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第7話

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私は両親を説得しようとも思わなかった。
するとディップトン男爵から援助を打ち切られた両親が私に泣きついてきたのだ。
わざわざディクス様の屋敷にまで押しかけてきたのだから、私が対応せざるを得なかった。

「ルルシー、どうにかしてくれ!ディクス殿にどうにかするよう働きかけてくれ!」
「大変なのよ、ルルシー。どうか私たちのために、お願いね?」
「………せめて浪費癖をどうにかしてください」
「貴族として必要なことだ。これは浪費ではない」
「そうよ。私たちは誇りあるロロウズ子爵家の一員なのよ。みすぼらしい生活なんて無理よ」

反省する気のない両親に眩暈がしそうだった。
お金は無限に湧いてくるものではないし、税収で賄える範囲で暮らさなければ破綻するのも当然なのに。
成り上がり者みたいに商売に手を出すとしても、この両親なら絶対に失敗する。
自力で収入を増やすことは望めず、浪費を改善する意思もない。
私がディクス様を説得して援助したところでどうにもならないだろう。

何をしても両親はもう駄目。

「何のためにディップトン男爵家に嫁いだと思っているんだ」
「そうよ、少しは親孝行しようとは思わないの?」

相変わらず好き勝手言ってくれる両親に私も我慢の限界だった。
こんな望まない生活を押し付けたくせに、まだ私から搾取しようとするのか。

だから私は一言くらい言い返してやる。

「どうして親孝行されると思うのですか?私に何をしたのか理解できないのですか?」
「ルルシーの幸せを考えてディクス殿との縁談を設けたではないか」
「育てた恩は感じないの?どうしてそんなに冷たいことを言うの?」
「……理解していないことはよくわかりました。お引き取りください」

私の意思を組んだ使用人たちが両親を追い出した。
一部の使用人たちが粗雑な対応をしたのは私の両親だからだろう。
私だって同じような扱いを受けるのだから、両親も少しは私の気持ちを理解してほしい。
無理だろうけど。

* * * * * * * * * *

両親を追い返せば次はディクス様の番だった。
両親がやってきたことは知っているのだから、きっと都合良く思い込んでいるのだろう。

「それで説得はできたのか?」

やはり両親を説得してディップトン男爵家のために役立つことを望んでいたようだ。
残念だけど私は説得すらしていない。
でもここは説得に失敗したことにしておく。
説得すらしていないと正直に告げたら面倒なことになるだけだから。

「失敗に終わりました。ディップトン男爵家の力にはならないと言っていました」
「くっ、生意気な」

あえて誤解を招くような表現にしてしまった。

「それにしてもルルシーは本当に役立たずだな」
「期待に沿えず申し訳ありません」
「それでもディップトン男爵家の一員として恥ずかしくないのか?」
「申し訳ありません」

私がディップトン男爵家の一員と認められていたなんて知らなかった。
ディップトン男爵家は妻という立場の人間を虐げ利用し使用人たちからも馬鹿にされるだけかと思った。

「こうなったらもうルルシーには期待しない。だが……これは厳しいぞ………」

考え込んだディクス様。
私への怒りや不満よりも現状の問題をどう乗り切るかのほうが大切なのだろう。
裏を返せばそれだけ状況は悪いということ。
ディップトン男爵家も、もう終わるのかもしれない。

今まで私を虐げてきたディクス様もディップトン男爵家ごと破滅すればいい。
悩むディクス様の姿を見て心が満たされた。
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