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第6話
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アシューに婚約破棄した後、私は忙しく活動していた。
そして今、その仕上げのためにソーウェル伯爵家の令息、セレオン様と打ち合わせをしている。
ソーウェル伯爵はこの地域一帯のまとめ役。
そのソーウェル伯爵家が主催するパーティーなのだから近隣の領地の貴族は参加しない訳にはいかない。
特にセレオン様はまだ婚約者がいないため、婚約者になろうとする令嬢たちは間違いなく参加するだろう。
本人の意思であれ家の都合であれ、参加することには代わらない。
パーティーで一波乱あるかもしれないので事前に話を通しておく必要があり、わざわざセレオン様に時間を取っていただいたのだ。
快く引き受けてくれたセレオン様には感謝している。
「そういえばアシューが婚約したらしいな」
「そのようですね。そのお相手が浮気相手のエナですよ」
「まったく厚かましい女性だな。でも平民であっても貴族の婚約者なら貴族の身分として扱わないとな。だがそれは一般常識。ルビア嬢の狙いは違うんだろう?」
「さすがセレオン様、ご慧眼です。実はインガーロ男爵家との契約でアシューとエナの浮気の事実を広めても問題ないようになっています」
「ほう、それで噂が広まっていたのか」
「はい」
ソーウェル伯爵家との打ち合わせの前に私は噂を広めておいた。
私に非がないことを知らしめておかないと、私が一人でパーティーに参加して何かあったのではないかと誤解されてしまうかもしれなかったためだ。
私の名誉のためであり、レクーナ男爵家の名誉のためでもある。
当然アシューの不名誉であり、インガーロ男爵家の不名誉であることを知らしめる目的もあったけど。
「その浮気相手と婚約したのだから本気だということだろう。本人たちはそれでいいのかもしれないが、はたして他の参加者はどう思うのかな?」
「きっとセレオン様の想像通りだと思います」
セレオン様も悪そうな顔をする。
とはいえアシューがそうさせたようなものだし、セレオン様でなくとも同じように悪い顔になるに違いない。
それだけアシューが侮られるようなことをしたのだから。
馬鹿にされても仕方ないことをしたのだから。
婚約を軽んじるのは契約を軽んじることであり、そのような人間が信用を失うのも当然だもの。
愚か以外の何と表現すればいいのか。
「それにしてもインガーロ男爵はよく噂を広めることに同意したものだ。あの子にあの親。インガーロ男爵家はその程度なのか?」
「恐らくはそうでないかと思います」
「そうか…。だがそのほうが都合がいいな。まともな貴族ならルビア嬢に非がないことは明らかであり、その根拠となるものは多数確認できる。真っ当に考えられるならルビア嬢は非難されることはない」
「はい」
「だがもし謂れなき非難を受けるようだったら言ってくれ。俺が対処する」
「ありがとうございます」
セレオン様の心遣いが嬉しかった。
誇りあるソーウェル伯爵家の令息としての振る舞いに感動してしまう。
気遣いに好きになってしまいそうになる。
地域のまとめ役たるソーウェル伯爵家の一員として頼もしい。
「良い見世物になるだろうな。それを教訓として愚かな振る舞いが減ればいいのだが」
「そうですね」
そう、アシューとエナは見世物になるのだ。
特にエナは平民なのだから、貴族のパーティーに憧れがあるはず。
礼儀作法だって身につけてはいないだろうし、喜び勇んで参加したら思いっきり恥をかくことになるだろう。
これは私の仕返しであり、インガーロ男爵も認めたこと。
浮気の事実を広めた結果、どうなろうとも責任を追及しないことになっている。
自分が選んだ相手がどういった結果をもたらすのか、アシューは身をもって知ればいい。
「当日が楽しみだな」
「ええ。これもセレオン様のお陰です。ありがとうございます」
「なに、ルビア嬢の頼みだ。気にしなくていい」
セレオン様の協力なしにはこの案は実現しないだろう。
セレオン様には本当に感謝している。
こうして根回しは完了した。
そして今、その仕上げのためにソーウェル伯爵家の令息、セレオン様と打ち合わせをしている。
ソーウェル伯爵はこの地域一帯のまとめ役。
そのソーウェル伯爵家が主催するパーティーなのだから近隣の領地の貴族は参加しない訳にはいかない。
特にセレオン様はまだ婚約者がいないため、婚約者になろうとする令嬢たちは間違いなく参加するだろう。
本人の意思であれ家の都合であれ、参加することには代わらない。
パーティーで一波乱あるかもしれないので事前に話を通しておく必要があり、わざわざセレオン様に時間を取っていただいたのだ。
快く引き受けてくれたセレオン様には感謝している。
「そういえばアシューが婚約したらしいな」
「そのようですね。そのお相手が浮気相手のエナですよ」
「まったく厚かましい女性だな。でも平民であっても貴族の婚約者なら貴族の身分として扱わないとな。だがそれは一般常識。ルビア嬢の狙いは違うんだろう?」
「さすがセレオン様、ご慧眼です。実はインガーロ男爵家との契約でアシューとエナの浮気の事実を広めても問題ないようになっています」
「ほう、それで噂が広まっていたのか」
「はい」
ソーウェル伯爵家との打ち合わせの前に私は噂を広めておいた。
私に非がないことを知らしめておかないと、私が一人でパーティーに参加して何かあったのではないかと誤解されてしまうかもしれなかったためだ。
私の名誉のためであり、レクーナ男爵家の名誉のためでもある。
当然アシューの不名誉であり、インガーロ男爵家の不名誉であることを知らしめる目的もあったけど。
「その浮気相手と婚約したのだから本気だということだろう。本人たちはそれでいいのかもしれないが、はたして他の参加者はどう思うのかな?」
「きっとセレオン様の想像通りだと思います」
セレオン様も悪そうな顔をする。
とはいえアシューがそうさせたようなものだし、セレオン様でなくとも同じように悪い顔になるに違いない。
それだけアシューが侮られるようなことをしたのだから。
馬鹿にされても仕方ないことをしたのだから。
婚約を軽んじるのは契約を軽んじることであり、そのような人間が信用を失うのも当然だもの。
愚か以外の何と表現すればいいのか。
「それにしてもインガーロ男爵はよく噂を広めることに同意したものだ。あの子にあの親。インガーロ男爵家はその程度なのか?」
「恐らくはそうでないかと思います」
「そうか…。だがそのほうが都合がいいな。まともな貴族ならルビア嬢に非がないことは明らかであり、その根拠となるものは多数確認できる。真っ当に考えられるならルビア嬢は非難されることはない」
「はい」
「だがもし謂れなき非難を受けるようだったら言ってくれ。俺が対処する」
「ありがとうございます」
セレオン様の心遣いが嬉しかった。
誇りあるソーウェル伯爵家の令息としての振る舞いに感動してしまう。
気遣いに好きになってしまいそうになる。
地域のまとめ役たるソーウェル伯爵家の一員として頼もしい。
「良い見世物になるだろうな。それを教訓として愚かな振る舞いが減ればいいのだが」
「そうですね」
そう、アシューとエナは見世物になるのだ。
特にエナは平民なのだから、貴族のパーティーに憧れがあるはず。
礼儀作法だって身につけてはいないだろうし、喜び勇んで参加したら思いっきり恥をかくことになるだろう。
これは私の仕返しであり、インガーロ男爵も認めたこと。
浮気の事実を広めた結果、どうなろうとも責任を追及しないことになっている。
自分が選んだ相手がどういった結果をもたらすのか、アシューは身をもって知ればいい。
「当日が楽しみだな」
「ええ。これもセレオン様のお陰です。ありがとうございます」
「なに、ルビア嬢の頼みだ。気にしなくていい」
セレオン様の協力なしにはこの案は実現しないだろう。
セレオン様には本当に感謝している。
こうして根回しは完了した。
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