真実の愛だからと平民女性を連れて堂々とパーティーに参加した元婚約者が大恥をかいたようです。

田太 優

文字の大きさ
上 下
11 / 15

第11話

しおりを挟む
 ルゴプス・アンフィスバエナ。
 それは【ドラゴンズ・ティアラ】のファンならば誰もが嫌悪する、作中最悪の悪役だ。

 このキャラクターはクズの中のクズと言って遜色ない。
 ネルヴァがまだかわいく見えるほどの、ありとあらゆる悪に手を染めて災厄をまき散らす、悪意と傲慢の結晶体そのものだ。

 ヤツはここアンフィス王国の第二王子、さらに魔法学院の生徒会長である立場を利用して、これから暴虐の限りを尽くすことになる。

 本来、関わるべき人物ではない。
 敵対関係となってしまう主人公に全てを任せてしまいたい、最悪の敵だ。

 しかしこのルゴプス王子は、俺とメメさんが愛するミシェーラ皇女を狙っている。
 ルゴプス王子の狙いは皇帝家への婿入りだ。

 自分が次の皇帝となって、世継ぎである兄を追い落とし、最終的に世界を我が物とする。そんな馬鹿げた夢のために、これから多くの者が犠牲になる。

 当然、主人公の座を横取りするならば、この最悪の悪役との敵対関係が必要となる。それが多くのイベントのトリガーとなる。
 とはいえ俺にはミシェーラ皇女との友好関係があるので、既に敵視されている可能性も高い。

 しかし念には念を入れて、主人公登場前に、ルプゴス王子との敵対イベントをこれから起こす。

 このイベントのトリガーとなるのは、クラスメイトであり攻略キャラであるコルリ・ルリハだ。
 ルプゴス王子は邪魔者であるコルリを生徒会から追放するために、彼女を卑劣な罠にかける。

 このイベントは主人公の転入前から既に始まっているはずだ。

 かくして4月13日。
 コルリの良くない噂を耳にした俺は、ライバル関係強奪のためにコルリに接触した。

「おまえー、なやみとかー、あんのー?」

「え……っ」

 とはいえあまり接点のないクラスメイトだ。
 男性恐怖症気味の彼女との接点を持つには、まおー様という『ぷにぷに』の緩衝材が必要不可欠だった。

 コルリは教室に独り残り、悲しそうに教室の黒板を見つめていた。

「ワレ、まおー。おまえのはなし、きかせろー?」

「まおーさん、ですか?」

「さまをつけろよー、でこすけやろー」

「わ、私っ、そんなにオデコちゃんじゃないです……っ」

 と言いながらも額を抱えられると、教頭ではないがまあ気になってしまう。
 てか頼むよ、まおー様、話が脱線してるってっ。

「なやみ、あんだろー? きいてやるよー」

「スライムさんにはわかりません……」

「ワレ、さわっていいからさー。さっさと、はなせ、めんどくせーなー」

 ぷにぷにのスライムに触っていいと言われたら、それは当然触る。
 コルリ・ルリハはまおー様のヘブンな触り心地に目を広げた。

「私、やってません……。お金なんて、盗んでません……」

「おうー、それ、つれーなー……」

 コルリ・ルリハのエピソードはそういう話だ。
 最初からぶっちゃけてしまうと、コルリは最悪のルプゴス王子に冤罪を着せられた。

「装備共同購入制度のお金を、私が盗んだとみんなが言うんです……」

「そっかー。でもなー、ワレにはなー、そうはみえねーなー」

「ありがとう、まおー様……」

「なんか、ムカつくなー。なんかー、やだなー、そういうのー」

 装備共同購入制度というのは、何かと高価な武器防具を学生が少しでも安く購入するための仕組みだ。
 共同購入者が集まるまで1~3ヶ月がかかるが、人さえ集まれば市場価格の7~9割ほどのお値段で武器防具が買える。

 この制度は購入前に代金を積み立てる。
 代金は金属製の【空色の小箱】に積められ、学校側が大切にこれを保管する。

「そのお金がね……消えてしまったの……。私は確かに先生に渡したはずなのに、保管中に箱の中から、お金が消えてしまったんですって……」

「えーー? ならおまえー、わるくないと、おもーけどなー?」

「箱を開けるには、パスワードが必要なの……。そのパスワードを知っているのは、業者の人か、私か、私に任せた生徒会長さんしかいないの……」

「へへへー、ワレ、はんにん、わかったー。はんにんは、せーとかいちょー、だな」

「そう、なのかしら……」

 普段、あれだけ温厚な少女コルリが人を疑う顔をした。
 だがまおー様の推理には穴がある。生徒会長ルプゴス王子にはアリバイがあった。コルリも同じことをまおー様に説明した。

