上 下
4 / 9

第4話

しおりを挟む
「お帰りなさいませ、ダンク様。ご領主様も滞在されておられます。速やかに顔を出すように、とのことです」
「…わかった」

リーディアに婚約破棄したことは手紙で領地にいる父上に伝えておいた。
その父上が…王都にまでやってきた。
わざわざ領地から出てきたのだからただ事ではない。
速やかに顔を出せというのだから大事に決まっている。

…気が重いが行くしかない。

* * * * * * * * * *

父上が滞在した部屋に入るなり、溜め息で父上が出迎えてくれた。

「学園生活はどうだ?」
「悪くないと思います」
「そうか、それは良かった。ではリーディア嬢に婚約破棄した時のことを詳しく教えてもらおうか。嘘偽りなく」

嘘偽りなくと、あえて言ったのだから俺の手紙の内容を嘘だと考えているのだろう。
実際に俺にとって都合のいいように書いておいたのだからバレたに違いない。
ここで下手に言い訳するともっと怒られることになるだろう。
仕方ないので正直に控えめに伝えるしかない。

「リーディアから、どうして大切にしないのかと問い質されました。俺が正直に理由を告げたところ、我がターダム男爵家を侮辱され平手打ちまでされたのです。だから婚約破棄しました」
「なるほどな。それで、お前に大切に想っている女性がいるというのは事実か?」

まずい、そこまで知られていたとは。

「事実です」
「それがリーディア嬢を大切にしなかった理由なのだな?」
「……はい」
「そうか………」

素直に認めたが、父上は溜め息をつき考え込んでしまった。

「こうなってしまった以上、仕方あるまい。非はお前にあることを忘れるなよ。当然慰謝料も支払わなくてはならんし、ラールデン男爵に謝罪しなくてはならん。そこは私がしておく」
「申し訳ありませんでした」
「済んでしまったことだ。だがな、ダンクよ。このようなことは二度とするな。肝に銘じておけ」
「はい」

父上の言葉に肝を冷やしたが、この程度で済んで良かったとも思った。

忘れられない女性…デイジーのことも父上に許しを請わなくてはならない。
この流れなら婚約を認めてもらえるかもしれない。

「それで、父上、相談があるのですが…」
「何だ?」

くだらないことを言ったら承知しないぞ、と目が言っている。
だがこれは俺の婚約の問題。
父上に許可を得なくてはならない問題だ。
ここで負けてしまえばデイジーと結ばれなくなってしまう。

もうリーディアとの婚約関係は終わっている。
やっとデイジーと結ばれる前提条件が整ったのだから、このチャンスを逃す訳にはいかない。
デイジーの存在が離れていようとも俺に勇気を与えてくれる。

「デイジーとの婚約を認めてください」
「………そうか、デイジーだったのか」

また溜め息をついた父上。
デイジーと知ってがっかりしたのか?

「すぐに認めることはできない。お前が本当に反省していることが確認された時にまた考えるとしよう」
「ありがとうございます」

少なくとも拒否はされていないのだからチャンスは十分にある。
俺次第なら時間の問題ということだ。

相談して良かった。
リーディアに婚約破棄して良かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寵妃にすべてを奪われ下賜された先は毒薔薇の貴公子でしたが、何故か愛されてしまいました!

ユウ
恋愛
エリーゼは、王妃になる予定だった。 故郷を失い後ろ盾を失くし代わりに王妃として選ばれたのは後から妃候補となった侯爵令嬢だった。 聖女の資格を持ち国に貢献した暁に正妃となりエリーゼは側妃となったが夜の渡りもなく周りから冷遇される日々を送っていた。 日陰の日々を送る中、婚約者であり唯一の理解者にも忘れされる中。 長らく魔物の侵略を受けていた東の大陸を取り戻したことでとある騎士に妃を下賜することとなったのだが、選ばれたのはエリーゼだった。 下賜される相手は冷たく人をよせつけず、猛毒を持つ薔薇の貴公子と呼ばれる男だった。 用済みになったエリーゼは殺されるのかと思ったが… 「私は貴女以外に妻を持つ気はない」 愛されることはないと思っていたのに何故か甘い言葉に甘い笑顔を向けられてしまう。 その頃、すべてを手に入れた側妃から正妃となった聖女に不幸が訪れるのだった。

さよなら、英雄になった旦那様~ただ祈るだけの役立たずの妻のはずでしたが…~

遠雷
恋愛
「フローラ、すまない……。エミリーは戦地でずっと俺を支えてくれたんだ。俺はそんな彼女を愛してしまった......」 戦地から戻り、聖騎士として英雄になった夫エリオットから、帰還早々に妻であるフローラに突き付けられた離縁状。エリオットの傍らには、可憐な容姿の女性が立っている。 周囲の者達も一様に、エリオットと共に数多の死地を抜け聖女と呼ばれるようになった女性エミリーを称え、安全な王都に暮らし日々祈るばかりだったフローラを庇う者はごく僅かだった。 「……わかりました、旦那様」 反論も無く粛々と離縁を受け入れ、フローラは王都から姿を消した。 その日を境に、エリオットの周囲では異変が起こり始める。

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

伯爵令嬢は婚約者として認められたい

Hkei
恋愛
伯爵令嬢ソフィアとエドワード第2王子の婚約はソフィアが産まれた時に約束されたが、15年たった今まだ正式には発表されていない エドワードのことが大好きなソフィアは婚約者と認めて貰うため ふさわしくなるために日々努力を惜しまない

転生悪役令嬢の考察。

saito
恋愛
転生悪役令嬢とは何なのかを考える転生悪役令嬢。 ご感想頂けるととても励みになります。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

シンデレラ。~あなたは、どの道を選びますか?~

月白ヤトヒコ
児童書・童話
シンデレラをゲームブック風にしてみました。 選択肢に拠って、ノーマルエンド、ハッピーエンド、バッドエンドに別れます。 また、選択肢と場面、エンディングに拠ってシンデレラの性格も変わります。 短い話なので、さほど複雑な選択肢ではないと思います。 読んでやってもいいと思った方はどうぞ~。

処理中です...