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第1話
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「ねえ、バルメジャー。このドレス、似合ってる?」
「よく似合ってるよ、シビリア。誰よりも美しい君の美しさを更に引き立てるドレスだ」
「まあ、ありがとう、バルメジャー」
王の執務室のはずなのに遠慮なく出入りし執務の邪魔をするのが愛妾のシビリア。
その愛妾を気に入り、正妃である私を蔑ろにしている王がバルメジャー。
二人に注意しても効果がないことは目の前の光景が証明している。
バルメジャーに用があったけどシビリアがいるなら話がこじれるに決まっている。
幸いにも二人からは気付かれていないようだし、私は出直すことにした。
「綺麗だよ、シビリア。メディーレよりもずっと綺麗だ」
「嬉しいわ。メディーレなんて正妃の立場だけが取り柄じゃない。女性としてバルメジャーに愛されているのは私。私のほうが女性としても魅力が上ってことよね」
「そうだよ、シビリア。君はこの国、いや、世界で一番美しい」
「煽てないでよ。でも嬉しいから今度思いっきり甘えさせてあげるわね」
「それは楽しみだな。待ちきれないよ」
去る前に聞こえてきた会話も実にくだらないものだった。
こんな痴態が繰り広げられているなんて民は思わないだろう。
これがこの国の最高権力者であると思われている王の実態なのだ。
このような痴態を防げなかった事は正妃として恥ずかしいし、民に申し訳ないと思う。
* * * * * * * * * *
王が複数の妃を娶るのは当然なのだから側妃を娶ったのはまだ理解できる。
正妃である私を大切にしなかったことは許せないけど、もっと許せないことは愛妾まで迎えたことで、しかも愛妾に夢中になってしまったことだ。
後ろ盾が無いに等しいのに王の寵愛を独占したシビリアは自分こそが一番偉いと勘違いし、私にも側妃たちにも傲慢な振る舞いをするようになった。
王に文句を言っても王がシビリアを擁護するのだから何を言っても無駄だった。
その事実がますますシビリアを増長させ、まるで女王のように振る舞うようになってしまった。
立場だけは女王かもしれないけど、振る舞いや品性は卑しさしか感じられない。
「まったくシビリアにも困ったけど、バルメジャーも困ったものね」
愚痴をこぼすくらいは許してほしい。
目に余る振る舞いは隠し通せるものではなく、秘密裏に処理するチャンスを逃しただけではなく、シビリアの振る舞いと王であるバルメジャーの情けない実態まで周囲に知られてしまった。
こうなってしまったからには堂々と王を糾弾するしかない。
王は政務に支障をきたしているのだから正妃である私がどうにかしなくてはならない。
「誰のおかげで王として振る舞えているのかバルメジャーは忘れてしまったようね。残念だけどバルメジャーにはもう期待できないわ。シビリア共々排除してあげる」
誰も聞いていないけど自分の意思で口にしたことだから私は実行する。
シビリアが詫びようとも許さず、バルメジャーが心を入れ替えると言ってももう遅い。
二人はやり過ぎたのだから、どうなろうとも身から出た錆でしかない。
民のため、国のため、正妃である私がこの国を正さないと。
この国に有害な二人を排除しないと。
「よく似合ってるよ、シビリア。誰よりも美しい君の美しさを更に引き立てるドレスだ」
「まあ、ありがとう、バルメジャー」
王の執務室のはずなのに遠慮なく出入りし執務の邪魔をするのが愛妾のシビリア。
その愛妾を気に入り、正妃である私を蔑ろにしている王がバルメジャー。
二人に注意しても効果がないことは目の前の光景が証明している。
バルメジャーに用があったけどシビリアがいるなら話がこじれるに決まっている。
幸いにも二人からは気付かれていないようだし、私は出直すことにした。
「綺麗だよ、シビリア。メディーレよりもずっと綺麗だ」
「嬉しいわ。メディーレなんて正妃の立場だけが取り柄じゃない。女性としてバルメジャーに愛されているのは私。私のほうが女性としても魅力が上ってことよね」
「そうだよ、シビリア。君はこの国、いや、世界で一番美しい」
「煽てないでよ。でも嬉しいから今度思いっきり甘えさせてあげるわね」
「それは楽しみだな。待ちきれないよ」
去る前に聞こえてきた会話も実にくだらないものだった。
こんな痴態が繰り広げられているなんて民は思わないだろう。
これがこの国の最高権力者であると思われている王の実態なのだ。
このような痴態を防げなかった事は正妃として恥ずかしいし、民に申し訳ないと思う。
* * * * * * * * * *
王が複数の妃を娶るのは当然なのだから側妃を娶ったのはまだ理解できる。
正妃である私を大切にしなかったことは許せないけど、もっと許せないことは愛妾まで迎えたことで、しかも愛妾に夢中になってしまったことだ。
後ろ盾が無いに等しいのに王の寵愛を独占したシビリアは自分こそが一番偉いと勘違いし、私にも側妃たちにも傲慢な振る舞いをするようになった。
王に文句を言っても王がシビリアを擁護するのだから何を言っても無駄だった。
その事実がますますシビリアを増長させ、まるで女王のように振る舞うようになってしまった。
立場だけは女王かもしれないけど、振る舞いや品性は卑しさしか感じられない。
「まったくシビリアにも困ったけど、バルメジャーも困ったものね」
愚痴をこぼすくらいは許してほしい。
目に余る振る舞いは隠し通せるものではなく、秘密裏に処理するチャンスを逃しただけではなく、シビリアの振る舞いと王であるバルメジャーの情けない実態まで周囲に知られてしまった。
こうなってしまったからには堂々と王を糾弾するしかない。
王は政務に支障をきたしているのだから正妃である私がどうにかしなくてはならない。
「誰のおかげで王として振る舞えているのかバルメジャーは忘れてしまったようね。残念だけどバルメジャーにはもう期待できないわ。シビリア共々排除してあげる」
誰も聞いていないけど自分の意思で口にしたことだから私は実行する。
シビリアが詫びようとも許さず、バルメジャーが心を入れ替えると言ってももう遅い。
二人はやり過ぎたのだから、どうなろうとも身から出た錆でしかない。
民のため、国のため、正妃である私がこの国を正さないと。
この国に有害な二人を排除しないと。
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