「それ、うら、あんなー」

「裏、ですか……?」

「だってさー、べつにさー、せいとかいちょーが、じっこーはん? ならなくても、いいしなー?」

「あ、言われてみれば……そうですね……?」

「ぱすわーど? ほかのやつにさー、おしえれば、いいだろー? だったらアリバイなんて、いみねーし」

 まおー様、やるな。
 今回の事件、ぶっちゃけてしまうとその通りだ。

 今回の事件の実行犯は若い用務員の男だ。
 ルプゴス王子は普段から飼っていたこの男にパスワードを教え、金を盗ませた。
 生徒会から書記コルリを追い出し、もっと操りやすい腐った人間に交代させるために。

「私、どうすればいいんでしょうか……」

「へへへー、ワレが、たすけてやろーかー?」

「え、まおー様が……?」

「ワレ、こーみえてなー、つかえるこぶん、もってんだよなー」

「子分がいるんですかっ、そのお姿で!?」

「よぶかー? よんでやろーかー? あたま、まあまあいいし、つえーし、けっこー、つかえるぜー?」

「もう……なんでもいいです……。助けて下さるなら、もう誰でもいいです!! 助けて下さい、まおー様っ!!」

「だってよー、さっさとこいよなー、ヴァレリウスー」

「えっっ、ヴァレリウスくんっ?!」

 子分扱いがちょっとしゃくだが、なかなか面白い切り口だった。
 俺はのぞき見を止めて本校舎2階に壁をすり抜けると、コルリとまおー様のいる教室にノックをしてから踏み入った。

「待ったか、まおー親分」

「へっ、これ、よべばくるやつなー。なまえ、ヴァレリウス」

「調子に乗るな。……あー、ご紹介に与りました、ヴァレリウスだ」

 コルリさんは男性恐怖症だ。
 女の子同士なら無邪気に笑える女の子だが、男を前にするとてんでダメだ。
 そんないたいけな女性が恐怖にひきつった目で俺を見る。

 3回も攻略したのに、現実の好感度はゼロどころかマイナスだった……。

「よ……よろしく、お願いします……」

「話はまおー様から聞いた。その、テレパシー的な、何かで。……とにかく、まおー様の忠実な下僕である俺が、この事態を解決してみせよう」

 これは俺が主役になるより、まおー様を立てた方が話が早いな。
 俺が下僕と認めたことがそんなに嬉しいのか、まおー様は高々と跳ねて喜んでいた。

「うまくやれよー、めーたんてー。コルリのためにー、どれーとなって、はたらけよなー?」

 安心したようにコルリがまおー様に微笑んだ。
 コルリさんは冤罪を着せられ、いつ退学させられるかもわからない立場だ。
 その微笑みには黄金よりも高い価値があった。

「まおー様のお言葉のままに。では、俺は調査に向かいますので、明日あらためてご報告を」

「ほらねー、ワレの、ちゅーじつな、こぶんでしょー? ワレ、きょうはコルリとー、ねたいなー? だめかー?」

「い、いえっっ、ぜひご一緒して下さい! 部屋に独りだと、胸が、潰れてしまいそうで……」

「へっ、ワレがあたためてやんよー、べいべー」

 ディスプレイ越しに見ていた頃は、これは結局のところ介入の出来ない別世界の出来事だった。
 だがこうしてこの世界に立ち、実際に事案を目の当たりにすると無性に腹が立つ。

 生徒会を我が物にするために、なぜ真面目な女子生徒を退学まで追い込む必要があるのか。
 ルプゴス・アンフィスバエナ王子ってやつは相当にヤバい。コイツは人の破滅を楽しんでいる。

 俺は今日だけまおー様の下僕として、事件をスピード解決させるべく動き出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元婚約者が愛おしい

碧桜 汐香
恋愛
いつも笑顔で支えてくれた婚約者アマリルがいるのに、相談もなく海外留学を決めたフラン王子。 留学先の隣国で、平民リーシャに惹かれていく。 フラン王子の親友であり、大国の王子であるステファン王子が止めるも、アマリルを捨て、リーシャと婚約する。 リーシャの本性や様々な者の策略を知ったフラン王子。アマリルのことを思い出して後悔するが、もう遅かったのだった。 フラン王子目線の物語です。

【完結】恨んではいませんけど、助ける義理もありませんので

白草まる
恋愛
ユーディトはヒュベルトゥスに負い目があるため、最低限の扱いを受けようとも文句が言えない。 婚約しているのに満たされない関係であり、幸せな未来が待っているとは思えない関係。 我慢を続けたユーディトだが、ある日、ヒュベルトゥスが他の女性と親密そうな場面に出くわしてしまい、しかもその場でヒュベルトゥスから婚約破棄されてしまう。 詳しい事情を知らない人たちにとってはユーディトの親に非がある婚約破棄のため、悪者扱いされるのはユーディトのほうだった。

