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第5話

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フロイデンから一方的に婚約破棄された以上、私に非がないことを明らかにするためにもロスコーラー子爵家に慰謝料を支払わせないといけない。
交渉は全部お父様任せにしたけど、朗報がもたらされた。

「慰謝料として薬草に関する権利を全部得てきたぞ。売るも売らないも当家次第だ。ロスコーラー子爵家は薬草の価値を理解していなかったようだったから楽勝だったぞ」
「それは何よりです」

ロスコーラー子爵家は薬草の産地であるのに価値を理解できていなかった。
価値を知っている当家なら有効活用できるし、そのために婚約したけど、結果的にフロイデンと婚約なんていう罰みたいな関係は解消されたし、当初の目的だった薬草も手にすることができた。
これ以上ないくらいの結果なので、お父様の表情が緩むのも納得できた。

「それにバードナー男爵にも会ってきた。ヴァローナ嬢の病気の診療のため、医師を派遣すると言ったら飛びついてきたぞ。そこも交渉で薬草の権利を得ることができた」
「それは…お見事です」

ロスコーラー子爵領とバードナー男爵領は隣同士なので気候も似ている。
薬草の産地はそれら両領が有名なので、これで両方を当家が抑えたことになる。

有名な医師に診てもらうのは男爵程度では無理だろうし、その対価としては悪くない。
医師に伝手のある当家だからできる方法だけど。

これでヴァローナ様が本当に病気なのかの真偽も明らかになるし、その結果がどうなろうと当家は薬草の権利を有したのだから十分な利益は得られた。
まるで全てが上手くいくかのように思えた。
それなら私がフロイデンと婚約して無駄に過ごした時間も報われるというもの。

「速やかに医師の手配を済ませても診療の結果が出るまで時間がかかるだろう。ヴァローナ嬢をどうするかはまだしばらく保留することになる」
「はい」

薬草の利権を手にした今、ヴァローナ様の病気が本当であれ嘘であれ、どうでも良くなってきてしまった。
直接の恨みはないし、あのフロイデンを唆してくれたなら感謝してもいいくらい。
そのお礼を医師の手配で済ませたと考えれば貸し借りのような変な負担もしなくていい。

全てが順調に思えた。

「それにしても価値を知らないとは恐ろしいものだな。ロスコーラー子爵領もバードナー男爵領も薬草以外には特筆するようなものはないだろう。他領へ売るものがなければ他領から買う金もなくなるだろう。両家共々先はジリ貧だな」
「そうですね」
「ルミーネが味わった苦しみに比べれば生温いか?」
「いえ、長期的に苦しむのであれば十分かと」

適度にブレーキをかけてあげないとお父様が徹底的にやってしまうかもしれない。
せっかく手に入れた薬草の利権だって領地が荒れてしまえば悪影響が及ぶかもしれない。
だからやりすぎは良くない。

せいぜい薬草を有効活用して愚かな判断をしたと後悔させてあげればいい。
でも…それを理解できるほどの頭があるだろうか?
あのフロイデンだから無理な気がしてきた………。
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