真実の愛だからと平民女性を連れて堂々とパーティーに参加した元婚約者が大恥をかいたようです。

田太 優

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第9話

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おかしい。
何かがおかしい。
ここは貴族の社交の場。
そのはずなのに俺と積極的に交流しようという意思が感じられない。
それどころか冷淡な反応を見せるのは何か理由があるはずだ。

エナの様子を窺うと顔色が悪く、参加者たちの反応がエナを苦しめていることは明らかだった。
誰からも婚約を祝う言葉がないのだから、エナのことを歓迎していないのだろう。

所詮貴族なんて平民を見下す存在だ。
俺の婚約者であってもエナは平民。
貴族の婚約者であれば平民であっても貴族とみなすはずだが、悲しいがこれが現実だ。
俺がどうにかしようにも、どうにもならない。

だが社交の場で社交をしないのは問題だ。
気を取り直してソーウェル伯爵家のセレオン様に挨拶すべく人々が集まっているところへ向かう。

「大丈夫なの?」
「任せておけ」

不安そうなエナを安心させるために、俺は自信満々で答えた。
まさか主催者であるソーウェル伯爵家のセレオン様ともあろうお方が低俗な貴族共と同じような反応を示すはずがない。

俺たちが近づくと会話が中断され、俺のために場所を空けてくれた。
さすがセレオン様の近くの貴族は気遣いができている。

「お招きいただき光栄です。アシュー・インガーロです。どうかお見知りおきください」
「初めまして。エナと言います。今日はこんな素敵なパーティーに呼んでくれて嬉しいです」
「ふっ……」

挨拶したのに鼻で笑われただと!?
信じられない。
ソーウェル伯爵家のセレオン様ともあろうお方がそのような反応をするとは。

周囲の貴族たちも笑いを噛み殺しているようだ。

「やれやれ、インガーロ男爵家の人間は礼儀作法を学んでいないようだな。まさかそのようなことがあるとは思わなかった。勉強になったよ」

礼儀作法だと?
俺は問題のあるような振る舞いをしていない。
問題があるとすればエナか?
エナは平民でまだ礼儀作法は十分ではない。
その程度のことを配慮しないとは、セレオン様も案外器が小さいのだな。

「お言葉ですが、どこに問題があったというのですか?場合によってはソーウェル伯爵家に抗議させていただきますよ」
「ははっ、威勢が良いな。さすが噂のアシュー殿だな。それにエナも」

エナのことを言われて黙っていられる俺ではない。
怒りを込めて抗議する。

「……エナが平民だから侮辱するのですか?」
「侮辱ではないさ。侮辱というならアシュー殿やエナのほうこそ侮辱だ」

このままだと話は平行線だ。
だが事態を打破できるような案は思いつかない。

「それとも自分たちには何ら恥ずべきことがないとでも思っているのか?さすが浮気して婚約破棄されただけのことはあるな」

察した。
これはルビアが俺たちを吊るし上げるための場であり、セレオン様も協力しているのだと。
ソーウェル伯爵家から招待された時点でもう罠に嵌められていたということだ。
立場上断ることができないのだから見事な策だ。

「それはセレオン様には関係のないことです」
「確かに関係はない。だが自分の行いが他人にどう評価されるのか、もっと考えたほうがいいぞ」
「…ご教授、ありがとうございます」

屈辱だった。
屈辱であろうとも耐えてへりくだらなくてはならない。
悲しいがインガーロ男爵家ではソーウェル伯爵家の不興を買う訳にはいかないのだ。

エナの様子を見ると頭すら下げていなかったので目で伝える。
エナも慌てて頭を下げた。

これで満足か?
このようなことで憂さ晴らしして満足か?

ルビア、それにセレオン様。
弱い者いじめしかできない悲しい人たちだ。

「やれやれ、本当に知らないのか?ならば仕方ない、教えてあげよう。このような場では爵位の低い者から高い者へ声をかけるのは無作法とされる」
「!!!」

理解した。
確かに俺たちから挨拶してしまった。
言われて気付いたが、確かにそのようなマナーがあった。
あまり社交の場に出ないから失敗した……。

「どうやら過ちに気付けたようだな。だが済んだことでも出来事を無かったことにはできない。どのような問題を引き起こそうが甘んじて受け入れる他ないだろうな」
「……知らなかったとはいえ失礼しました」

公衆の面前で頭を下げる屈辱。
だが周囲の反応が冷淡だった理由も理解できてしまった。
自分のミスでもあるが、こういう時に問題を事前に防いでくれる婚約者がいれば良かった。
エナには荷が重いだろう。

それでもエナにはエナの良さがある。
愛は利害ではないのだ。
利害を超えた愛こそが真実の愛だ。

「こんなのおかしいです」

頭を下げている俺の隣から聞こえてきた声は間違いなくエナのものだった。
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