11 / 15
第11話
しおりを挟む先生との特訓の後、すぐに受験はやってきた。
そして、合格発表の日も…。
結論から発表する。
僕は不合格だった!
と思ったら、繰り上げ合格になった。
AO入試でもそんなことあるんだ…。
私立だからかなぁ。
実は、不合格になってからも「まだなんか事件が起こって合格になれ!」って念じてた。
先生の言ってた、メンタルってやつ。
合格発表後に不合格って書いてあっても落ち込まずに「一般入試じゃ無理なんで、AOで繰り上げ合格する」って念じてた。
それで、本当に合格しちゃったわけだ。
自分でも笑っちゃうよ。
先生に「繰り上げ合格しました!」って報告した。
「そんなの嘘ね。」と先生は僕を信じていなかったみたいだけど、事実だ。
合格が嬉しくて有頂天の僕は、すぐに理科教員室に向かって、先生に大声で合格の自慢をしたのだった。
「先生。僕、大学合格したんでご褒美もらってもいいですか?」
「ご褒美?まぁ、考えてやらなくもないけど、今すぐは無理よ。一般入試が終わるまで忙しいの。」
確かに、僕は暇になるけど、これから先生は忙しくなると思う。
ちょっと寂しいものの、ここは、面倒な子どもだと思われたくないので潔く引くことにした。
「別にいつでもいいんで、お願いします!」
珍しく、理科教員室に先生1人しかいなかったので本当はこの場に入り浸りたかったのだけれど、先生の周りにはあらゆる書類と荷物が散乱していた。
多分、相当忙しいのだと思う。
ちょっと先生、ドライ対応だったし。
僕は、放課後で人がいない生物室に向かった。
教室の1番後ろの席に座る。
今はともかく喜びが大きく、踊り出したい気分である。
その一方で、大きな不安もある。
例えば、先生との関係について。
卒業まで残り何日あるのだろう?
先生と、学校で会えるのは後何日くらいかな?
卒業して会えなくなった、僕たちの関係はどうなるのだろうか。
嬉しさが今は大きいものの、先々のことを考えると、不安になる。
このままでいたい。
けれど、時間は止めることができない。
(もう、このままの暮らしのままでいいのに…)
今まで、特に先生のことを好きになってからは早く卒業したくて、大人になりたくて堪らなかった。だから、時間が早く進めばいいと思っていた。
それなのに、今は時間が止まって欲しいと思っている。
(僕ってわがままだな…)
まだ、離れ離れになると決まったわけじゃないのに、先生との別れの事を考えて涙が一粒だけ溢れる。
センチメンタルな気持ちのまま、僕は生物室に居るともっとセンチメンタルになった。
だって、ここは、先生とたくさんの時間を過ごした場所だから。
この場所で、僕は先生を好きになったんだと思う。
先生とまだ付き合う前のことを、今になってから思い返すと恥ずかしいな。
一生懸命に、先生に好きアピールをしてた。ちょっと女々しかったかなぁ。
けれど、先生は僕より想いに応えてくれた。
今も充分に子供だけれど、その頃は今よりももっと子供だった。
「だいすき…。」
呟いてみる。
誰もいない教室に、僕の小さい声が反響した。
外は生徒達の声で賑やかだ。
ただ、この生物室だけが静まり返っている。
「なんか言った?」
「うわぁぁぁっ!」
突然の声に僕は驚く。
「なんか声が聞こえたんだけど。」
先生が、教室のドアの隙間からひょっこり顔を覗かせて僕を見ている。
「な、何も言ってないです!」
本当は言ったけど、僕はシラを切ることにした。なぜなら、恥ずかしいから。
「大好きとかなんとか言ってたよね?」
「聞こえてたんですか…。」
ちゃんと聞かれていたのか…。
「はい…。言いましたよ。」
「ふーん。」
「興味ないなら聞かないでください。」
「あるよ、もちろん。だって君、目が腫れているし。気になるに決まってるわ。」
さっきちょっと泣いちゃったから目が腫れていたのかもしれない。
「ちょっと感傷に浸ってたんです。」
「君もそんなことするの?意外すぎるわ。」
「失礼ですね。僕だっておセンチな気分の日もあります!」
「んで、誰のことが好きなわけ?」
そんなの決まってる…。
先生は、目をキラキラさせながら僕を見てくる。
「ほら、言ってみてごらん。誰のことかなぁ?」
先生は、僕を見てニヤニヤしながら生物室に入って来た。
(もう逃げられない…。)
「先生ですよ…。」
僕が観念して答えると、先生はパッと笑顔になった。
とても可愛らしいと思った。
先生はいつもちょっとドライでクールな事が多いから。
「あら、どうも。それで、泣いてたのは?」
僕は知っている。先生はちょっとしつこい。
多分、僕が泣いていた理由を知りたがるはず。
「先生とずっと一緒にいたいんです。でも、卒業したら一緒に居られなくなるかもしれないです。端的に言えば、それが不安です。」
「誰も離れるなんて言ってないよね?」
「はい…。でも、不安なんです。先生は忙しいし。何より僕は子供だから。」
「そんな事で泣いたの?本当に子供ね。」
先生は呆れたように言った。
「大丈夫よ…。」
先生は、僕が座っている席の前に座って僕の方を向いた。
「絶対に離れないですか?一緒にいられますか?」
「もちろん。」
微笑む先生が、僕の頭に手を伸ばす。
優しく頭を撫でてくれる。
「大丈夫。私も君の事が好きだから。」
先生は、僕にだけ聞こえる小さな声でつぶやいた。
296
お気に入りに追加
2,781
あなたにおすすめの小説

