上 下
3 / 10

第3話

しおりを挟む
当主であるルウィンが不在である今、その妻である私が最高権力者として扱われる。
離婚する以上、このまま使用人を雇い続ける訳にもいかないし、どうせルウィンは財産分与なんてするつもりもないだろうから私のほうで上手くやっておく。
文句があるなら言ってくれればいい。

ということでまずは使用人たちに解雇を告げなくてはならない。
そのために使用人たちを集めさせた。

「今度ルウィンと離婚することになったわ。あなたたちには申し訳ないけど解雇することになるわ。急な話だし、その分は退職金に色をつけてあげる」

使用人たちは動揺することもなく私の言葉を聞いている。

「いつまで雇えるかは財産の処分や離婚の手続きの進み方次第だけど、いずれにせよすぐに路頭に迷うようなことはさせないから安心して。以上よ。仕事に戻って」

使用人たちは一礼し仕事に戻っていった。

使用人たちはよく働いてくれたから満足だったし、離れ離れになってしまうのは少し悲しくもある。
でも離婚は避けられず解雇もまた避けられない。
使用人たちのことを放置して私が出て行ってしまえば給金の支払いも滞るだろうし、そうなることに比べれば早いうちに解雇してしまったほうがいい。

使用人たちのためにも財源を確保しないと。
ルウィンの趣味で揃えた意味不明の絵画や古ぼけた壺も処分するし、館ごと売りに出してしまおう。
文句があれば言ってくれれば中止するけど、ルウィンは文句がないようだから問題ないわ。

その後も使用人たちに指示を出して商人を呼ぶ手配もさせた。
いくらになるかわからないけど、最悪でも館はそれなりに高く売れるはず。

* * * * * * * * * *

数日後、商人がやって来て売却予定の品々を査定してもらった。

「大変お伝えしにくいのですが、これらの品々にはほとんど価値がございません」
「そうだったの。そんな気がしていたわ」

実家と関係がある商人だから騙そうとしているとは思えなかった。
こんな価値のないものを高値で集めたルウィンは悪徳商人たちのお得意様だっただろう。
私の言葉を聞いてくれたならこんな物に大金を出すようなことはなかったのに。

もしこのまま結婚していればルウィンが浪費して借金まで作ってしまうかもしれない。
やはり早めに離婚という決断を下して間違いではなかった。

「必要なら個別の査定額も出しますがどうなさいますか?」
「貴方のことは信用しているもの。個別の査定額は不要よ。せっかくだから安く買い叩いて利益を出しなさい」

普通ならそのようなことは言われないであろう商人は驚きの表情を浮かべた。
演技のようにも思えるし、私の提案がそれだけ魅力的だと表現しているのかもしれない。
別にそういった小細工はしなくていいのに。
実家にいた頃からの付き合いだし、どうせほとんどルウィンが出した財産だから買い叩いて商人の利益にしてもらったほうがいいわ。
商人に恩も売れるし。

「お心遣い感謝いたします。それでは商品の引取りの日時と支払いですが希望はございますか?」
「後は執事と相談して」
「かしこまりました」

こうして不要品の処分も進んでいった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~

絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。

【完結】君は強いひとだから

冬馬亮
恋愛
「大丈夫、君は強いひとだから」 そう言って、あなたはわたくしに別れを告げた。 あなたは、隣でごめんなさいと涙を流す彼女の肩を抱く。 そして言うのだ。 「この子は僕が付いてないと生きていけないから」と。

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

婚約をなかったことにしてみたら…

宵闇 月
恋愛
忘れ物を取りに音楽室に行くと婚約者とその義妹が睦み合ってました。 この婚約をなかったことにしてみましょう。 ※ 更新はかなりゆっくりです。

(完結)親友の未亡人がそれほど大事ですか?

青空一夏
恋愛
「お願いだよ。リーズ。わたしはあなただけを愛すると誓う。これほど君を愛しているのはわたしだけだ」  婚約者がいる私に何度も言い寄ってきたジャンはルース伯爵家の4男だ。 私には家族ぐるみでお付き合いしている婚約者エルガー・バロワ様がいる。彼はバロワ侯爵家の三男だ。私の両親はエルガー様をとても気に入っていた。優秀で冷静沈着、理想的なお婿さんになってくれるはずだった。  けれどエルガー様が女性と抱き合っているところを目撃して以来、私はジャンと仲良くなっていき婚約解消を両親にお願いしたのだった。その後、ジャンと結婚したが彼は・・・・・・ ※この世界では女性は爵位が継げない。跡継ぎ娘と結婚しても婿となっただけでは当主にはなれない。婿養子になって始めて当主の立場と爵位継承権や財産相続権が与えられる。西洋の史実には全く基づいておりません。独自の異世界のお話しです。 ※現代的言葉遣いあり。現代的機器や商品など出てくる可能性あり。

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

処理中です...