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鯉の恋
第二話
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「じゃあ、高樹君、引っ越しちゃうの?」
雪桜が疑問を口にする。
「オレは聞いてない」
「内見っていつ?」
秀が頼母に訊ねる。
「明日だ」
頼母が答えた。
「えっ!?」
俺は思わず声を上げたが、考えてみたら高樹の母は看護師なのだ。
休みが土日とは限らない。
「じゃあ、今夜行かないとダメだよな」
俺が言った。
万一予定が前倒しになって予定より早くいってしまったら大変だ。
俺達は今夜行くことにした。
雪桜は女の子だからと言うのもあるが全く見えないし聞こえないので化生退治には同行しない。
というかさせないようにしている。
見聞き出来ないのでは攻撃されたとき避けられないからだ。
その夜、俺達四人は頼母から聞いたマンションにやってきた。
俺、秀、高樹、祖母ちゃんである。
マンションだから出来れば昼間、住人のような顔で入ってきたかったのだが……。
夜間に他所のマンションの中をうろついていたなどと言う理由で通報されて捕まったりしたら困る。
人気のないマンションの廊下は静まりかえっていて何の音もしない。
口を開いたらマンション中に響き渡ってしまいそうだった。
俺は黙ってスマホ画面に目を落として部屋番号を確認する。
目的の部屋を目指して廊下を進んでいく。
部屋の側まで行った時、突然誰もいなかった廊下に白い人影が現れた。
「ぎゃぁ……!」
悲鳴を上げかけた俺の口を秀が慌てて手で塞いだ。
「しー!」
秀が小声で窘める。
俺は震えながら白いものを指した。
化生は平気だがお化けは怖い。
廊下の先は突き当たりで階段などもないからアレは何もないところから現れたのだ。
間違いなくお化けだ。
「ただの幽霊よ」
祖母ちゃんが平然と言った。
「有料のお化けがいるのかよ!」
俺が小声で反論する。
「お化け屋敷とか」
「それは仮装した人間だろ!」
「お化け屋敷にいるのは人間だけじゃな……」
「よせ! お化け屋敷に入れなくなるだろ!」
「そんな事はどうでもいいだろ」
高樹が俺と祖母ちゃんの間に割って入った。
「そうだった。あれが人を誘拐してるのか?」
俺は祖母ちゃんに訊ねた。
「違うわよ」
「じゃあ、化生とは別にお化けまでいるのか? だからセット割で家賃が安いとか?」
俺がそう言うと高樹が嫌な顔をした。
家賃が安いという理由でお化けと化生が取り憑いている部屋には住みたくないだろう。
お化けや化生が見えない普通の人間にとっては家賃が安い部屋は掘り出し物だろうが高樹は見えるし声や音も聞こえるのだ。
ポルターガイストはうるさいっていう話だしな……。
お化けと化生の両方を退治すれば高樹の母親は安く借りられて助かるだろうが、問題は――。
「化生はともかくお化けはどうすれば退治出来るんだ?」
俺は祖母ちゃんに訊ねた。
俺達はお化け退治はしたことがない。方法も知らない。
「さぁ?」
祖母ちゃんが首を傾げる。
祖母ちゃんが知らないなら――。
「白狐に聞くしかないのか?」
白狐というのは祖母ちゃんよりも長く生きていて物知りだから俺達は困った時はいつも彼に知恵を借りていた。
祖母ちゃんと同じく新宿に話が残っている狐なのだ。
「なら今日のところは化生だけ退治して……」
「孝司、ホントにこのマンションなの?」
祖母ちゃんが高樹の言葉を遮って訊ねてきた。
「頼母が間違ってるんじゃないならそうだ」
「化生の気配ないわよ」
「えっ!?」
「そもそもこの辺で化生が悪さしてるって話は聞いてないし」
「ええっ!?」
そういう事はもっと早く言え、と言いたかったが祖母ちゃんがそう言っていたとしても高樹、というか高樹の母親が危険な目に遭わないか確かめるために来ないわけにはいかなかっただろうが。
高樹だってそれなりに腕に覚えがあるとは言っても一人の時に不意を突かれたら負ける可能性があるのだ。
「孝司」
秀が俺の肩を突いた。
振り返った俺は秀の視線の先を見て、
「ぎゃぁ……!」
再度悲鳴を上げそうになって秀に口を塞がれた。
話し込んでいる間にお化けがすぐ側に来ていたのだ。
「しー!」
秀が自分の口の前に人差し指を立てる。
なんでお前は平気なんだよ……!