婚約者を解放してあげてくださいと言われましたが、わたくしに婚約者はおりません

碧桜 汐香
恋愛
見ず知らずの子爵令嬢が、突然家に訪れてきて、婚約者と別れろと言ってきました。夫はいるけれども、婚約者はいませんわ。 この国では、不倫は大罪。国教の教義に反するため、むち打ちの上、国外追放になります。 話を擦り合わせていると、夫が帰ってきて……。

殿下が望まれた婚約破棄を受け入れたというのに、どうしてそのように驚かれるのですか?

Mayoi
恋愛
公爵令嬢フィオナは婚約者のダレイオス王子から手紙で呼び出された。 指定された場所で待っていたのは交友のあるノーマンだった。 どうして二人が同じタイミングで同じ場所に呼び出されたのか、すぐに明らかになった。 「こんなところで密会していたとはな!」 ダレイオス王子の登場により断罪が始まった。 しかし、穴だらけの追及はノーマンの反論を許し、逆に追い詰められたのはダレイオス王子のほうだった。

妹が約束を破ったので、もう借金の肩代わりはやめます

なかの豹吏
恋愛
  「わたしも好きだけど……いいよ、姉さんに譲ってあげる」  双子の妹のステラリアはそう言った。  幼なじみのリオネル、わたしはずっと好きだった。 妹もそうだと思ってたから、この時は本当に嬉しかった。  なのに、王子と婚約したステラリアは、王子妃教育に耐えきれずに家に帰ってきた。 そして、 「やっぱり女は初恋を追うものよね、姉さんはこんな身体だし、わたし、リオネルの妻になるわっ!」  なんて、身勝手な事を言ってきたのだった。 ※この作品は他サイトにも掲載されています。

私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。

木山楽斗
恋愛
侯爵家の令嬢であるアルティアは、家で冷遇されていた。 彼女の父親は、妾とその娘である妹に熱を上げており、アルティアのことは邪魔とさえ思っていたのである。 しかし妾の子である意網を婿に迎える立場にすることは、父親も躊躇っていた。周囲からの体裁を気にした結果、アルティアがその立場となったのだ。 だが、彼女は婚約者から拒絶されることになった。彼曰くアルティアは面白味がなく、多少わがままな妹の方が可愛げがあるそうなのだ。 父親もその判断を支持したことによって、アルティアは家に居場所がないことを悟った。 そこで彼女は、母親が懇意にしている伯爵家を頼り、新たな生活をすることを選んだ。それはアルティアにとって、悪いことという訳ではなかった。家の呪縛から解放された彼女は、伸び伸びと暮らすことにするのだった。 程なくして彼女の元に、婚約者が訪ねて来た。 彼はアルティアの妹のわがままさに辟易としており、さらには社交界において侯爵家が厳しい立場となったことを伝えてきた。妾の子であるということを差し引いても、甘やかされて育ってきた妹の評価というものは、高いものではなかったのだ。 戻って来て欲しいと懇願する婚約者だったが、アルティアはそれを拒絶する。 彼女にとって、婚約者も侯爵家も既に助ける義理はないものだったのだ。

奪い取るより奪った後のほうが大変だけど、大丈夫なのかしら

キョウキョウ
恋愛
公爵子息のアルフレッドは、侯爵令嬢である私(エヴリーヌ)を呼び出して婚約破棄を言い渡した。 しかも、すぐに私の妹であるドゥニーズを新たな婚約者として迎え入れる。 妹は、私から婚約相手を奪い取った。 いつものように、妹のドゥニーズは姉である私の持っているものを欲しがってのことだろう。 流石に、婚約者まで奪い取ってくるとは予想外たったけれど。 そういう事情があることを、アルフレッドにちゃんと説明したい。 それなのに私の忠告を疑って、聞き流した。 彼は、後悔することになるだろう。 そして妹も、私から婚約者を奪い取った後始末に追われることになる。 2人は、大丈夫なのかしら。

【完結】まだ結婚しないの? 私から奪うくらい好きな相手でしょう?

横居花琉
恋愛
長い間婚約しているのに結婚の話が進まないことに悩むフローラ。 婚約者のケインに相談を持ち掛けても消極的な返事だった。 しかし、ある時からケインの行動が変わったように感じられた。 ついに結婚に乗り気になったのかと期待したが、期待は裏切られた。 それも妹のリリーによってだった。

処理中です...