3 / 9
第3話
しおりを挟む
翌日、カトナが不在の間に私はお父様に呼び出された。
「今回の縁談について、エイリアには事情を伝えておこう」
「はい」
やはり何かしらの事情があったということだ。
カトナがいない時を狙ったということは本人には秘密にしたいような内容だということ。
「コルガー子爵家の令息は良い人物という噂を聞かない。むしろ問題があるような噂しか聞こえてこない。念のため調べてみたところ、噂は概ね事実だと判断できた。そのような相手とエイリアを婚約させるわけにはいかない。だが断ってしまえばコルガー子爵家の面子をッ潰すことになってしまう。そこれカトナの出番だ」
「なるほど、そういった事情があったのですね」
「あの場では伝えられなかったがエイリアも何かあるのだと察したのだろう?」
「はい。お父様の雰囲気に違和感を覚えたので、きっとあの場では伝えられない理由があるのだと思いました」
私の返答にお父様は満足そうに頷いた。
やはりあの態度は私に何か伝えたかったのだ。
他人にお構いなしのカトナは気づかず、私には伝えられる方法。
それは私とお父様の信頼関係によるものでもある。
「当家の娘はエイリアだけだ。大切な娘を変な相手と婚約させるわけにはいかないからな」
お父様は静かに笑い、私もつられて笑ってしまう。
カトナのせいで苦労しているのはお父様も同じだった。
「養子を迎えるよう義務化したのは間違いだったな。当家のような弱小貴族家では他家が選ばなかった人から選ばなければならない。優秀でもなく問題があるような人物を育てたところで苦労ばかりするだろうに…」
「まったくですね」
「だからカトナには他家から非難されない形で当家から出て行ってもらう。せめて婚約し嫁ぐ形になればいいが…あの性格なら難しいだろう」
「同感です」
「もし問題を起こして婚約破棄されれば、それを理由に当家から追放することもできる。そうなる可能性は十分に考えられる。エイリアには苦労ばかりかけて申し訳なく思う」
「いえ、お父様の立場や苦労も理解できますから。それに私のことを大切にしてくれていることは理解しています」
「不甲斐無い親ですまない。理解して貰えると少しは救われるよ…」
お父様が苦労している父親の一面を見せてくれた。
苦労しているのはお母様も一緒だけど、カトナはお母様のことも見下しているから二人は極力接触しないようにしている。
カトナにとって利用価値があるのはお父様だけだと思う。
自分の立場を上手く利用して当家を踏み台にすることばかり考えるのだから家族の一員として認められない。
カトナが追放されるならそのほうが望ましいし家族のためにもなる。
そう考えるとお父様の次の手が見えてくる。
私もカトナを誘導するよう演じて手助けしてみよう。
演技には自信がないけど、それ以上にカトナは目の前の餌に食らいつくはず。
私が欲しがればカトナも欲しがり、私が引くことで勝ったと思い込み私を見下すはず。
…カトナを欺くのは簡単そうね。
「今度の縁談できっと婚約することになるだろう。だがそう遠くないうちに婚約破棄されることが予想される。でもまだそれでは不十分だ」
「はい」
「その前後にエイリアにも婚約者ができるようにする。だがそれはカトナに奪わせるためだ。婚約する前に奪おうとするか、婚約してから奪うかはわからないが、そのことだけは頭に入れておいてくれ」
「わかりました」
「……せっかくの婚約なのに罠に利用するためで申し訳ない」
「いえ、カトナを排除するためなら仕方ありません。そうしないと私たちの本当の幸せは得られないでしょうから」
「ははは…そうだな。我々家族の幸せのためだ」
こうして今後の方針や大まかな予定は決まった。
何も知らないのはカトナだけ。
調子に乗れるのも今だけだ。
好き勝手して迷惑をかけた報いを受ければいいわ。
「今回の縁談について、エイリアには事情を伝えておこう」
「はい」
やはり何かしらの事情があったということだ。
カトナがいない時を狙ったということは本人には秘密にしたいような内容だということ。
「コルガー子爵家の令息は良い人物という噂を聞かない。むしろ問題があるような噂しか聞こえてこない。念のため調べてみたところ、噂は概ね事実だと判断できた。そのような相手とエイリアを婚約させるわけにはいかない。だが断ってしまえばコルガー子爵家の面子をッ潰すことになってしまう。そこれカトナの出番だ」
「なるほど、そういった事情があったのですね」
「あの場では伝えられなかったがエイリアも何かあるのだと察したのだろう?」
「はい。お父様の雰囲気に違和感を覚えたので、きっとあの場では伝えられない理由があるのだと思いました」
私の返答にお父様は満足そうに頷いた。
やはりあの態度は私に何か伝えたかったのだ。
他人にお構いなしのカトナは気づかず、私には伝えられる方法。
それは私とお父様の信頼関係によるものでもある。
「当家の娘はエイリアだけだ。大切な娘を変な相手と婚約させるわけにはいかないからな」
お父様は静かに笑い、私もつられて笑ってしまう。
カトナのせいで苦労しているのはお父様も同じだった。
「養子を迎えるよう義務化したのは間違いだったな。当家のような弱小貴族家では他家が選ばなかった人から選ばなければならない。優秀でもなく問題があるような人物を育てたところで苦労ばかりするだろうに…」
「まったくですね」
「だからカトナには他家から非難されない形で当家から出て行ってもらう。せめて婚約し嫁ぐ形になればいいが…あの性格なら難しいだろう」
「同感です」
