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第2話
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その日のうちに私は行動に出た。
暇そうにしているダンク様の姿があったので都合が良かった。
「ダンク様、ちょっとよろしいですか」
「なんだよ、俺は用なんてないぞ」
「私の用があります」
「ちっ、手早く済ませろよ」
「ありがとうございます。では…」
私の胸にはシャーロット様から頂いた勇気がある。
「どうして私を大切にしてくださらないのですか?」
言ってしまった。
もしかしたら私とダンク様の関係を決定的に変えてしまうかもしれない言葉を。
ダンク様は私の雰囲気に気圧されたのか、あるいは観念したのか、少し迷ったような後に口を開いた。
「忘れられない人がいるんだ」
ああ、と納得できてしまった。
忘れられないというのは婚約しても私ではない女性のことが未だに好きということ。
だから私との関係を良好にする気もなく、私を避けたり放置したりするのも当たり前のことだった。
半端な態度が私を傷つけてもダンク様にとっては気にするようなものではないのだろう。
だって私は妥協で選ばれた、そもそも愛するつもりもない婚約者だもの。
そこまで忘れられない相手は一体どういった人なのだろう?
「誰なのですか?」
「…ずっと昔から知っている人だよ」
「そう……」
ダンク様の交遊関係を全部把握している訳でもないし、学園に通うようになってからもダンク様の周囲に女性の気配は無かった。
きっと領地にいるのだろう。
年下かもしれないし、平民なのかもしれない。
でも、そういった理由があっても私は婚約者だ。
婚約者を蔑ろにするのは許されない行為。
「ターダム男爵家では婚約者を蔑ろにするよう教えているのですか?」
「そんなはずあるか!」
「声を荒げないでください。都合が悪くなったら怒鳴って相手を言い負かせようとするのですか?そんなことして恥ずかしくないのですか?」
「くっ…」
私は間違ったことなんて言っていないし、今までずっと間違った行為をしてきたのはダンク様のほう。
「それよりもこれからどうするのですか?そんな曖昧な態度だと私も困ります」
「…だが婚約は簡単に解消できない」
「これからもずっと忘れられない人への想いを捨てないつもりなのですか?」
「そうとは言ってない」
「それなら早く気持ちに決着をつけてください。私は婚約者なのですから。婚約者を蔑ろにするのはもうやめてください」
「そんな簡単な問題じゃないんだ!」
ダンク様は忘れられない相手への気持ちを捨てられないようだ。
それだけ相手のことが好きなのだろう。
私なんかよりも、ずっと。
きっとこれからも、ずっと。
都合良くキープされるような扱いは嫌。
そんなの私への侮辱だ。
今までの私への態度も許せない。
…思い返せば思い返すほどにダンク様への怒りが湧いてくる。
だから私はダンク様の目を覚まさせたい。
シャーロット様がしたように、私も目を覚まさせたい。
私は息を吸い、覚悟を決める。
パシッと音が響いた。
私がダンク様の頬に平手打ちした音だ。
ダンク様は頬に手を当て、目を見開き無言のまま私を見ていた。
その静寂を破ったのは意外なものだった。
「ぷっ、女性にぶたれてやがんの。ダンクは情けないな~」
いつの間にかに見られていた。
しかもダンク様の友人の一人に。
いくら友人といっても、このような情けない姿を見られればダンク様のプライドが許さないだろう。
「こんなことして許されると思うなよ!」
「許されない行為をしたのはダンク様のほうですよ。逆ギレして恥ずかしくないのですか?」
「なっ、生意気だぞ!」
「ですから、それを逆ギレというのです」
「くそっ、もう許さないぞ!リーディア!お前との婚約を破棄する!」
やはりこうなってしまった。
でもショックは無かった。
今まで大切にされてこなかったのだから当然だし、愛情が冷めるには十分すぎるほどの時間があった。
「ふふん、謝っても許さないぞ」
ダンク様は何をいい気になっているのだろうか。
婚約破棄なんかで私に勝ったとでも考えているのだろうか。
ダンク様が急に強気になったように感じたけど、ご友人の手前、弱気ではいられなかったのかもしれない。
自分の非を認められないなんて器が小さい。
結局何から何まで全部がダンク様とは相性が悪かったのだろう。
でも不毛な関係ももう終わりだと思えば気持ちも前向きになる。
「別に謝る気はありません。もう婚約者ではなくなったのですからダンク様に付き合う必要はありませんよね?私は失礼します」
「ははっ、清々したよ。最初から婚約なんてしなければ良かったんだ」
これ以上ダンク様に付き合っても不毛なので、私はダンク様を無視して去ることにした。
ダンク様がご友人と何か話している声が聞こえたけど、私は気にすることもなく去った。
暇そうにしているダンク様の姿があったので都合が良かった。
「ダンク様、ちょっとよろしいですか」
「なんだよ、俺は用なんてないぞ」
「私の用があります」
「ちっ、手早く済ませろよ」
「ありがとうございます。では…」
私の胸にはシャーロット様から頂いた勇気がある。
「どうして私を大切にしてくださらないのですか?」
言ってしまった。
もしかしたら私とダンク様の関係を決定的に変えてしまうかもしれない言葉を。
ダンク様は私の雰囲気に気圧されたのか、あるいは観念したのか、少し迷ったような後に口を開いた。
「忘れられない人がいるんだ」
ああ、と納得できてしまった。
忘れられないというのは婚約しても私ではない女性のことが未だに好きということ。
だから私との関係を良好にする気もなく、私を避けたり放置したりするのも当たり前のことだった。
半端な態度が私を傷つけてもダンク様にとっては気にするようなものではないのだろう。
だって私は妥協で選ばれた、そもそも愛するつもりもない婚約者だもの。
そこまで忘れられない相手は一体どういった人なのだろう?
