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第3話
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レオール様との出会いは一ヶ月くらい前のことだった。
一人の騎士がオースタン男爵邸を訪ねてきたことが始まりだった。
* * * * * * * * * *
使用人によると、オースタン男爵邸を訪ねてきた騎士が私に用があるらしく、私は応接室へ向かった。
私は騎士の知り合いはいないし、騎士がわざわざオースタン男爵邸を訪ねてくる理由に心当たりもない。
私にはナーディーという婚約者がいるのだから婚約の申し込みということもないと思う。
とにかく会ってみないことには用件もわからないし、考えても無駄だろう。
「お待たせしました、ロザリン・オースタンです」
「急な訪問に応じていただき感謝します。騎士のレオール・リールです。主に不正に対する取り締まりを担当しています」
レオール様は私よりも少し年上のようで、頼りないナーディーとは違って風格を感じさせるものだった。
丁寧な態度だけど目は真剣で、きっと私のことを見極めようとしているのだと思ってしまった。
私は不正なんてしていないし、騎士団が関係するような不正と縁があるとも思えない。
「ナーディー様のことについてお話を聞かせていただきたく思いますが、よろしいでしょうか?」
「はい、何なりと。私に答えられるものであるなら」
「単刀直入に言います。ナーディー様は不正…横領している疑いがあります」
ナーディーがそんなことをする度胸なんて無いと思ったけど、何の根拠もなく騎士様が不正と断定するはずがない。
ナーディーの不正は事実で、私の関与や不正の兆候について訊きたいのではないかと察した。
「そうだったのですね」
「随分と冷静に受け止められるのですね」
「レオール様が嘘をおっしゃるとも思えません。事実は事実として受け止めただけです」
「失礼ですが、ナーディー様は婚約者ですよね?婚約者が罪人になればロザリン様にも影響が及ぶかもしれません」
「まず、私はナーディーの不正については何も知りません。今知りました。動機も知りませんし心当たりもありません。それに…」
言っていて気付いてしまった。
「私はナーディーのこと、愛していなかったのだと。だから驚きもしなければ悲しくもなかったのでしょう。きっと婚約関係を終わらせたかったのだと思います」
「そうでしたか……」
私の発言が予想外だったのか、レオール様が悩んでしまったようだった。
「それなら婚約破棄すべきでしょう。ナーディー様の罪が確定する前に。罪が確定してしまった後よりも影響は少ないと思います」
「ありがとうございます。ナーディーの罪は明らかなのですね?いつ頃捕まえる予定なのかお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「さすがにそれはお伝えできません。ですが…」
訊いてしまってから無理な提案だと気付いてしまった。
そのようなことを提案したところで困らせてしまうだけなのに。
わがままな男爵令嬢が騎士を困らせる構図になってしまった。
「ロザリン様もナーディー様の逮捕に協力していただけませんか?そうすれば協力者として情報を提供できると思います」
「力になれるのであれば、できる限り協力したいと思います」
「それは助かります。よろしくお願いします」
レオール様の提案にも驚かされてしまった。
私の提案を受け入れつつも騎士団にとって利益のあるものだ。
機転が利くのも日々悪い人たちを相手にしているからだろうか。
これは私の意思で決めたこと。
どのような結果になろうともレオール様の提案に乗せられたなんて言い訳したりはしないし責任転嫁もしない。
ナーディーに引導を渡すために何かできるならしたほうがいいと思えたので、自分の選択は正しいのだと信じたい。
後日、改めてレオール様と打ち合わせし、ナーディーの逮捕の大まかな流れと、私がどう協力するかを話し合った。
何も知らないのはナーディーだけ。
私が婚約破棄を告げる意思は固く、ナーディーが何を言おうが婚約破棄は絶対にする。
ナーディーのことだから暴力に訴えるようなことはしないだろうけど、とんでもないことを言い出す可能性は考えられる。
何をしても無駄だけど。
いくつかパターンは想定されているけど、どれも騎士たちがいつでも助けに来られるようになっている。
ナーディーが私に何か言ってくるなら茶番に付き合ってあげてもいい。
どうせもうナーディーは終わるのだから。
私の人生を無駄に費やさせた責任を少しは取ってもらわないと。
そうしないと私の気持ちが治まらないから。
* * * * * * * * * *
そのような事もあったけど、先手を打って十分に準備できたことで、無事に私とナーディーの関係は終わらせられた。
レオール様の協力には本当に感謝しているし、レオール様のように頼りがいのある人が婚約者だったら良かったと思った。
一人の騎士がオースタン男爵邸を訪ねてきたことが始まりだった。
* * * * * * * * * *
使用人によると、オースタン男爵邸を訪ねてきた騎士が私に用があるらしく、私は応接室へ向かった。
私は騎士の知り合いはいないし、騎士がわざわざオースタン男爵邸を訪ねてくる理由に心当たりもない。
私にはナーディーという婚約者がいるのだから婚約の申し込みということもないと思う。
とにかく会ってみないことには用件もわからないし、考えても無駄だろう。
「お待たせしました、ロザリン・オースタンです」
「急な訪問に応じていただき感謝します。騎士のレオール・リールです。主に不正に対する取り締まりを担当しています」
レオール様は私よりも少し年上のようで、頼りないナーディーとは違って風格を感じさせるものだった。
丁寧な態度だけど目は真剣で、きっと私のことを見極めようとしているのだと思ってしまった。
私は不正なんてしていないし、騎士団が関係するような不正と縁があるとも思えない。
「ナーディー様のことについてお話を聞かせていただきたく思いますが、よろしいでしょうか?」
「はい、何なりと。私に答えられるものであるなら」
「単刀直入に言います。ナーディー様は不正…横領している疑いがあります」
ナーディーがそんなことをする度胸なんて無いと思ったけど、何の根拠もなく騎士様が不正と断定するはずがない。
ナーディーの不正は事実で、私の関与や不正の兆候について訊きたいのではないかと察した。
「そうだったのですね」
「随分と冷静に受け止められるのですね」
「レオール様が嘘をおっしゃるとも思えません。事実は事実として受け止めただけです」
「失礼ですが、ナーディー様は婚約者ですよね?婚約者が罪人になればロザリン様にも影響が及ぶかもしれません」
「まず、私はナーディーの不正については何も知りません。今知りました。動機も知りませんし心当たりもありません。それに…」
言っていて気付いてしまった。
「私はナーディーのこと、愛していなかったのだと。だから驚きもしなければ悲しくもなかったのでしょう。きっと婚約関係を終わらせたかったのだと思います」
「そうでしたか……」
私の発言が予想外だったのか、レオール様が悩んでしまったようだった。
「それなら婚約破棄すべきでしょう。ナーディー様の罪が確定する前に。罪が確定してしまった後よりも影響は少ないと思います」
「ありがとうございます。ナーディーの罪は明らかなのですね?いつ頃捕まえる予定なのかお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「さすがにそれはお伝えできません。ですが…」
訊いてしまってから無理な提案だと気付いてしまった。
そのようなことを提案したところで困らせてしまうだけなのに。
わがままな男爵令嬢が騎士を困らせる構図になってしまった。
「ロザリン様もナーディー様の逮捕に協力していただけませんか?そうすれば協力者として情報を提供できると思います」
「力になれるのであれば、できる限り協力したいと思います」
「それは助かります。よろしくお願いします」
レオール様の提案にも驚かされてしまった。
私の提案を受け入れつつも騎士団にとって利益のあるものだ。
機転が利くのも日々悪い人たちを相手にしているからだろうか。
これは私の意思で決めたこと。
どのような結果になろうともレオール様の提案に乗せられたなんて言い訳したりはしないし責任転嫁もしない。
ナーディーに引導を渡すために何かできるならしたほうがいいと思えたので、自分の選択は正しいのだと信じたい。
後日、改めてレオール様と打ち合わせし、ナーディーの逮捕の大まかな流れと、私がどう協力するかを話し合った。
何も知らないのはナーディーだけ。
私が婚約破棄を告げる意思は固く、ナーディーが何を言おうが婚約破棄は絶対にする。
ナーディーのことだから暴力に訴えるようなことはしないだろうけど、とんでもないことを言い出す可能性は考えられる。
何をしても無駄だけど。
いくつかパターンは想定されているけど、どれも騎士たちがいつでも助けに来られるようになっている。
ナーディーが私に何か言ってくるなら茶番に付き合ってあげてもいい。
どうせもうナーディーは終わるのだから。
私の人生を無駄に費やさせた責任を少しは取ってもらわないと。
そうしないと私の気持ちが治まらないから。
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そのような事もあったけど、先手を打って十分に準備できたことで、無事に私とナーディーの関係は終わらせられた。
レオール様の協力には本当に感謝しているし、レオール様のように頼りがいのある人が婚約者だったら良かったと思った。
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