真実の愛だからと平民女性を連れて堂々とパーティーに参加した元婚約者が大恥をかいたようです。

田太 優

文字の大きさ
上 下
8 / 15

第8話

しおりを挟む
初めて見たエナは平民らしく場にそぐわないセンスの服装と礼儀作法を無視した振る舞いだった。
ドレスも似合わなければ派手さを強調するようなアクセサリーも悪趣味だし、振る舞いも礼儀作法すら学んでいないようで全然駄目。
まるで道化師か勘違いした裕福な平民みたい。
そう思ったのは私だけではないようだ。

「まあ、あれが噂の?」
「ええ。あの下品さは、さすが平民ね」

私がわざわざ根回ししてあげたというのに、そのようなことをしなくてもエナは嘲笑の対象になっていた。
パーティーの参加者がアシューとエナへ向ける視線は好奇と侮蔑が含まれている。
浮気の事実よりも見た目で判断できる部分のほうが効果的だった。
だってあのような不格好な姿を晒してしまえばね…。

貴族たちはスキャンダルが大好物。
アシューが私を捨ててまで選んだ平民の女性がどういったものなのか興味津々で、事前の根回しのこともあり、誰もが二人のことを知っている。
その影響もあって注目を集めたはずなのに、それを上回るセンスの無い服装で話題は持ち切り。
私の予想を裏切ってくれる。

それに二人は妙に大人しいし、このままでは盛り上がりに欠けるだろう。
仕方ないので私が盛り上げてあげる。

私はアシューとエナに近づいた。

「ごきげんよう、アシュー様。初めまして、エナ様」

優雅にカーテシーを決める。
これが貴族の令嬢として当然の挨拶。

「久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
「…初めまして」

アシューが無作法なのは知っていたけど、エナは名乗りもしなければ礼儀作法に則った挨拶すらできない。
名乗れる家名も無いもの。
そこには同情するわ。
でもそれでも貴族の婚約者になったのだから覚悟はあるのだろう。

挨拶すらまともにできないエナに周囲からは失笑が漏れている。
それに気付いたのか、エナは悔しそうに歯を食いしばっている。

「主催者であるソーウェル伯爵家の方々への挨拶もよろしいですけど、この場には多くの貴族が参加されています。ご挨拶に回ったほうがよろいのでは?」
「…ああ、それもそうだな」

私は間違ったことは言っていない。
他の貴族との交流の場でもあるのだから、ただ参加するだけでは意味が薄い。
同じ男爵家なら挨拶に回っても問題ないけど、まさか爵位が上の人にまで自分から挨拶をするような失礼なことはしないわよね?

常識があったのか気後れしたのか、あるいは偶然なのか。
アシューとエナは男爵家の人たちに挨拶していた。
会場の中心から遠い場所にいる人は必然的に男爵家の人たちになるから運に助けられたとしか思えないけど。

でもアシューたちが挨拶しても返ってくるのは冷淡な反応のようだった。
だって当然じゃない。
浮気して平民女性と婚約したのだから、アシューもエナも常識がないと判断されたのだろう。
貴族家同士が縁を深めるための結婚なのに、それを捨てるような判断をしたインガーロ男爵家が見限られていることには気付かないのだろう。

それに挨拶だってあれではね…。
挨拶して回っているけど、自分たちが無作法だと宣伝しているようなもの。
本人たちが気付いているのかはわからないけど、それでも挨拶回りを続けるアシューたちは哀れだ。
同じように冷淡な反応が繰り返され、エナの顔からは精気が失われている。

このような貴族が集まるパーティーに参加するような厚顔無恥な二人には当然の報いだ。
浮気した代償は支払ってもらわないとね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元婚約者が愛おしい

碧桜 汐香
恋愛
いつも笑顔で支えてくれた婚約者アマリルがいるのに、相談もなく海外留学を決めたフラン王子。 留学先の隣国で、平民リーシャに惹かれていく。 フラン王子の親友であり、大国の王子であるステファン王子が止めるも、アマリルを捨て、リーシャと婚約する。 リーシャの本性や様々な者の策略を知ったフラン王子。アマリルのことを思い出して後悔するが、もう遅かったのだった。 フラン王子目線の物語です。

婚約者を解放してあげてくださいと言われましたが、わたくしに婚約者はおりません

碧桜 汐香
恋愛
見ず知らずの子爵令嬢が、突然家に訪れてきて、婚約者と別れろと言ってきました。夫はいるけれども、婚約者はいませんわ。 この国では、不倫は大罪。国教の教義に反するため、むち打ちの上、国外追放になります。 話を擦り合わせていると、夫が帰ってきて……。

殿下が望まれた婚約破棄を受け入れたというのに、どうしてそのように驚かれるのですか?