「誰なのですか?」
「…ずっと昔から知っている人だよ」
「そう……」
ダンク様の交遊関係を全部把握している訳でもないし、学園に通うようになってからもダンク様の周囲に女性の気配は無かった。
きっと領地にいるのだろう。
年下かもしれないし、平民なのかもしれない。
でも、そういった理由があっても私は婚約者だ。
婚約者を蔑ろにするのは許されない行為。
「ターダム男爵家では婚約者を蔑ろにするよう教えているのですか?」
「そんなはずあるか!」
「声を荒げないでください。都合が悪くなったら怒鳴って相手を言い負かせようとするのですか?そんなことして恥ずかしくないのですか?」
「くっ…」
私は間違ったことなんて言っていないし、今までずっと間違った行為をしてきたのはダンク様のほう。
「それよりもこれからどうするのですか?そんな曖昧な態度だと私も困ります」
「…だが婚約は簡単に解消できない」
「これからもずっと忘れられない人への想いを捨てないつもりなのですか?」
「そうとは言ってない」
「それなら早く気持ちに決着をつけてください。私は婚約者なのですから。婚約者を蔑ろにするのはもうやめてください」
「そんな簡単な問題じゃないんだ!」
ダンク様は忘れられない相手への気持ちを捨てられないようだ。
それだけ相手のことが好きなのだろう。
私なんかよりも、ずっと。
きっとこれからも、ずっと。
都合良くキープされるような扱いは嫌。
そんなの私への侮辱だ。
今までの私への態度も許せない。
…思い返せば思い返すほどにダンク様への怒りが湧いてくる。
だから私はダンク様の目を覚まさせたい。
シャーロット様がしたように、私も目を覚まさせたい。
私は息を吸い、覚悟を決める。
パシッと音が響いた。
私がダンク様の頬に平手打ちした音だ。
ダンク様は頬に手を当て、目を見開き無言のまま私を見ていた。
その静寂を破ったのは意外なものだった。
「ぷっ、女性にぶたれてやがんの。ダンクは情けないな~」
いつの間にかに見られていた。
しかもダンク様の友人の一人に。
いくら友人といっても、このような情けない姿を見られればダンク様のプライドが許さないだろう。
「こんなことして許されると思うなよ!」
「許されない行為をしたのはダンク様のほうですよ。逆ギレして恥ずかしくないのですか?」
「なっ、生意気だぞ!」
「ですから、それを逆ギレというのです」
「くそっ、もう許さないぞ!リーディア!お前との婚約を破棄する!」
やはりこうなってしまった。
でもショックは無かった。
今まで大切にされてこなかったのだから当然だし、愛情が冷めるには十分すぎるほどの時間があった。
「ふふん、謝っても許さないぞ」
ダンク様は何をいい気になっているのだろうか。
婚約破棄なんかで私に勝ったとでも考えているのだろうか。
ダンク様が急に強気になったように感じたけど、ご友人の手前、弱気ではいられなかったのかもしれない。
自分の非を認められないなんて器が小さい。
結局何から何まで全部がダンク様とは相性が悪かったのだろう。
でも不毛な関係ももう終わりだと思えば気持ちも前向きになる。
「別に謝る気はありません。もう婚約者ではなくなったのですからダンク様に付き合う必要はありませんよね?私は失礼します」
「ははっ、清々したよ。最初から婚約なんてしなければ良かったんだ」
これ以上ダンク様に付き合っても不毛なので、私はダンク様を無視して去ることにした。
ダンク様がご友人と何か話している声が聞こえたけど、私は気にすることもなく去った。
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