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第3話
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王の執務室には最高の素材を用い一流の職人が手掛けた立派な机があり、その上には乱雑に積まれた書類の山と綺麗に積まれた書類の山ができていた。
乱雑なほうがバルメジャーが処理したものだと中身を確認しなくても理解できる。
「すぐに対処すべき問題があるとしたら処理済みのほうね」
手つかずのほうは私が後でチェックすればいい。
問題は処理済みのほう。
あのバルメジャーの実態を知っていれば不適切な内容の書類にサインさせてしまおうと考える人がいても不思議ではない。
ものによっては速やかに対処しないといけないものがあるかもしれない。
私は書類の山の確認を始めた。
* * * * * * * * * *
最悪ではなかったけど嫌な予感は的中していた。
バルメジャーがサインした書類を見直していて、明らかにおかしいものが含まれていた。
中身を確認していたのであればバルメジャーも共犯者のようなものだし、中身を確認せずにサインをしたのであれば王の役目を放棄していることになる。
「シビリアの親を優遇するような政策ね。優遇しても国にとってはメリットなんて無いじゃない。それどころか問題の火種にしかならないわ」
名指しで免税するなんて優遇以外の何物でもなく、他の貴族たちの反感を買うだけでしかない。
今ならまだ無かったことにできるけど、このような事態になった責任は取らせないといけない。
サインしたバルメジャーにも、恐らく優遇するよう言い出したか根回しをしたシビリアにも。
この国の王はバルメジャーだけど王の権力が他国に比べて弱く、実際には私の実家であるメルヴィエール公爵家が最大の権力を持つ存在だ。
名目上は王が貴族を従えているけど、実際にはメルヴィエール公爵家が他の貴族の多くを取りまとめている。
そのような内情なのだから王なんてお飾りのようなもの。
「やはり無能だった二代目国王陛下の血筋ね……」
建国した初代国王は優秀だったけど、その息子たちは双子だったというのに能力はまるで違っていたと伝えられている。
王位を継いだのは無能な兄のほうで、それが王家の血筋。
優秀な弟は公爵家として王を支えることを選び、それがメルヴィエール公爵家の初代当主になった。
その関係は今も続いており、何の因果なのか王家は凡才や愚鈍な王を輩出してきた。
バルメジャーも例外ではなかったということ。
だから私が支えないといけなかったから結婚したというのに、バルメジャーはそんなことを理解せず、側妃を迎えて愛妾まで迎えて、私を大切にすることもせずに愛妾に夢中になっている。
王としては無能であっても一人の男性として誠実であればまだ納得はできたのに、それすらも叶わなかった。
バルメジャーにも呆れたけど、この王家の血筋が続く限り負の連鎖が止まらないように思える。
「血筋の正当性なら当家も負けていないけど……。このままだとこの国のためにもならないし…………」
悩んでしまう。
でも今はその問題よりも優先すべきことがある。
シビリアはもう害でしかないから身柄を拘束し罰を受けさせる。
バルメジャーが反省するならチャンスを与えるし、それすらも無駄にするなら王位から退いてもらう。
当家が王として成り代わるかはバルメジャー次第でもある。
「とにかく必要なことをしないと」
近衛隊長へシビリアを拘束するよう指示を出さないといけないし、バルメジャーを糾弾するために実家や他の貴族家にも根回ししないといけない。
近衛兵たちも本当の支配者が私だと認めているし、貴族たちも実家の意向を受ければ嫌と言う者は少ないだろう。
* * * * * * * * * *
私はシビリアを拘束する指示を出すため、近衛隊長のマンスティルと密かに会っていた。
ないと信じたいけど、近衛兵の中にもバルメジャーやシビリアに通じている者がいるかもしれないので、用心のため近衛隊長だけに伝えることにした。
だって建前は大切だもの。
「ついに決断されたのですね」
「ええ。今までの私は甘かったわ。だからもう厳しくすることに決めたの。マンスティルも力を貸してくれる?」
「もちろんです。私はいつだってメディーレ様の力になると誓いましたから」
「ありがとう。その気持ち、すごく嬉しいわ」
マンスティルの気持ちが嬉しくもあり、その気持ちは私を苦しめるものでもある。
もしバルメジャーがもう少しまともなら私が正妃として嫁ぐことはなかったかもしれない。
そうだったら私はマンスティルと結婚していたかもしれなかった。
マンスティルは言葉にしなかったけど私のことが好きだという気持ちは伝わっていた。
言葉にしてしまえば私が悩むと考えただろうし、国のことを考えれば何も言わないことが正解だった。
そんなことのために自分の人生を犠牲にしなくてもいいのに。
良い人を見つけて結婚したとしても私は恨んだりしないのに。