俺は秀を睨みながら祖母ちゃんの後ろに隠れた。
高樹は俺に呆れたような視線を向けた後、
「なんか用か?」
とお化けに訊ねた。
なんでお前も平気なんだよ……!
「って、お前、人間の言葉話せるか?」
高樹が平然とした様子でお化けに質問した。
「人間だから」
違うだろ……!
と突っ込みたかったが怖かったので黙っていた。
「なら用件を聞こう」
「ここに何の用?」
お化けが俺達に訊ねた。
それはこっちの台詞だ……!
と、俺は言い返した。心の中で。
「この部屋で行方不明者が出たって聞いたんだが」
「行方不明? 誰が?」
「しばらく前にこの部屋に内見に来た不動産会社の社員と客が」
高樹の返答にお化けが首を傾げた。
その様子に俺達は視線を交わした。
「人がここで行方不明になったことは?」
「夜逃げとか?」
「いや、化生に喰われたとかだ」
もしくはお化けに喰われたとか……。
俺は心の中で付け加えた。
「けしょう?」
「妖怪っていうか……人間じゃないけど幽霊でもない何かって言うか……」
秀が説明した。
「ここには人間しか住んでないけど……」
お化けもいるだろ……。
と、心の中で突っ込む。
とはいえ祖母ちゃんも噂を聞いてないし気配もしないと言っている。
となると本当に化生はいないのかもしれない。
このお化けは今「夜逃げ」と言った。
もしかしたら夜逃げで姿をくらました人間がいるのかもしれない。
ただそれだと内見でいなくなった不動産会社の社員はなんなんだという事になってしまうが。
今勤めている社員が同僚が失踪したというのなら噂や勘違いではないはずだ。
それとも、入社前の噂を聞いて勘違いしたとか?
あるいは先輩社員に一杯食わされているだけとか……。
雪桜が疑問を口にする。
「オレは聞いてない」
「内見っていつ?」
秀が頼母に訊ねる。
「明日だ」
頼母が答えた。
「えっ!?」
俺は思わず声を上げたが、考えてみたら高樹の母は看護師なのだ。
休みが土日とは限らない。
「じゃあ、今夜行かないとダメだよな」
俺が言った。
万一予定が前倒しになって予定より早くいってしまったら大変だ。
俺達は今夜行くことにした。
雪桜は女の子だからと言うのもあるが全く見えないし聞こえないので化生退治には同行しない。
というかさせないようにしている。
見聞き出来ないのでは攻撃されたとき避けられないからだ。
その夜、俺達四人は頼母から聞いたマンションにやってきた。
俺、秀、高樹、祖母ちゃんである。
マンションだから出来れば昼間、住人のような顔で入ってきたかったのだが……。
夜間に他所のマンションの中をうろついていたなどと言う理由で通報されて捕まったりしたら困る。
人気のないマンションの廊下は静まりかえっていて何の音もしない。
口を開いたらマンション中に響き渡ってしまいそうだった。
俺は黙ってスマホ画面に目を落として部屋番号を確認する。
目的の部屋を目指して廊下を進んでいく。
部屋の側まで行った時、突然誰もいなかった廊下に白い人影が現れた。
「ぎゃぁ……!」
悲鳴を上げかけた俺の口を秀が慌てて手で塞いだ。
「しー!」
秀が小声で窘める。
俺は震えながら白いものを指した。
化生は平気だがお化けは怖い。
廊下の先は突き当たりで階段などもないからアレは何もないところから現れたのだ。
間違いなくお化けだ。
「ただの幽霊よ」
祖母ちゃんが平然と言った。
「有料のお化けがいるのかよ!」
俺が小声で反論する。
「お化け屋敷とか」
「それは仮装した人間だろ!」
「お化け屋敷にいるのは人間だけじゃな……」
「よせ! お化け屋敷に入れなくなるだろ!」
「そんな事はどうでもいいだろ」
高樹が俺と祖母ちゃんの間に割って入った。
「そうだった。あれが人を誘拐してるのか?」