「もし問題を起こして婚約破棄されれば、それを理由に当家から追放することもできる。そうなる可能性は十分に考えられる。エイリアには苦労ばかりかけて申し訳なく思う」
「いえ、お父様の立場や苦労も理解できますから。それに私のことを大切にしてくれていることは理解しています」
「不甲斐無い親ですまない。理解して貰えると少しは救われるよ…」
お父様が苦労している父親の一面を見せてくれた。
苦労しているのはお母様も一緒だけど、カトナはお母様のことも見下しているから二人は極力接触しないようにしている。
カトナにとって利用価値があるのはお父様だけだと思う。
自分の立場を上手く利用して当家を踏み台にすることばかり考えるのだから家族の一員として認められない。
カトナが追放されるならそのほうが望ましいし家族のためにもなる。
そう考えるとお父様の次の手が見えてくる。
私もカトナを誘導するよう演じて手助けしてみよう。
演技には自信がないけど、それ以上にカトナは目の前の餌に食らいつくはず。
私が欲しがればカトナも欲しがり、私が引くことで勝ったと思い込み私を見下すはず。
…カトナを欺くのは簡単そうね。
「今度の縁談できっと婚約することになるだろう。だがそう遠くないうちに婚約破棄されることが予想される。でもまだそれでは不十分だ」
「はい」
「その前後にエイリアにも婚約者ができるようにする。だがそれはカトナに奪わせるためだ。婚約する前に奪おうとするか、婚約してから奪うかはわからないが、そのことだけは頭に入れておいてくれ」
「わかりました」
「……せっかくの婚約なのに罠に利用するためで申し訳ない」
「いえ、カトナを排除するためなら仕方ありません。そうしないと私たちの本当の幸せは得られないでしょうから」
「ははは…そうだな。我々家族の幸せのためだ」
こうして今後の方針や大まかな予定は決まった。
何も知らないのはカトナだけ。
調子に乗れるのも今だけだ。
好き勝手して迷惑をかけた報いを受ければいいわ。
62
お気に入りに追加
271
あなたにおすすめの小説
売られたケンカは高く買いましょう《完結》
アーエル
恋愛
オーラシア・ルーブンバッハ。
それが今の私の名前です。
半年後には結婚して、オーラシア・リッツンとなる予定……はありません。
ケンカを売ってきたあなたがたには徹底的に仕返しさせていただくだけです。
他社でも公開中
結構グロいであろう内容があります。
ご注意ください。
☆構成
本章:9話
(うん、性格と口が悪い。けど理由あり)
番外編1:4話
(まあまあ残酷。一部救いあり)
番外編2:5話
(めっちゃ残酷。めっちゃ胸くそ悪い。作者救う気一切なし)
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。
松ノ木るな
恋愛
純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。
伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。
あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。
どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。
たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。
【完結】返してください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと我慢をしてきた。
私が愛されていない事は感じていた。
だけど、信じたくなかった。
いつかは私を見てくれると思っていた。
妹は私から全てを奪って行った。
なにもかも、、、、信じていたあの人まで、、、
母から信じられない事実を告げられ、遂に私は家から追い出された。
もういい。
もう諦めた。
貴方達は私の家族じゃない。
私が相応しくないとしても、大事な物を取り返したい。
だから、、、、
私に全てを、、、
返してください。
婚約破棄された私は、世間体が悪くなるからと家を追い出されました。そんな私を救ってくれたのは、隣国の王子様で、しかも初対面ではないようです。
冬吹せいら
恋愛
キャロ・ブリジットは、婚約者のライアン・オーゼフに、突如婚約を破棄された。
本来キャロの味方となって抗議するはずの父、カーセルは、婚約破棄をされた傷物令嬢に価値はないと冷たく言い放ち、キャロを家から追い出してしまう。
ありえないほど酷い仕打ちに、心を痛めていたキャロ。
隣国を訪れたところ、ひょんなことから、王子と顔を合わせることに。
「あの時のお礼を、今するべきだと。そう考えています」
どうやらキャロは、過去に王子を助けたことがあるらしく……?
わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。
朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」
テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。
「誰と誰の婚約ですって?」
「俺と!お前のだよ!!」
怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。
「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる