真実の愛だからと平民女性を連れて堂々とパーティーに参加した元婚約者が大恥をかいたようです。

田太 優

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第7話

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ソーウェル伯爵家が主催するパーティーは近隣の貴族が招待される。
当然我がインガーロ男爵家にも招待状が届いている。
今回はエナのお披露目でもあるのだから、参加者は俺とエナだ。

「ソーウェル伯爵ってこの辺りで一番偉いんでしょ?気合入れないと」
「ははは、エナは今でも十分に綺麗だよ」
「えっ、でももっと綺麗なほうがアシューも嬉しいでしょ?」
「それは当然だとも」
「ならドレスを新調しないとね。ね、いいでしょ?」
「ああ」

新調といっても今から仕立てて間に合うものではないし、そもそも十分な技術を持つ職人は領地にいない。
他の領地から取り寄せて直して着るしかないだろう。
それならまだ間に合うはずだ。

「当然アクセサリーもよね?」
「そうだな」

確かにドレスだけでは見栄えがしない。
しかしアクセサリーも全部新調するとなると予算的に厳しいぞ…。
だが目を輝かせているエナを見ると、どうにかしなくてはと思ってしまう。

こうしてパーティーに向けての準備は進んでいった。
出費の多さに父上から文句を言われたが、インガーロ男爵家の名誉の問題もあるので黙らせた。

* * * * * * * * * *

パーティーの日。
ソーウェル伯爵領は遠いので前日には領都入りし宿に泊まった。
今はソーウェル伯爵邸へ向けてエナと共に馬車で移動中だ。

「楽しみね」
「ああ。きっとみんなエナの美しさに見とれてしまうだろうな」
「そうよね。これも全部アシューのお陰ね」
「そう言ってくれると嬉しくなる。エナのためだからな」

着飾ったエナの魅力は普段の数倍かもしれない。
モテない男も参加するだろうから惚れられても困る。
だがエナは浮気したりはしないだろう。
そんなことで次期インガーロ男爵夫人の座を逃すようなことはないだろうからな。

* * * * * * * * * *

ソーウェル伯爵邸に着き館の大広間に通されたが、既にそこには大勢の参加者がいた。

「すごいわ、これが貴族のパーティーなのね」

エナは感激し周囲を見渡し、それでもまだ感激している。
エナにとっては初めてだろうし、たぶん憧れだったのだろう。
俺の目から見ても華やかさでは他に類を見ないくらいのものだ。
さすがソーウェル伯爵家といったところだな。

エナは他の女性たちを見て、そして自分の格好を見ていた。

「……みすぼらしくて恥ずかしいわ」
「そんなことないさ。エナの持つ魅力はドレスなんか関係ない」
「そうじゃないのよ…」

しまった、何か良くない発言だったみたいだ。
エナは不機嫌そうな顔をしている。

俺にとってはエナこそが一番美しく思える。
他の令嬢たちに比べても……。

改めて他の令嬢たちを見ると、確かにエナよりも魅力的に思えた。
再びエナを見る。
他の令嬢たちを見る。

………まあエナだからな。
比べたところで俺もエナも幸せにはなれないだろう。

だが…再び周囲の様子を窺う。
気のせいか俺たちは注目されている!?

「なあエナ」
「何よ?」
「俺たち、注目されてないか?」

言われてエナも周囲の様子を見渡す。
あまりにも堂々とした振る舞いに俺のほうが恥ずかしくなってしまった。

「……そうみたい。しかも見下しているようだけど?」
「そうか…」

実は俺も同じように感じていた。
だが見下されるような理由はエナが平民だからという事しか思いつかない。

「俺たちに嫉妬したに決まっている。ほら、貴族なんて政略結婚が多いだろう?真実の愛は羨む対象なんだ」

あえて嘘をつく。
本当の事を言ったところでエナにはどうしようもないことだ。
俺と結婚すれば貴族家当主夫人になるのだから、それまでの我慢だ。

「そうだったの。可哀そうな人たちなのね」

でもエナ、そういう発言を聞かれると自分の首を絞めることになるぞ。
やはりエナではそういった常識に疎いか。
馬鹿っぽいところも可愛いけどな。

だが……やはり平民では俺の婚約者として厳しいか。
かといって今更どうにもならない。
今後の成長に期待するしかないな。

しかし………やはり俺たちは笑われているようだ。
そして俺は察した。

これはルビアの仕業に違いないと。
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