刺されるほどの歪んだ愛で縛られた元婚約者。二人の愛を応援してあげた甲斐がありました。

田太 優

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第5話

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メーベル様は学園でも浮いた存在だ。
知っている人は知っているだろうから面倒そうな人に関わらないのも当然だ。
俺は周囲に人目がないタイミングでメーベル様に話があると伝え、より人目のない場所へ移動した。

メーベル様は俺の言葉に素直に従ってくれた。
だが期待するような目だったことが気になる。
嫌な展開にならなければいいが…。

そして場所を移動して本題を切り出そうとした。

「どうしたの?こんなところでしたいの?」
「いえ、そうではなくて…」
「私からも用があったの。ピート様の用を先に済ます?それとも私の用が先?」
「……俺の用件が先でお願いします」
「わかったわ。それでなんなの?」
「もう俺との関係を終わりにしてください」
「ふーん、そうなの……。それがピート様の気持ちなのね………」

メーベル様が下を向いたので表情はわからない。
納得しているのか悲しんでいるのか、それとも怒っているのか…。

「ふっふふっ、そうね、そうなのね…」
「メーベル様?」

顔を上げたメーベル様の表情は恐怖心を抱かずにはいられないものだった。
怒っているような笑っているような…。

「わかったわ、絶対にピート様とは終わらせない。これからもずっと関係を続けるの。嫌とは言わせないわ」
「……メーベル様?」
「ピート様は嫌なの?私のこと、嫌いになったの?あれほど私のことを愛してるって言ってくれたじゃない。それは嘘だったの?嘘だったら許さないわ。私を弄んだことを後悔させてあげる。ピンクルー伯爵家が敵になるわよ?どうなの、ピート様?」
「…嫌いではありませんよ。そんなはず、ありませんから」
「そうね、ピート様が変なことを言うから誤解してしまったわ。ごめんなさい」

メーベル様に捲し立てられ、俺は不本意ながらメーベル様の機嫌を取る選択をしてしまった。
これでは関係を終わらせるどころか終わらない関係になってしまったではないか!
だがメーベル様の豹変した雰囲気を前にすれば、ああ言うしかなかった。

「それでリブと別れてほしいの。私への愛が本物なら当然別れてくれるでしょう?」

…リブとは既に別れてはいる。
だが父上から復縁するように言われている。
復縁してしまえばメーベル様を裏切ることになるし、復縁しないと慰謝料の支払いで父上に怒られる。

……メーベル様を裏切るほうが大問題だ!

リブには復縁する姿勢だけ見せて断られればいい。
するだけのことをして結果が伴わなければ父上も理解してくれるかもしれない。

「安心してください、リブとはもう別れています」
「まあ、私のために先に別れてくれたのね。嬉しいわ」

メーベル様は大げさに無邪気に喜んだ。
婚約破棄されたとはいえ結果的に別れているのだから嘘ではない。
とりあえず乗り切れたか?
となると次はリブへ形だけの謝罪と復縁の申し出だな。

「もうピート様を離さないわ。浮気したら許さないからね?」
「は、はい」

軽い嫉妬で言うなら可愛いものだ。
だがメーベル様の目は真剣であり、絶対に許さないという威圧感のようなものが感じられた。
リブへの謝罪と形だけの復縁要請をメーベル様が誤解しなければいいが……。

こうなってしまった以上、後に退くことはできない。
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