刺されるほどの歪んだ愛で縛られた元婚約者。二人の愛を応援してあげた甲斐がありました。

田太 優

文字の大きさ
上 下
9 / 10

第9話

しおりを挟む
その日、帰宅するなり父上に報告をした。

「メーベル嬢と婚約か…。仕方がないな」

本当に仕方ないと思う。
そうしなければモーゲット子爵家ごと破滅してしまったかもしれないのだ。
父上はメーベル様の本気の恐ろしさを味わっていない。
何をするかわからない恐ろしさを知れば俺に感謝するに決まっている。

「そうするしかありませんでした」
「そうだな。まさか浮気して刺されたなんて醜聞、表沙汰にはできないからな」
「ははは……」

メーベル様だって俺と婚約したのだから俺の醜聞になるようなことは広めないだろう。
幸いにして傷は軽傷だったから良かったものの、もっと深い傷だったら隠しきれなかったかもしれない。

…もしメーベル様がもっと本気で俺を刺していたらこの程度では済まされなかっただろう。
……もし俺がメーベル様の機嫌を損なってしまえば何をされるかわからない。
………俺はメーベル様の奴隷のようにならなければいけないのか!?

「とにかくピンクルー伯爵家とも婚約について話し合わないといけないな。ピートはメーベル嬢を怒らせないよう注意しろ」
「はい」

俺だって自分の命を犠牲にしたいとは思わない。
言われなくたってそうする。

* * * * * * * * * *

ピンクルー伯爵家との話し合いは全部父上に任せた。
その結果、俺とメーベルは正式に婚約することになった。
ただし、いくつか予想外のこともあった。

「これはピンクルー家との合意があってのことになるが、ピート、お前は廃嫡することになった」
「そんな!」
「安心しろ、メーベル嬢も同意している。ピートはメーベル嬢に婿入りすることになった。よって廃嫡するのは当然のことだ」
「…………」

ピンクルー伯爵家に婿入りとなれば周りはメーベル様の味方ばかりだろう。
俺はますます不自由な生活になるに決まっている。
もしモーゲット子爵を継いだとしても、その妻となる人物がメーベル様ではメーベル様が実質的な最高権力者になってしまう。
ピンクルー伯爵家による乗っ取りのようなものだ。
モーゲット子爵家の存続を考えれば悪くない。

何より、不自由な生活が約束されている俺にとって、モーゲット子爵を継ぐメリットはほぼ存在しない。
婿入りして何か問題があっても全部ピンクルー伯爵家の責任にしてしまえばいい。
メーベル様が目に余る振る舞いをすればピンクルー伯爵家も問題視するだろう。

「スターブ子爵家への慰謝料はピンクルー伯爵家が肩代わりしてくれることになった。感謝しメーベル嬢の不興を買わないよう注意しろ」
「……はい」

大きな借りができ、ますますメーベル様には逆らえなくなってしまった。
何か問題が起きれば慰謝料を肩代わりした分を支払えを言い出すかもしれない。
父上が慰謝料の支払いを渋るからこんなことになってしまった。

…だが慰謝料を支払ったところでメーベル様は俺を捨てたりはしなかっただろう。
どうせ逃げられないなら慰謝料を肩代わりしてくれただけでも良しとすべきなのか?

……どの道、俺の人生はもう終わったようなものだ。
これからはメーベル様の求めるように振る舞わなくてはならない。
自由もなければ希望もない。
俺はメーベル様の奴隷のように生きていくのだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

そのご令嬢、婚約破棄されました。

玉響なつめ
恋愛
学校内で呼び出されたアルシャンティ・バーナード侯爵令嬢は婚約者の姿を見て「きたな」と思った。 婚約者であるレオナルド・ディルファはただ頭を下げ、「すまない」といった。 その傍らには見るも愛らしい男爵令嬢の姿がある。 よくある婚約破棄の、一幕。 ※小説家になろう にも掲載しています。

今日は私の結婚式

豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。 彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

貴方もヒロインのところに行くのね? [完]

風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは アカデミーに入学すると生活が一変し てしまった 友人となったサブリナはマデリーンと 仲良くなった男性を次々と奪っていき そしてマデリーンに愛を告白した バーレンまでもがサブリナと一緒に居た マデリーンは過去に決別して 隣国へと旅立ち新しい生活を送る。 そして帰国したマデリーンは 目を引く美しい蝶になっていた

貴方でなくても良いのです。

豆狸
恋愛
彼が初めて淹れてくれたお茶を口に含むと、舌を刺すような刺激がありました。古い茶葉でもお使いになったのでしょうか。青い瞳に私を映すアントニオ様を傷つけないように、このことは秘密にしておきましょう。

処理中です...