刺されるほどの歪んだ愛で縛られた元婚約者。二人の愛を応援してあげた甲斐がありました。

田太 優

文字の大きさ
上 下
6 / 10

第6話

しおりを挟む
婚約破棄したからといって全てが終わりになる訳ではない。
モーゲット子爵は慰謝料の支払いを渋っているので交渉は難航している。
まだ全てが解決してはいないのだ。
私の平穏な日々はまだ遠い。

そしてやってきた新たな波乱。
ピート様から話があると言われ、半ば強引に人目がない場所へと連れられたのだ。
ピート様にはメーベル様がいるのだから、誤解されるような行動は慎んでほしい。

もう婚約関係ではないし信用できないピート様だけど、学園という場で私に不埒なことをするとは思えない。
人目がないといっても声を出せば誰かには聞こえるだろう。
ここで私が抵抗すれば面倒事はいつまでも片付かないだろう。
とにかく面倒そうな用件は速やかに片づけたほうがいい。

「それで、どういった用件ですか?」
「俺が間違っていた!許してくれ!」

謝罪の言葉とともに頭を下げたピート様。
今になって何を謝っているのだろう?
この程度のことで謝るようなピート様ではないはず。
私が許しても許さなくてもメーベル様との関係に影響はないはず。

もしかしたら謝罪し私が許せば慰謝料を払わなくていいとでも考えているのかも。
どうせ許すつもりはないので動機なんてどうでもいいけど。

「許しませんよ」
「そこをどうにか…!」
「許すことはありません。用件は以上ですか?」
「まだだ!俺とやり直してくれ!!」
「やり直しません。ピート様にはメーベル様がいるではありませんか。用件はもう全部済みましたか?」
「……ああ。時間を取らせて悪かったな」

それまでの態度とは打って変わって、あっさり退くのだから違和感しかない。
…これは謝罪したという実績を作るためにしたのだろう。
やり直したいというのも断ることを前提にしていたのだろう。
私を都合良く利用したということ。
それなら私にも考えがある。

用事は済んで去ろうとするピート様を呼び止める。

「待ってください、まだ私の用件が済んでいません」
「…手短に頼む」

足を止めたピート様の嫌々そうな表情が私の考えが正しかったと証明している。

「早く慰謝料を支払ってください。そうしないともっと大事になってしまいますよ?モーゲット子爵家はそれでいいのですか?」
「くっ、だがそれは父上が決めることだ。俺が決めることではない」
「ですから早く決まるよう、ピート様にも働きかけてほしいのです」
「…結果を確約はできない」
「それならそれで構いません。それがモーゲット子爵家の誠意だと解釈しますから」

どうせピート様は言い逃れしようとするし、結果に責任を持とうともしないはず。
だからどのような結果になろうともモーゲット子爵家の誠意と解釈すると明言してあげた。

「……用件は全部済んだか?」
「はい。モーゲット子爵家の誠意に期待しています」

何も言わずにピート様は去っていった。

ピート様からの誠意の感じられない謝罪は、謝罪したという実績を作るため。
慰謝料はできれば支払いたくないとも考えている様子。
まるで誠意の感じられない対応は私を怒らせるだけなのに。

…もう少しプレッシャーをかけたほうがいいのかもしれない。

そして気付いた。
ピート様とメーベル様の愛を応援していると伝えてあげれば良かった。
タイミングを失してしまったし、このまま伝えずにいてもいいのかもしれない。
応援していると伝えたらどんな顔をするのか興味はあったけど。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

そのご令嬢、婚約破棄されました。

玉響なつめ
恋愛
学校内で呼び出されたアルシャンティ・バーナード侯爵令嬢は婚約者の姿を見て「きたな」と思った。 婚約者であるレオナルド・ディルファはただ頭を下げ、「すまない」といった。 その傍らには見るも愛らしい男爵令嬢の姿がある。 よくある婚約破棄の、一幕。 ※小説家になろう にも掲載しています。

今日は私の結婚式

豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。 彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

貴方もヒロインのところに行くのね? [完]

風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは アカデミーに入学すると生活が一変し てしまった 友人となったサブリナはマデリーンと 仲良くなった男性を次々と奪っていき そしてマデリーンに愛を告白した バーレンまでもがサブリナと一緒に居た マデリーンは過去に決別して 隣国へと旅立ち新しい生活を送る。 そして帰国したマデリーンは 目を引く美しい蝶になっていた

貴方でなくても良いのです。

豆狸
恋愛
彼が初めて淹れてくれたお茶を口に含むと、舌を刺すような刺激がありました。古い茶葉でもお使いになったのでしょうか。青い瞳に私を映すアントニオ様を傷つけないように、このことは秘密にしておきましょう。

処理中です...