でも今は感傷に浸ってなんかいられない。
「それでシビリアの拘束だけど――」
自分の気持ちから目を背けるためにも私はマンスティルに指示を出した。
乱雑なほうがバルメジャーが処理したものだと中身を確認しなくても理解できる。
「すぐに対処すべき問題があるとしたら処理済みのほうね」
手つかずのほうは私が後でチェックすればいい。
問題は処理済みのほう。
あのバルメジャーの実態を知っていれば不適切な内容の書類にサインさせてしまおうと考える人がいても不思議ではない。
ものによっては速やかに対処しないといけないものがあるかもしれない。
私は書類の山の確認を始めた。
* * * * * * * * * *
最悪ではなかったけど嫌な予感は的中していた。
バルメジャーがサインした書類を見直していて、明らかにおかしいものが含まれていた。
中身を確認していたのであればバルメジャーも共犯者のようなものだし、中身を確認せずにサインをしたのであれば王の役目を放棄していることになる。
「シビリアの親を優遇するような政策ね。優遇しても国にとってはメリットなんて無いじゃない。それどころか問題の火種にしかならないわ」
名指しで免税するなんて優遇以外の何物でもなく、他の貴族たちの反感を買うだけでしかない。
今ならまだ無かったことにできるけど、このような事態になった責任は取らせないといけない。
サインしたバルメジャーにも、恐らく優遇するよう言い出したか根回しをしたシビリアにも。
この国の王はバルメジャーだけど王の権力が他国に比べて弱く、実際には私の実家であるメルヴィエール公爵家が最大の権力を持つ存在だ。
名目上は王が貴族を従えているけど、実際にはメルヴィエール公爵家が他の貴族の多くを取りまとめている。
そのような内情なのだから王なんてお飾りのようなもの。
「やはり無能だった二代目国王陛下の血筋ね……」
建国した初代国王は優秀だったけど、その息子たちは双子だったというのに能力はまるで違っていたと伝えられている。
王位を継いだのは無能な兄のほうで、それが王家の血筋。
優秀な弟は公爵家として王を支えることを選び、それがメルヴィエール公爵家の初代当主になった。
その関係は今も続いており、何の因果なのか王家は凡才や愚鈍な王を輩出してきた。
バルメジャーも例外ではなかったということ。
だから私が支えないといけなかったから結婚したというのに、バルメジャーはそんなことを理解せず、側妃を迎えて愛妾まで迎えて、私を大切にすることもせずに愛妾に夢中になっている。
王としては無能であっても一人の男性として誠実であればまだ納得はできたのに、それすらも叶わなかった。
バルメジャーにも呆れたけど、この王家の血筋が続く限り負の連鎖が止まらないように思える。
「血筋の正当性なら当家も負けていないけど……。このままだとこの国のためにもならないし…………」
悩んでしまう。
でも今はその問題よりも優先すべきことがある。
シビリアはもう害でしかないから身柄を拘束し罰を受けさせる。
バルメジャーが反省するならチャンスを与えるし、それすらも無駄にするなら王位から退いてもらう。
当家が王として成り代わるかはバルメジャー次第でもある。
「とにかく必要なことをしないと」
近衛隊長へシビリアを拘束するよう指示を出さないといけないし、バルメジャーを糾弾するために実家や他の貴族家にも根回ししないといけない。
近衛兵たちも本当の支配者が私だと認めているし、貴族たちも実家の意向を受ければ嫌と言う者は少ないだろう。
* * * * * * * * * *
私はシビリアを拘束する指示を出すため、近衛隊長のマンスティルと密かに会っていた。
ないと信じたいけど、近衛兵の中にもバルメジャーやシビリアに通じている者がいるかもしれないので、用心のため近衛隊長だけに伝えることにした。
だって建前は大切だもの。
「ついに決断されたのですね」
「ええ。今までの私は甘かったわ。だからもう厳しくすることに決めたの。マンスティルも力を貸してくれる?」
「もちろんです。私はいつだってメディーレ様の力になると誓いましたから」
「ありがとう。その気持ち、すごく嬉しいわ」
マンスティルの気持ちが嬉しくもあり、その気持ちは私を苦しめるものでもある。
もしバルメジャーがもう少しまともなら私が正妃として嫁ぐことはなかったかもしれない。
そうだったら私はマンスティルと結婚していたかもしれなかった。
マンスティルは言葉にしなかったけど私のことが好きだという気持ちは伝わっていた。
言葉にしてしまえば私が悩むと考えただろうし、国のことを考えれば何も言わないことが正解だった。
そんなことのために自分の人生を犠牲にしなくてもいいのに。
良い人を見つけて結婚したとしても私は恨んだりしないのに。
でも今は感傷に浸ってなんかいられない。
「それでシビリアの拘束だけど――」
自分の気持ちから目を背けるためにも私はマンスティルに指示を出した。
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