破滅はどうぞお一人で。貴方を捨てて私は幸せになります。

田太 優

文字の大きさ
上 下
3 / 8

第3話

しおりを挟む
レオール様との出会いは一ヶ月くらい前のことだった。
一人の騎士がオースタン男爵邸を訪ねてきたことが始まりだった。

* * * * * * * * * *

使用人によると、オースタン男爵邸を訪ねてきた騎士が私に用があるらしく、私は応接室へ向かった。
私は騎士の知り合いはいないし、騎士がわざわざオースタン男爵邸を訪ねてくる理由に心当たりもない。
私にはナーディーという婚約者がいるのだから婚約の申し込みということもないと思う。
とにかく会ってみないことには用件もわからないし、考えても無駄だろう。

「お待たせしました、ロザリン・オースタンです」
「急な訪問に応じていただき感謝します。騎士のレオール・リールです。主に不正に対する取り締まりを担当しています」

レオール様は私よりも少し年上のようで、頼りないナーディーとは違って風格を感じさせるものだった。
丁寧な態度だけど目は真剣で、きっと私のことを見極めようとしているのだと思ってしまった。
私は不正なんてしていないし、騎士団が関係するような不正と縁があるとも思えない。

「ナーディー様のことについてお話を聞かせていただきたく思いますが、よろしいでしょうか?」
「はい、何なりと。私に答えられるものであるなら」
「単刀直入に言います。ナーディー様は不正…横領している疑いがあります」

ナーディーがそんなことをする度胸なんて無いと思ったけど、何の根拠もなく騎士様が不正と断定するはずがない。
ナーディーの不正は事実で、私の関与や不正の兆候について訊きたいのではないかと察した。

「そうだったのですね」
「随分と冷静に受け止められるのですね」
「レオール様が嘘をおっしゃるとも思えません。事実は事実として受け止めただけです」
「失礼ですが、ナーディー様は婚約者ですよね?婚約者が罪人になればロザリン様にも影響が及ぶかもしれません」
「まず、私はナーディーの不正については何も知りません。今知りました。動機も知りませんし心当たりもありません。それに…」

言っていて気付いてしまった。

「私はナーディーのこと、愛していなかったのだと。だから驚きもしなければ悲しくもなかったのでしょう。きっと婚約関係を終わらせたかったのだと思います」
「そうでしたか……」

私の発言が予想外だったのか、レオール様が悩んでしまったようだった。

「それなら婚約破棄すべきでしょう。ナーディー様の罪が確定する前に。罪が確定してしまった後よりも影響は少ないと思います」
「ありがとうございます。ナーディーの罪は明らかなのですね?いつ頃捕まえる予定なのかお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「さすがにそれはお伝えできません。ですが…」

訊いてしまってから無理な提案だと気付いてしまった。
そのようなことを提案したところで困らせてしまうだけなのに。
わがままな男爵令嬢が騎士を困らせる構図になってしまった。

「ロザリン様もナーディー様の逮捕に協力していただけませんか?そうすれば協力者として情報を提供できると思います」
「力になれるのであれば、できる限り協力したいと思います」
「それは助かります。よろしくお願いします」

レオール様の提案にも驚かされてしまった。
私の提案を受け入れつつも騎士団にとって利益のあるものだ。
機転が利くのも日々悪い人たちを相手にしているからだろうか。

これは私の意思で決めたこと。
どのような結果になろうともレオール様の提案に乗せられたなんて言い訳したりはしないし責任転嫁もしない。
ナーディーに引導を渡すために何かできるならしたほうがいいと思えたので、自分の選択は正しいのだと信じたい。

後日、改めてレオール様と打ち合わせし、ナーディーの逮捕の大まかな流れと、私がどう協力するかを話し合った。

何も知らないのはナーディーだけ。
私が婚約破棄を告げる意思は固く、ナーディーが何を言おうが婚約破棄は絶対にする。
ナーディーのことだから暴力に訴えるようなことはしないだろうけど、とんでもないことを言い出す可能性は考えられる。
何をしても無駄だけど。

いくつかパターンは想定されているけど、どれも騎士たちがいつでも助けに来られるようになっている。
ナーディーが私に何か言ってくるなら茶番に付き合ってあげてもいい。
どうせもうナーディーは終わるのだから。
私の人生を無駄に費やさせた責任を少しは取ってもらわないと。
そうしないと私の気持ちが治まらないから。

* * * * * * * * * *

そのような事もあったけど、先手を打って十分に準備できたことで、無事に私とナーディーの関係は終わらせられた。
レオール様の協力には本当に感謝しているし、レオール様のように頼りがいのある人が婚約者だったら良かったと思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染を溺愛する旦那様の前から、消えてあげることにします

新野乃花(大舟)
恋愛
「旦那様、幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

令嬢は大公に溺愛され過ぎている。

ユウ
恋愛
婚約者を妹に奪われた伯爵家令嬢のアレーシャ。 我儘で世間知らずの義妹は何もかも姉から奪い婚約者までも奪ってしまった。 侯爵家は見目麗しく華やかな妹を望み捨てられてしまう。 そんな中宮廷では英雄と謳われた大公殿下のお妃選びが囁かれる。

婚約破棄されるのらしいで、今まで黙っていた事を伝えてあげたら、婚約破棄をやめたいと言われました

新野乃花(大舟)
恋愛
ロベルト第一王子は、婚約者であるルミアに対して婚約破棄を告げた。しかしその時、ルミアはそれまで黙っていた事をロベルトに告げることとした。それを聞いたロベルトは慌てふためき、婚約破棄をやめたいと言い始めるのだったが…。

婚約破棄された令嬢のささやかな幸福

香木陽灯(旧:香木あかり)
恋愛
 田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。  しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。 「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」  婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。  婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。  ならば一人で生きていくだけ。  アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。 「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」  初めての一人暮らしを満喫するアリシア。  趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。 「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」  何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。  しかし丁重にお断りした翌日、 「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」  妹までもがやってくる始末。  しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。 「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」  家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。

完結 穀潰しと言われたので家を出ます

音爽(ネソウ)
恋愛
ファーレン子爵家は姉が必死で守って来た。だが父親が他界すると家から追い出された。 「お姉様は出て行って!この穀潰し!私にはわかっているのよ遺産をいいように使おうだなんて」 遺産などほとんど残っていないのにそのような事を言う。 こうして腹黒な妹は母を騙して家を乗っ取ったのだ。 その後、収入のない妹夫婦は母の財を喰い物にするばかりで……

【7話完結】婚約破棄?妹の方が優秀?あぁそうですか・・・。じゃあ、もう教えなくていいですよね?

西東友一
恋愛
昔、昔。氷河期の頃、人々が魔法を使えた時のお話。魔法教師をしていた私はファンゼル王子と婚約していたのだけれど、妹の方が優秀だからそちらと結婚したいということ。妹もそう思っているみたいだし、もう教えなくてもいいよね? 7話完結のショートストーリー。 1日1話。1週間で完結する予定です。

捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?

ミィタソ
恋愛
「みんな聞いてくれ! 今日をもって、エルザ・ローグアシュタルとの婚約を破棄する! そして、その妹——アイリス・ローグアシュタルと正式に婚約することを決めた! 今日という祝いの日に、みんなに伝えることができ、嬉しく思う……」 ローグアシュタル公爵家の長女――エルザは、マクーン・ザルカンド王子の誕生日記念パーティーで婚約破棄を言い渡される。 それどころか、王子の横には舌を出して笑うエルザの妹――アイリスの姿が。 傷心を癒すため、父親の勧めで隣国へ行くのだが……

なにをおっしゃいますやら

基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。 エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。 微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。 エブリシアは苦笑した。 今日までなのだから。 今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

処理中です...