Mayoi
恋愛
公爵令嬢フィオナは婚約者のダレイオス王子から手紙で呼び出された。 指定された場所で待っていたのは交友のあるノーマンだった。 どうして二人が同じタイミングで同じ場所に呼び出されたのか、すぐに明らかになった。 「こんなところで密会していたとはな!」 ダレイオス王子の登場により断罪が始まった。 しかし、穴だらけの追及はノーマンの反論を許し、逆に追い詰められたのはダレイオス王子のほうだった。

妹が約束を破ったので、もう借金の肩代わりはやめます

なかの豹吏
恋愛
  「わたしも好きだけど……いいよ、姉さんに譲ってあげる」  双子の妹のステラリアはそう言った。  幼なじみのリオネル、わたしはずっと好きだった。 妹もそうだと思ってたから、この時は本当に嬉しかった。  なのに、王子と婚約したステラリアは、王子妃教育に耐えきれずに家に帰ってきた。 そして、 「やっぱり女は初恋を追うものよね、姉さんはこんな身体だし、わたし、リオネルの妻になるわっ!」  なんて、身勝手な事を言ってきたのだった。 ※この作品は他サイトにも掲載されています。

私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。

木山楽斗
恋愛
侯爵家の令嬢であるアルティアは、家で冷遇されていた。 彼女の父親は、妾とその娘である妹に熱を上げており、アルティアのことは邪魔とさえ思っていたのである。 しかし妾の子である意網を婿に迎える立場にすることは、父親も躊躇っていた。周囲からの体裁を気にした結果、アルティアがその立場となったのだ。 だが、彼女は婚約者から拒絶されることになった。彼曰くアルティアは面白味がなく、多少わがままな妹の方が可愛げがあるそうなのだ。 父親もその判断を支持したことによって、アルティアは家に居場所がないことを悟った。 そこで彼女は、母親が懇意にしている伯爵家を頼り、新たな生活をすることを選んだ。それはアルティアにとって、悪いことという訳ではなかった。家の呪縛から解放された彼女は、伸び伸びと暮らすことにするのだった。 程なくして彼女の元に、婚約者が訪ねて来た。 彼はアルティアの妹のわがままさに辟易としており、さらには社交界において侯爵家が厳しい立場となったことを伝えてきた。妾の子であるということを差し引いても、甘やかされて育ってきた妹の評価というものは、高いものではなかったのだ。 戻って来て欲しいと懇願する婚約者だったが、アルティアはそれを拒絶する。 彼女にとって、婚約者も侯爵家も既に助ける義理はないものだったのだ。

どうかこの偽りがいつまでも続きますように…

矢野りと
恋愛
ある日突然『魅了』の罪で捕らえられてしまった。でも誤解はすぐに解けるはずと思っていた、だって私は魅了なんて使っていないのだから…。 それなのに真実は闇に葬り去られ、残ったのは周囲からの冷たい眼差しだけ。 もう誰も私を信じてはくれない。 昨日までは『絶対に君を信じている』と言っていた婚約者さえも憎悪を向けてくる。 まるで人が変わったかのように…。 *設定はゆるいです。

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

奪い取るより奪った後のほうが大変だけど、大丈夫なのかしら

キョウキョウ
恋愛
公爵子息のアルフレッドは、侯爵令嬢である私(エヴリーヌ)を呼び出して婚約破棄を言い渡した。 しかも、すぐに私の妹であるドゥニーズを新たな婚約者として迎え入れる。 妹は、私から婚約相手を奪い取った。 いつものように、妹のドゥニーズは姉である私の持っているものを欲しがってのことだろう。 流石に、婚約者まで奪い取ってくるとは予想外たったけれど。 そういう事情があることを、アルフレッドにちゃんと説明したい。 それなのに私の忠告を疑って、聞き流した。 彼は、後悔することになるだろう。 そして妹も、私から婚約者を奪い取った後始末に追われることになる。 2人は、大丈夫なのかしら。

処理中です...