元婚約者が愛おしい
碧桜 汐香
恋愛
いつも笑顔で支えてくれた婚約者アマリルがいるのに、相談もなく海外留学を決めたフラン王子。
留学先の隣国で、平民リーシャに惹かれていく。
フラン王子の親友であり、大国の王子であるステファン王子が止めるも、アマリルを捨て、リーシャと婚約する。
リーシャの本性や様々な者の策略を知ったフラン王子。アマリルのことを思い出して後悔するが、もう遅かったのだった。
フラン王子目線の物語です。

婚約者を解放してあげてくださいと言われましたが、わたくしに婚約者はおりません
碧桜 汐香
恋愛
見ず知らずの子爵令嬢が、突然家に訪れてきて、婚約者と別れろと言ってきました。夫はいるけれども、婚約者はいませんわ。
この国では、不倫は大罪。国教の教義に反するため、むち打ちの上、国外追放になります。
話を擦り合わせていると、夫が帰ってきて……。

私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。
木山楽斗
恋愛
侯爵家の令嬢であるアルティアは、家で冷遇されていた。
彼女の父親は、妾とその娘である妹に熱を上げており、アルティアのことは邪魔とさえ思っていたのである。
しかし妾の子である意網を婿に迎える立場にすることは、父親も躊躇っていた。周囲からの体裁を気にした結果、アルティアがその立場となったのだ。
だが、彼女は婚約者から拒絶されることになった。彼曰くアルティアは面白味がなく、多少わがままな妹の方が可愛げがあるそうなのだ。
父親もその判断を支持したことによって、アルティアは家に居場所がないことを悟った。
そこで彼女は、母親が懇意にしている伯爵家を頼り、新たな生活をすることを選んだ。それはアルティアにとって、悪いことという訳ではなかった。家の呪縛から解放された彼女は、伸び伸びと暮らすことにするのだった。
程なくして彼女の元に、婚約者が訪ねて来た。
彼はアルティアの妹のわがままさに辟易としており、さらには社交界において侯爵家が厳しい立場となったことを伝えてきた。妾の子であるということを差し引いても、甘やかされて育ってきた妹の評価というものは、高いものではなかったのだ。
戻って来て欲しいと懇願する婚約者だったが、アルティアはそれを拒絶する。
彼女にとって、婚約者も侯爵家も既に助ける義理はないものだったのだ。

殿下が望まれた婚約破棄を受け入れたというのに、どうしてそのように驚かれるのですか?
Mayoi
恋愛
公爵令嬢フィオナは婚約者のダレイオス王子から手紙で呼び出された。
指定された場所で待っていたのは交友のあるノーマンだった。
どうして二人が同じタイミングで同じ場所に呼び出されたのか、すぐに明らかになった。
「こんなところで密会していたとはな!」
ダレイオス王子の登場により断罪が始まった。
しかし、穴だらけの追及はノーマンの反論を許し、逆に追い詰められたのはダレイオス王子のほうだった。

妹が約束を破ったので、もう借金の肩代わりはやめます
なかの豹吏
恋愛
「わたしも好きだけど……いいよ、姉さんに譲ってあげる」
双子の妹のステラリアはそう言った。
幼なじみのリオネル、わたしはずっと好きだった。 妹もそうだと思ってたから、この時は本当に嬉しかった。
なのに、王子と婚約したステラリアは、王子妃教育に耐えきれずに家に帰ってきた。 そして、
「やっぱり女は初恋を追うものよね、姉さんはこんな身体だし、わたし、リオネルの妻になるわっ!」
なんて、身勝手な事を言ってきたのだった。
※この作品は他サイトにも掲載されています。

奪い取るより奪った後のほうが大変だけど、大丈夫なのかしら
キョウキョウ
恋愛
公爵子息のアルフレッドは、侯爵令嬢である私(エヴリーヌ)を呼び出して婚約破棄を言い渡した。
しかも、すぐに私の妹であるドゥニーズを新たな婚約者として迎え入れる。
妹は、私から婚約相手を奪い取った。
いつものように、妹のドゥニーズは姉である私の持っているものを欲しがってのことだろう。
流石に、婚約者まで奪い取ってくるとは予想外たったけれど。
そういう事情があることを、アルフレッドにちゃんと説明したい。
それなのに私の忠告を疑って、聞き流した。
彼は、後悔することになるだろう。
そして妹も、私から婚約者を奪い取った後始末に追われることになる。
2人は、大丈夫なのかしら。

婚約者の不倫相手は妹で?
岡暁舟
恋愛
公爵令嬢マリーの婚約者は第一王子のエルヴィンであった。しかし、エルヴィンが本当に愛していたのはマリーの妹であるアンナで…。一方、マリーは幼馴染のアランと親しくなり…。

今まで尽してきた私に、妾になれと言うんですか…?
水垣するめ
恋愛
主人公伯爵家のメアリー・キングスレーは公爵家長男のロビン・ウィンターと婚約していた。
メアリーは幼い頃から公爵のロビンと釣り合うように厳しい教育を受けていた。
そして学園に通い始めてからもロビンのために、生徒会の仕事を請け負い、尽していた。
しかしある日突然、ロビンは平民の女性を連れてきて「彼女を正妻にする!」と宣言した。
そしえメアリーには「お前は妾にする」と言ってきて…。
メアリーはロビンに失望し、婚約破棄をする。
婚約破棄は面子に関わるとロビンは引き留めようとしたが、メアリーは婚約破棄を押し通す。
そしてその後、ロビンのメアリーに対する仕打ちを知った王子や、周囲の貴族はロビンを責め始める…。
※小説家になろうでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる