上 下
3 / 9

第3話

しおりを挟む
ダンク様から婚約破棄されてしまったのだから、お父様に知らせない訳にはいかない。
重大な出来事だけど領地にいるお父様に直接伝えることもできないので、手紙を書いて知らせることにする。
できるだけ詳しい経緯を書いておく。
もちろん脚色したりはせずに、極力客観的な事実を伝えるようにした。

それからの学園生活は以前と変わらなかった。
ダンク様は以前から私を避けたり放置していたので、婚約関係が無くなったところで表面的には何も変わらなかった。
その事実が、やはり私は大切にされていなかったのだと私に追い討ちをかける。

過去を思い出しても辛くなるだけなので、今は前を向く。
私に勇気をくれたシャーロット様のように、何があっても堂々として、常に前向きでありたい。

* * * * * * * * * *

そのシャーロット様だけど、やはりゼーレイン殿下は何もせずにはいられなかったようだ。
学園では社交パーティーの練習のために、生徒を対象としたパーティーが定期的に開かれる。
その場での出来事だった。

「シャーロット・サーリッシュ!先日のお前の愚行を許すことはできない!婚約を破棄し、国外追放処分とする!」
「……それが王族としての言葉ですのね。わかりましたわ」

わざわざこの場で婚約破棄を告げたのだから、衆目に晒して恥をかかせる意図もあったのだろう。
でも動揺せず、事実をそのままに受け入れたシャーロット様のほうが大物に思えた。
言い訳もしないし、国外追放処分を受けても平然としているのだから、自分の行為に何の後悔もないということ。
やはりシャーロット様はすごい。
自分のことを振り返ると、少しはシャーロット様に近づけたかなと自分を褒めたくなってしまう。

「あっさりと受け入れるのだな。それだけ俺への未練もなければ愛も無かったということか」
「未練なんてありませんわ。浮気するような方への愛がどうして残っていると思われるのでしょうか?わたくしにはそれが不思議でなりませんわ」
「だから浮気なんかしていないと言っているだろう。俺を信じないのはよく理解している。お前が俺を信じようとしないこともな」
「今になって何をおっしゃろうとも関係は戻ることなんてありませんわ。もう婚約破棄なされたというのに、未練が残っていらっしゃるのは殿下のほうではございませんの?」
「くっ、やはりお前は生意気なんだ。もういい!さっさと出ていけ!」

ゼーレイン殿下に命令され、シャーロット様は公爵令嬢として完璧なカーテシーを見せ、会場の外へと向かって堂々と歩いて行った。
カーテシーも見事だったし、追放されても敗者のようには見えなかった。
むしろ最後まで見苦しい様を晒したのはゼーレイン殿下のほうだった。

やはりシャーロット様はすごい。
憧れてしまう。
国外追放処分なのだから、もう会うことはないだろう。

でも私は忘れない。
シャーロット様のようになりたいと思ったことも、勇気をもらったことも、最後まで毅然とした姿を見せてくれたことも。

「パーティーの邪魔をしてすまなかった。さあ、気分を変えて楽しんでくれ!」

ゼーレイン殿下がそう言っても会場の空気は重いままで、ゼーレイン殿下の評価を表しているように思えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お姉様は嘘つきです! ~信じてくれない毒親に期待するのをやめて、私は新しい場所で生きていく! と思ったら、黒の王太子様がお呼びです?

朱音ゆうひ
恋愛
男爵家の令嬢アリシアは、姉ルーミアに「悪魔憑き」のレッテルをはられて家を追い出されようとしていた。 何を言っても信じてくれない毒親には、もう期待しない。私は家族のいない新しい場所で生きていく!   と思ったら、黒の王太子様からの招待状が届いたのだけど? 別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n0606ip/)

なんだろう、婚約破棄の件、対等な報復を受けてもらってもいいですか?

みかみかん
恋愛
父に呼び出されて行くと、妹と婚約者。互いの両親がいた。そして、告げられる。婚約破棄。

[オリジナル原作連載]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜

小豆このか@女性向け・全作品
恋愛
 王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。 そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。

告白されてもうれしくない

Rj
恋愛
いつも友人のケビンの恋ばなを聞かされてきたステイシー。ケビンが同僚のポーラに失恋したとたん、ケビンから好きだと告白される。ずっとケビンから好きだといわれる瞬間をまっていたステイシーだが、わきおこったのは怒りのみ。告白されても嬉しくないなんて。 一話完結だったものに一話加え全二話になりました。(3/11変更)

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

妹ばかりを贔屓し溺愛する婚約者にウンザリなので、わたしも辺境の大公様と婚約しちゃいます

新世界のウサギさん
恋愛
わたし、リエナは今日婚約者であるローウェンとデートをする予定だった。 ところが、いつになっても彼が現れる気配は無く、待ちぼうけを喰らう羽目になる。 「私はレイナが好きなんだ!」 それなりの誠実さが売りだった彼は突如としてわたしを捨て、妹のレイナにぞっこんになっていく。 こうなったら仕方ないので、わたしも前から繋がりがあった大公様と付き合うことにします!

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

【完結】妹が旦那様とキスしていたのを見たのが十日前

地鶏
恋愛
私、アリシア・ブルームは順風満帆な人生を送っていた。 あの日、私の婚約者であるライア様と私の妹が濃厚なキスを交わすあの場面をみるまでは……。 私の気持ちを裏切り、弄んだ二人を、私は許さない。 アリシア・ブルームの復讐が始まる。

処理中です...