破滅はどうぞお一人で。貴方を捨てて私は幸せになります。

田太 優

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第6話

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今度は軟禁ではなく牢屋に入れられた。
ジメジメした不快な環境は健康に悪そうだ。
食事も臭くて薄いスープに固いパン。
これがワドリー男爵家の次男である俺への扱いなのか?

「不当な扱いだ!改善を要求する!」
「うるさいぞ!罪人は黙ってろ!」
「俺は罪人ではない!勝手に罪を決めるな!」
「脱獄は重罪だ!」

無駄な会話だった。
所詮見張りなんて下っ端の役割だろう。
もっと偉い立場の人間に訴えなければ無意味だ。
だからチャンスを待つ。

* * * * * * * * * *

偉いのかは不明だが、いつぞやの騎士、確か名前はレオールだったか?
そのレオールが俺の様子を見に来た。

「いつまで俺をこんなところに閉じ込めておくつもりなんだ?」
「……そう遠くないうちに出られるだろう」
「本当だな?言質を取ったぞ?」
「確定はしていない。だが、口添えならできる。しておいてやろう」
「ふふふ、殊勝な心掛けだな。褒めてやろう」

せっかく俺が褒めてやったというのに、レオールは溜め息をついていた。

「…本当に愚かなのだな」
「侮辱するのか?」
「ナーディー、お前に待っているのは処刑だ」
「嘘だろう?さっきここから出すと言ったな?嘘だったのか?」
「嘘ではない。処刑されるなら牢屋から出さなければならないだろう?」

レオールの顔が醜く歪む。

「…そんなに俺を苦しめたいのか?俺を苦しめて楽しいか?」
「そんなことはない。ただ、お前が処刑されれば世の中が少しだけ良くなるだろうと思っただけだ」
「くっ…。だがロザリンはどうなる?ロザリンの指示で俺は罪を犯したんだ!ロザリンだって罪を問われるはずだ!」

レオールは深く溜め息をついた。

「やれやれ、本当に何も知らないんだな。ロザリン様は騎士団に協力してくれたから無実は明らかだ。処刑されるのはナーディー、お前だけだ」
「何だと……」

その時、俺に天才的な閃きが舞い降りた。

「そうか、ロザリンと一緒に俺を嵌めたのか。あんな女のどこがいいんだ?」
「………お前には死んでも理解できないだろう」

そう言うとレオールは立ち去ろうとした。

「おい、逃げるのか?」
「くだらない時間を過ごすのはもうやめる。お前はせいぜい処刑に脅えていろ」
「くそっ、処刑なんて酷いぞ!そんな重い罪を…」

そういえば脱獄は重罪だと言われていた。
軟禁されていた部屋に鍵がかかっていないと教えたのはレオールだ。
…最初から俺の罪を重くするために誘導したというのか!?

「俺が邪魔だったのか。だがロザリンのどこがいいんだ?あんな地味で女としての魅力に欠けるような奴を選んだところでつまらない人生を送るだけだぞ」

レオールの返事は無かった。

* * * * * * * * * *

それからレオールが姿を見せることは無かった。
それどころか俺に面会にやってくる者もいなかった。

出された食事を食べ、何もせずに過ごす日々。
だがしかし、そのような日々に終わりを告げられた。

「死刑囚ナーディー。これより刑を執行する」
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