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第1話
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男爵家の婚約者探しはそれほど難しくはない。
どうせ高望みしたところで叶わないだろうし、程々のところで妥協しなくてはならない。
そう、妥協なのだ。
お互いに妥協。
私と婚約することになったダンク・ターダム様は私と同じ男爵家の者。
ただしダンク様は嫡男なので将来は爵位を継ぐことになる。
妥協のはずが幸運に恵まれた。
下手すれば跡継ぎにもなれない相手と婚約することになっていたので、素直に喜んでしまった。
でもそれは私が一人舞い上がっていただけ。
ダンク様と会うことになり不安よりも期待のほうが大きかったけど、実際に会ってみて、ダンク様は婚約に乗り気でなかったことを知り悲しくなってしまった………。
私にとっては幸運だったかもしれないけど、ダンク様にとっては妥協だったのかもしれない。
私たちの婚約関係はまだ始まったばかり。
最初に躓いてしまっても、まだまだどうなるかはわからない。
せっかく縁があったのだから、できれば良い縁となり二人で幸せな日々を送りたい。
私はダンク様の大切な存在になれるようにがんばる!
私たちは隣り合う領地なのだから会う機会も少なくはない。
それに貴族学園に通うようになればダンク様と過ごす時間は大幅に増えることになる。
時間はあるしチャンスもあるはず。
きっとダンク様は私を大切に想ってくれるはず!
* * * * * * * * * *
私の努力は全てが無駄に終わった。
ダンク様に会い、ダンク様の気持ちを知るほどに悲しくなってしまう現実があった。
私が何をしてもダンク様の気持ちは変わることなく、むしろ逆に疎ましく思われてしまったようだった。
そのような良くない状況のまま、私たちは貴族学園に通う年齢になった。
住まいを王都へと移し、貴族学園ではダンク様と触れ合う時間も増えたけど、触れ合うというよりも気持ちがすれ違うばかりだった。
婚約者なのに大切にされない。
むしろ露骨に避けられたり放置されている。
私は希望を失いかけ、どうすればいいのか悩んだ。
そして、私の未来を変えるかもしれない出来事に遭遇した。
王族であるゼーレイン殿下、その婚約者である公爵令嬢のシャーロット様。
二人の知名度も影響力も圧倒的で、私のような男爵令嬢にとっては雲の上のような存在。
その二人が修羅場を迎えていた。
「浮気するなんて酷いですわ!」
「違うんだ、誤解だ。話を聞いてくれ、シャーロット」
「そうやって言い訳するなんて、反省なされておられないのですね」
「だから話を――」
パシッ、と音が響いた。
シャーロット様がゼーレイン殿下に平手打ちしたのだ。
王族相手にそのような振る舞いをしていいのかと、見ている私のほうがドキドキしてしまった。
それと同時にシャーロット様の行為も精神も立派だと思ってしまった。
相手が誰であれ、理不尽な扱いを甘んじて受け入れる必要はない。
私にとっては目から鱗が落ちる経験だった。
私はダンク様に大切にしてもらおうと振る舞ったけど、それを全部無下にしてきたのはダンク様。
私は悪くないのだから、ダンク様にも目を覚まさせるためにシャーロット様のように平手打ちをするのもいいのかもしれない。
シャーロット様の行為に、信じられないといったように呆然としているゼーレイン殿下。
私もシャーロット様に目を覚まさせられた気分だった。
「このようなことをして許されると思うなよ!」
「後悔はしません。私は何ら間違ったことをしていませんから」
「くっ、生意気な!」
堂々としているシャーロット様と、噛みつかんばかりに抗議の言葉を発するゼーレイン殿下。
どちらが勝者なのかは明らかだった。
シャーロット様は行動したから勝者になれた。
だから私もダンク様に対し、もっと積極的な行動に出たほうがいい。
私はシャーロット様に勇気をもらった。
この勇気、無駄にはしない。
どうせ高望みしたところで叶わないだろうし、程々のところで妥協しなくてはならない。
そう、妥協なのだ。
お互いに妥協。
私と婚約することになったダンク・ターダム様は私と同じ男爵家の者。
ただしダンク様は嫡男なので将来は爵位を継ぐことになる。
妥協のはずが幸運に恵まれた。
下手すれば跡継ぎにもなれない相手と婚約することになっていたので、素直に喜んでしまった。
でもそれは私が一人舞い上がっていただけ。
ダンク様と会うことになり不安よりも期待のほうが大きかったけど、実際に会ってみて、ダンク様は婚約に乗り気でなかったことを知り悲しくなってしまった………。
私にとっては幸運だったかもしれないけど、ダンク様にとっては妥協だったのかもしれない。
私たちの婚約関係はまだ始まったばかり。
最初に躓いてしまっても、まだまだどうなるかはわからない。
せっかく縁があったのだから、できれば良い縁となり二人で幸せな日々を送りたい。
私はダンク様の大切な存在になれるようにがんばる!
私たちは隣り合う領地なのだから会う機会も少なくはない。
それに貴族学園に通うようになればダンク様と過ごす時間は大幅に増えることになる。
時間はあるしチャンスもあるはず。
きっとダンク様は私を大切に想ってくれるはず!
* * * * * * * * * *
私の努力は全てが無駄に終わった。
ダンク様に会い、ダンク様の気持ちを知るほどに悲しくなってしまう現実があった。
私が何をしてもダンク様の気持ちは変わることなく、むしろ逆に疎ましく思われてしまったようだった。
そのような良くない状況のまま、私たちは貴族学園に通う年齢になった。
住まいを王都へと移し、貴族学園ではダンク様と触れ合う時間も増えたけど、触れ合うというよりも気持ちがすれ違うばかりだった。
婚約者なのに大切にされない。
むしろ露骨に避けられたり放置されている。
私は希望を失いかけ、どうすればいいのか悩んだ。
そして、私の未来を変えるかもしれない出来事に遭遇した。
王族であるゼーレイン殿下、その婚約者である公爵令嬢のシャーロット様。
二人の知名度も影響力も圧倒的で、私のような男爵令嬢にとっては雲の上のような存在。
その二人が修羅場を迎えていた。
「浮気するなんて酷いですわ!」
「違うんだ、誤解だ。話を聞いてくれ、シャーロット」
「そうやって言い訳するなんて、反省なされておられないのですね」
「だから話を――」
パシッ、と音が響いた。
シャーロット様がゼーレイン殿下に平手打ちしたのだ。
王族相手にそのような振る舞いをしていいのかと、見ている私のほうがドキドキしてしまった。
それと同時にシャーロット様の行為も精神も立派だと思ってしまった。
相手が誰であれ、理不尽な扱いを甘んじて受け入れる必要はない。
私にとっては目から鱗が落ちる経験だった。
私はダンク様に大切にしてもらおうと振る舞ったけど、それを全部無下にしてきたのはダンク様。
私は悪くないのだから、ダンク様にも目を覚まさせるためにシャーロット様のように平手打ちをするのもいいのかもしれない。
シャーロット様の行為に、信じられないといったように呆然としているゼーレイン殿下。
私もシャーロット様に目を覚まさせられた気分だった。
「このようなことをして許されると思うなよ!」
「後悔はしません。私は何ら間違ったことをしていませんから」
「くっ、生意気な!」
堂々としているシャーロット様と、噛みつかんばかりに抗議の言葉を発するゼーレイン殿下。
どちらが勝者なのかは明らかだった。
シャーロット様は行動したから勝者になれた。
だから私もダンク様に対し、もっと積極的な行動に出たほうがいい。
私はシャーロット様に勇気をもらった。
この勇気、無駄にはしない。
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