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第8話
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あるパーティーに参加したときのこと。
乗り気ではない私は積極的に話しかけられたくはなく、かといって壁の花になると気を利かした人が声をかけてきてしまう。
そこで目を付けたのが一人で参加している、楽しくなさそうな男性だった。
当たり障りのない話をしていたほうが目立たないし、相手も同じように考えるかもしれない。
「失礼します。楽しんでいらっしゃいますか?」
「あまり楽しめない状況でして…。お気遣い、ありがとうございます」
どういった事情があるのか、好奇心が刺激されてしまった。
「それなら一緒に会話しているように振る舞っていただいてもよろしいですか?私も積極的に楽しめない事情がありまして」
「そうでしたか。僕で良ければ」
「ありがとうございます」
パーティー会場内で目立たないために振る舞うつもりだったので積極的に会話しようとは思わなかったけど、レーヴァン様――彼はそう名乗ってくれた――が気を使ってくれてポツポツと話してくれた。
その内容は…婚約者に尽くしたのに浮気されて駆け落ちされたというものだった。
「大変でしたね」
「はい。でも気遣いは無用です。未練なんてありませんし、むしろ何を知らずに結婚していたらと思うとゾッとします」
幸いなことにレーヴァン様にとってはもう終わったことのようだった。
ここまで事情を打ち明けてくれたのだから、ルウィンのことはもう過去のものになっているし、私もレーヴァン様に打ち明けてみる。
「実は私も夫が浮気して出ていかれまして…」
「えっ、結婚されていたのですか!?」
「もう離婚しましたけど」
「そうでしたか…。まったく人を見る目の無い人だったようですね」
「ええ、そうでした」
「エラステラ嬢のことはまだあまりよくは知りませんが…エラステラ嬢に問題があるようには思えません。きっと相手が悪かったのです。責任を感じたり自分を責めたりする必要はありませんし、過去に囚われてしまっては損ですから」
「ありがとうございます。それはレーヴァン様も同じですよ」
「ふふっ、そうですね」
「ええ」
自然と笑いあえてしまった。
もしルウィンと話していれば私を気遣うようなこともなく、逆に理由を見つけて私を責めただろう。
気遣ってもらえることがこんなにも嬉しい気持ちになれるなんて知らなかった。
こういう思いやりのある人と結婚できていれば私も幸せになれたのかもしれない。
「…何か失礼なことを言ってしまいましたか?それなら謝罪します」
「いえ、過去のことを思い出してしまいまして…。レーヴァン様の責任ではありません。むしろ心配をおかけしてしまい申し訳ありませんでした」
「とんでもない。ですがせっかくの機会ですから、もっと楽しみませんか?」
「ええ」
期待していなかったけど話してみれば悪くないと思えた。
レーヴァン様のことを知ればもっと話をしたいと思えた。
パーティーが終わることにはまた会う約束を取りつけてしまった。
……こんなことになるとは思っていなかったけど、嬉しい誤算だ。
お母様への言い逃れの口実ではなく、このパーティーに参加して良かったと思えた。
レーヴァン様に出会えて良かったと思えた。
それが正直な気持ち。
乗り気ではない私は積極的に話しかけられたくはなく、かといって壁の花になると気を利かした人が声をかけてきてしまう。
そこで目を付けたのが一人で参加している、楽しくなさそうな男性だった。
当たり障りのない話をしていたほうが目立たないし、相手も同じように考えるかもしれない。
「失礼します。楽しんでいらっしゃいますか?」
「あまり楽しめない状況でして…。お気遣い、ありがとうございます」
どういった事情があるのか、好奇心が刺激されてしまった。
「それなら一緒に会話しているように振る舞っていただいてもよろしいですか?私も積極的に楽しめない事情がありまして」
「そうでしたか。僕で良ければ」
「ありがとうございます」
パーティー会場内で目立たないために振る舞うつもりだったので積極的に会話しようとは思わなかったけど、レーヴァン様――彼はそう名乗ってくれた――が気を使ってくれてポツポツと話してくれた。
その内容は…婚約者に尽くしたのに浮気されて駆け落ちされたというものだった。
「大変でしたね」
「はい。でも気遣いは無用です。未練なんてありませんし、むしろ何を知らずに結婚していたらと思うとゾッとします」
幸いなことにレーヴァン様にとってはもう終わったことのようだった。
ここまで事情を打ち明けてくれたのだから、ルウィンのことはもう過去のものになっているし、私もレーヴァン様に打ち明けてみる。
「実は私も夫が浮気して出ていかれまして…」
「えっ、結婚されていたのですか!?」
「もう離婚しましたけど」
「そうでしたか…。まったく人を見る目の無い人だったようですね」
「ええ、そうでした」
「エラステラ嬢のことはまだあまりよくは知りませんが…エラステラ嬢に問題があるようには思えません。きっと相手が悪かったのです。責任を感じたり自分を責めたりする必要はありませんし、過去に囚われてしまっては損ですから」
「ありがとうございます。それはレーヴァン様も同じですよ」
「ふふっ、そうですね」
「ええ」
自然と笑いあえてしまった。
もしルウィンと話していれば私を気遣うようなこともなく、逆に理由を見つけて私を責めただろう。
気遣ってもらえることがこんなにも嬉しい気持ちになれるなんて知らなかった。
こういう思いやりのある人と結婚できていれば私も幸せになれたのかもしれない。
「…何か失礼なことを言ってしまいましたか?それなら謝罪します」
「いえ、過去のことを思い出してしまいまして…。レーヴァン様の責任ではありません。むしろ心配をおかけしてしまい申し訳ありませんでした」
「とんでもない。ですがせっかくの機会ですから、もっと楽しみませんか?」
「ええ」
期待していなかったけど話してみれば悪くないと思えた。
レーヴァン様のことを知ればもっと話をしたいと思えた。
パーティーが終わることにはまた会う約束を取りつけてしまった。
……こんなことになるとは思っていなかったけど、嬉しい誤算だ。
お母様への言い逃れの口実ではなく、このパーティーに参加して良かったと思えた。
レーヴァン様に出会えて良かったと思えた。
それが正直な気持ち。
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