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第7話

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待ちに待った医師の診断の結果がもたらされたけど、やはりというべきものだった。

「仮病、ですか?」
「ああ」

ヴァローナ様が病弱だというのは嘘で、そう自称していただけだった。
医師の診断の結果は体に問題はなく、ただ平気で嘘をつき、そのことを本人は何も悪いことだとは思っていないという。
他人から注目されたり大事にされたり、あるいは周囲を振り回して反応を楽しむようなことをするらしい。

私が嫌がらせしていると嘘をついたのも、フロイデンを奪おうとしたのも、全て納得できてしまった。

「ヴァローナも私に害をなす存在だったのね……。ふざけたことをしてくれたわ」
「まったくだな。だが直接何かされた訳ではないから慰謝料の請求はできん。だがバードナー男爵に何もしないというのも気が済まんだろう?」
「そうですね。でも何か良い案でもあるのですか?」
「直接やり返す大義がないから直接は何もできない。だが間接的にはできるだろう。今回医師を手配するにあたってバードナー男爵が飲んだ条件は覚えているか?」
「病気の原因や診察結果を公表するというものでしたよね?」
「そうだ。仮病が明らかになり虚言癖まで明らかにされるのだ。信用は地に落ちヴァローナもバードナー男爵も致命的なことになるかもしれん。それにな、有名な医師は引く手数多だ。仮病のせいで診療を受けられなかった者たちはどう考える?」
「すごく恨むでしょうね」
「そうだ。後は恨んだ者たちが勝手に何かするだろう」

バードナー男爵家は信用を失っただけではなく恨みまで買ってしまうなんて。
当家は手を汚すこともなく手間をかける必要すらもない。
さすがお父様だと思った。

「ヴァローナも愚かなことをしたものだな。たかが仮病で一家を破滅に追い込んでしまうのだからな」
「そうですね」

フロイデンを唆して私に婚約破棄するようにしたのかもしれないけど、その件でヴァローナを恨んではいない。
フロイデンと別れられたことの感謝の気持ちは医師の手配で十分すぎるほど返したし、病気の原因や結果の公表はバードナー男爵も了承してのことだから私は悪くない。
ヴァローナがどうなろうとも私が気に病む必要はないのだ。
ヴァローナが恨みを買おうが自業自得。

「ルミーネの気持ちは晴れたか?」
「はい、十分に晴れました」
「そうか、それなら良かった」

私が手出しするのはもう十分だ。
後は勝手に没落するなり破滅するなりするだろう。
でもそれはヴァローナやフロイデンがしたことの結果だもの。

後は二人が仲良く破滅に向かって転がり落ちていく様を見させてもらう。

「今回の件で薬草の利権は得られた。これで薬師への影響力が強まり医師への影響力も強まるだろう。後はルミーネの幸せだな。今度は政略結婚なんて考えずに好きに相手を決めてほしい。今度こそ幸せになれる相手と婚約してほしい」
「ありがとうございます、お父様」

家のためだからフロイデンとの婚約を我慢したけど、もう十分すぎるほど家への利益をもたらすことができた。
それこそ結婚して影響力を強めるよりも、もっと強い影響力を手に入れたのだし、私に求められた役割以上の結果を出せた。
だから次の相手は好きに選んでいいというのも当然だと思う。

と言っても良い相手となんてそう簡単に巡り会えるとも思えないけど。
それよりもフロイデンとヴァローナがどうなっていくかのほうが気になってしまう。
私をコケにした二人だから、落ちぶれていく姿を見守ってあげたい。
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