俺は祖母ちゃんに訊ねた。
「違うわよ」
「じゃあ、化生とは別にお化けまでいるのか? だからセット割で家賃が安いとか?」
俺がそう言うと高樹が嫌な顔をした。
家賃が安いという理由でお化けと化生が取り憑いている部屋には住みたくないだろう。
お化けや化生が見えない普通の人間にとっては家賃が安い部屋は掘り出し物だろうが高樹は見えるし声や音も聞こえるのだ。
ポルターガイストはうるさいっていう話だしな……。
お化けと化生の両方を退治すれば高樹の母親は安く借りられて助かるだろうが、問題は――。
「化生はともかくお化けはどうすれば退治出来るんだ?」
俺は祖母ちゃんに訊ねた。
俺達はお化け退治はしたことがない。方法も知らない。
「さぁ?」
祖母ちゃんが首を傾げる。
祖母ちゃんが知らないなら――。
「白狐に聞くしかないのか?」
白狐というのは祖母ちゃんよりも長く生きていて物知りだから俺達は困った時はいつも彼に知恵を借りていた。
祖母ちゃんと同じく新宿に話が残っている狐なのだ。
「なら今日のところは化生だけ退治して……」
「孝司、ホントにこのマンションなの?」
祖母ちゃんが高樹の言葉を遮って訊ねてきた。
「頼母が間違ってるんじゃないならそうだ」
「化生の気配ないわよ」
「えっ!?」
「そもそもこの辺で化生が悪さしてるって話は聞いてないし」
「ええっ!?」
そういう事はもっと早く言え、と言いたかったが祖母ちゃんがそう言っていたとしても高樹、というか高樹の母親が危険な目に遭わないか確かめるために来ないわけにはいかなかっただろうが。
高樹だってそれなりに腕に覚えがあるとは言っても一人の時に不意を突かれたら負ける可能性があるのだ。
「孝司」
秀が俺の肩を突いた。
振り返った俺は秀の視線の先を見て、
「ぎゃぁ……!」
再度悲鳴を上げそうになって秀に口を塞がれた。
話し込んでいる間にお化けがすぐ側に来ていたのだ。
「しー!」
秀が自分の口の前に人差し指を立てる。
なんでお前は平気なんだよ……!
俺は秀を睨みながら祖母ちゃんの後ろに隠れた。
高樹は俺に呆れたような視線を向けた後、
「なんか用か?」
とお化けに訊ねた。
なんでお前も平気なんだよ……!
「って、お前、人間の言葉話せるか?」
高樹が平然とした様子でお化けに質問した。
「人間だから」
違うだろ……!
と突っ込みたかったが怖かったので黙っていた。
「なら用件を聞こう」
「ここに何の用?」
お化けが俺達に訊ねた。
それはこっちの台詞だ……!
と、俺は言い返した。心の中で。
「この部屋で行方不明者が出たって聞いたんだが」
「行方不明? 誰が?」
「しばらく前にこの部屋に内見に来た不動産会社の社員と客が」
高樹の返答にお化けが首を傾げた。
その様子に俺達は視線を交わした。
「人がここで行方不明になったことは?」
「夜逃げとか?」
「いや、化生に喰われたとかだ」
もしくはお化けに喰われたとか……。
俺は心の中で付け加えた。
「けしょう?」
「妖怪っていうか……人間じゃないけど幽霊でもない何かって言うか……」
秀が説明した。
「ここには人間しか住んでないけど……」
お化けもいるだろ……。
と、心の中で突っ込む。
とはいえ祖母ちゃんも噂を聞いてないし気配もしないと言っている。
となると本当に化生はいないのかもしれない。
このお化けは今「夜逃げ」と言った。
もしかしたら夜逃げで姿をくらました人間がいるのかもしれない。
ただそれだと内見でいなくなった不動産会社の社員はなんなんだという事になってしまうが。
今勤めている社員が同僚が失踪したというのなら噂や勘違いではないはずだ。
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