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第9話
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その日、帰宅するなり父上に報告をした。
「メーベル嬢と婚約か…。仕方がないな」
本当に仕方ないと思う。
そうしなければモーゲット子爵家ごと破滅してしまったかもしれないのだ。
父上はメーベル様の本気の恐ろしさを味わっていない。
何をするかわからない恐ろしさを知れば俺に感謝するに決まっている。
「そうするしかありませんでした」
「そうだな。まさか浮気して刺されたなんて醜聞、表沙汰にはできないからな」
「ははは……」
メーベル様だって俺と婚約したのだから俺の醜聞になるようなことは広めないだろう。
幸いにして傷は軽傷だったから良かったものの、もっと深い傷だったら隠しきれなかったかもしれない。
…もしメーベル様がもっと本気で俺を刺していたらこの程度では済まされなかっただろう。
……もし俺がメーベル様の機嫌を損なってしまえば何をされるかわからない。
………俺はメーベル様の奴隷のようにならなければいけないのか!?
「とにかくピンクルー伯爵家とも婚約について話し合わないといけないな。ピートはメーベル嬢を怒らせないよう注意しろ」
「はい」
俺だって自分の命を犠牲にしたいとは思わない。
言われなくたってそうする。
* * * * * * * * * *
ピンクルー伯爵家との話し合いは全部父上に任せた。
その結果、俺とメーベルは正式に婚約することになった。
ただし、いくつか予想外のこともあった。
「これはピンクルー家との合意があってのことになるが、ピート、お前は廃嫡することになった」
「そんな!」
「安心しろ、メーベル嬢も同意している。ピートはメーベル嬢に婿入りすることになった。よって廃嫡するのは当然のことだ」
「…………」
ピンクルー伯爵家に婿入りとなれば周りはメーベル様の味方ばかりだろう。
俺はますます不自由な生活になるに決まっている。
もしモーゲット子爵を継いだとしても、その妻となる人物がメーベル様ではメーベル様が実質的な最高権力者になってしまう。
ピンクルー伯爵家による乗っ取りのようなものだ。
モーゲット子爵家の存続を考えれば悪くない。
何より、不自由な生活が約束されている俺にとって、モーゲット子爵を継ぐメリットはほぼ存在しない。
婿入りして何か問題があっても全部ピンクルー伯爵家の責任にしてしまえばいい。
メーベル様が目に余る振る舞いをすればピンクルー伯爵家も問題視するだろう。
「スターブ子爵家への慰謝料はピンクルー伯爵家が肩代わりしてくれることになった。感謝しメーベル嬢の不興を買わないよう注意しろ」
「……はい」
大きな借りができ、ますますメーベル様には逆らえなくなってしまった。
何か問題が起きれば慰謝料を肩代わりした分を支払えを言い出すかもしれない。
父上が慰謝料の支払いを渋るからこんなことになってしまった。
…だが慰謝料を支払ったところでメーベル様は俺を捨てたりはしなかっただろう。
どうせ逃げられないなら慰謝料を肩代わりしてくれただけでも良しとすべきなのか?
……どの道、俺の人生はもう終わったようなものだ。
これからはメーベル様の求めるように振る舞わなくてはならない。
自由もなければ希望もない。
俺はメーベル様の奴隷のように生きていくのだろう。
「メーベル嬢と婚約か…。仕方がないな」
本当に仕方ないと思う。
そうしなければモーゲット子爵家ごと破滅してしまったかもしれないのだ。
父上はメーベル様の本気の恐ろしさを味わっていない。
何をするかわからない恐ろしさを知れば俺に感謝するに決まっている。
「そうするしかありませんでした」
「そうだな。まさか浮気して刺されたなんて醜聞、表沙汰にはできないからな」
「ははは……」
メーベル様だって俺と婚約したのだから俺の醜聞になるようなことは広めないだろう。
幸いにして傷は軽傷だったから良かったものの、もっと深い傷だったら隠しきれなかったかもしれない。
…もしメーベル様がもっと本気で俺を刺していたらこの程度では済まされなかっただろう。
……もし俺がメーベル様の機嫌を損なってしまえば何をされるかわからない。
………俺はメーベル様の奴隷のようにならなければいけないのか!?
「とにかくピンクルー伯爵家とも婚約について話し合わないといけないな。ピートはメーベル嬢を怒らせないよう注意しろ」
「はい」
俺だって自分の命を犠牲にしたいとは思わない。
言われなくたってそうする。
* * * * * * * * * *
ピンクルー伯爵家との話し合いは全部父上に任せた。
その結果、俺とメーベルは正式に婚約することになった。
ただし、いくつか予想外のこともあった。
「これはピンクルー家との合意があってのことになるが、ピート、お前は廃嫡することになった」
「そんな!」
「安心しろ、メーベル嬢も同意している。ピートはメーベル嬢に婿入りすることになった。よって廃嫡するのは当然のことだ」
「…………」
ピンクルー伯爵家に婿入りとなれば周りはメーベル様の味方ばかりだろう。
俺はますます不自由な生活になるに決まっている。
もしモーゲット子爵を継いだとしても、その妻となる人物がメーベル様ではメーベル様が実質的な最高権力者になってしまう。
ピンクルー伯爵家による乗っ取りのようなものだ。
モーゲット子爵家の存続を考えれば悪くない。
何より、不自由な生活が約束されている俺にとって、モーゲット子爵を継ぐメリットはほぼ存在しない。
婿入りして何か問題があっても全部ピンクルー伯爵家の責任にしてしまえばいい。
メーベル様が目に余る振る舞いをすればピンクルー伯爵家も問題視するだろう。
「スターブ子爵家への慰謝料はピンクルー伯爵家が肩代わりしてくれることになった。感謝しメーベル嬢の不興を買わないよう注意しろ」
「……はい」
大きな借りができ、ますますメーベル様には逆らえなくなってしまった。
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父上が慰謝料の支払いを渋るからこんなことになってしまった。
…だが慰謝料を支払ったところでメーベル様は俺を捨てたりはしなかっただろう。
どうせ逃げられないなら慰謝料を肩代わりしてくれただけでも良しとすべきなのか?
……どの道、俺の人生はもう終わったようなものだ。
これからはメーベル様の求めるように振る舞わなくてはならない。
自由もなければ希望もない。
俺はメーベル様の奴隷のように生きていくのだろう。
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