は実家しかない。
親には散々振り回されてきたので気が重くなってしまったけど、他に頼れる人もいないのだから仕方なかった。

頼れる人といえばオーネストだけど、頼ってしまっていいのかわからなかった。
あれから時間も経ったし、今もオーネストは私のことを大切に想ってくれているのだろうか。

それに………オルトのこともある。

実家に戻った私は意外なことに実家の暮らしぶりが悪くないことに驚いた。
だってディップトン男爵家からの援助を受けなければ暮らしに困窮するはずなのに、ディップトン男爵家からの援助が無いなら誰が援助したのだろうか。
私にどうにかしろと泣きついてきてから十分な時間があったとは思えないのに、この短期間の間に何があったというの?

「お帰り、ルルシー。よく帰ってきてくれた」
「まあ、その子がオルトなのね」

両親の反応も以前とは違って上機嫌だった。
以前はオルトの事を全く気にしていなかったのに、何があったというのだろうか。
私への態度も悪くないことが逆に不気味だった。

疑問は解消することもなく、私は実家での生活を始めた。
暮らしてみれば暮らしの質の改善が一時的なものではないことも理解できた。
誰かが援助しなければこんな生活は無理だと思うけど、いったい誰が援助したのだろう?

やはり疑問が解消することはなかったけど、そんな疑問なんてどうでもいいような出来事が生じた。
オーネストが会いたいと連絡してきたのだ。

会いたいということは私への気持ちをずっと抱いてきたのだろう。
やはり私たちは結ばれる運命だった。
もう会うために邪魔な関係も存在もない。
だから私はオーネストに会うことにした。

会うと決めただけで胸がときめく。
私のオーネストへの想いは未だに色褪せることはない。
オーネストも同じ気持ちだと信じている。
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