40 / 51
第八章 白雨
第八章 第四話
しおりを挟む
家宅捜索が終わる頃、課長からの指示で紘彬は如月と共に江戸川区の派出所に向かった。
紘彬と如月が派出所に入っていくと記者が椅子に座らされていた。
「何か用か?」
「住民から不審者がうろついているという通報がありまして、この男が民家の敷地内に侵入しているのを見付けたので……」
不法侵入で捕まったらしい。
「この男によると警部補からその辺りで闇サイトの捜査があると聞いたそうです」
「俺はそんなこと言ってない」
紘彬が涼しい顔で答える。
「嘘だ!」
「俺、お前に面と向かってそんなこと言ったか? 証拠の音声記録でもあるのか? 俺、お前の前で捜査の話したことないぞ」
「そ、それは……」
記者が後ろめたそうな表情で言葉に詰まる。
「闇サイト絡みは警視庁の担当だし、捜査協力にしても、ここなら江戸川区の警察署に依頼するはずだろ。新宿の警察官が江戸川区に来るかよ」
紘彬の言葉に記者が「あっ!」という表情を浮かべた。
「そういうわけで不審者の件は関係ないけど、忘れ物届けに来てやったぞ」
紘彬は人の悪い笑みを浮かべて自分のポケットからスマホを取り出した。
「気付いて……!」
驚いて立ち上がりかけた記者の胸ポケットにスマホを入れる。
「この時間に連絡が来たって事は一日中住宅街を歩き回ってたって事か。ご苦労だったな」
にこやかな顔で記者の肩を叩く。
なるほど……。
おそらく今ポケットに入れたスマホは記者がもう一台のスマホと通話中の状態で警察署のどこかに置いておいたのだ。
そして手元のスマホで警察署内での会話を盗み聞きしていたのだろう。
スマホならバレても『落とした』『置き忘れた』で通す事が出来る。
記者のスマホに気付いた紘彬が家宅捜索の邪魔をされないように、ここで捜査があると誤解するような事を言ったのだろう。
まんまと一杯食わされたのだ。
記者が悔しそうな表情を浮かべている。
「警部補、面倒をよその管轄に持ち込まないで下さい」
巡査が紘彬を睨んだ。
「知り合いの警察官が多いとこだと顔合わせる度に文句言われるだろ。そんなの御免だからな」
紘彬は飄々とした表情で答えた。
ひでぇ……。
巡査達の表情がそう言っていた。
「警部補、この男は……」
「捕まえたのはお前達だろ。うちの管轄じゃ事件起こしてないから俺達関係ない」
巡査達が恨めしげな顔で紘彬を見る。
「用もないのに一日中住宅街ほっつき回ってたんだろ。たっぷり油絞っとけ」
説教まで押し付けられた巡査がげんなりした表情で肩を落とす。
「スマホのデータも含めて所持品検査はしっかりやっとけよ。逮捕の証拠になるもの持ってると思うぞ」
紘彬は後ろ手に手を振ると派出所を後にした。
「桜井さん、ここの管轄の警察官に恨まれますよ」
「だからわざわざこんな離れた場所選んだんだろ。こんだけ遠けりゃ顔を合わせる機会はまず無いからな」
可哀想に……。
如月は巡査達に同情した。
職質と説教の労力がチャラになるような物が出てくれば良いけど……。
「あいつ、盗撮が趣味らしいからな」
「えっ!? ホントですか!?」
如月が驚いて顔を上げた。
「あいつが置いていったスマホで写真データ見たんだ」
〝スマホのデータ〟
そういう事か……。
「昨日は逮捕出来るようなものは無かったが不法侵入で捕まったなら着替え中の女性の盗撮でもしてたのかもな」
「自分はてっきりナイフか何かで銃刀法違反かと……」
「ああ、その線もあるか。不法侵入に盗撮、武器の違法所持となれば十分な逮捕理由になるな。それで家宅捜索となればもっと色々出てくるだろうし」
誰でも叩けば埃は出る。
まして取材と称して違法な物を入手し、許可を得ずに所有していれば更に罪状が増えるだろう。
「ここの管轄署もあいつの記事で捜査が台無しになったことがあるからな。徹底的にやられると思うぞ」
紘彬が小鳥を捕まえた直後の猫のような、してやったりという笑みを浮かべる。
ここを選んだのは遠いってだけじゃなかったのか……。
どうやらあの記者に捜査を妨害されて恨んでいる警察署の管轄に誘き出したようだ。
逮捕とまではいかなくてもこれに懲りて少しは捜査の邪魔にならないようになってくれればいいんだけど……。
「昨日捕まえた奴らの中に田中政夫の事件の実行犯いた?」
朝の捜査会議で紘彬が訊ねた。
「取調はこれからだから分からんな」
「この件も警視庁の管轄になんの?」
「広域強盗ならそうだ。だが管轄がうちの事件の証拠も色々あったからな」
団藤はそう言って捜査の割り振りをした。
紘彬と如月が聞き込みに出掛けようとすると団藤に呼び止められた。
「田中尚子の事件だが捜査して構わないそうだ。こっちも忙しいから遣るなら空き時間にやってくれ」
「了解」
昼休み、紘彬と如月は刑事部屋で昼飯を食べていた。
TV画面に、
〝闇サイト強盗のアジト捜索!〟
というニュースが流れた。
画面に映っているのは昨日捜索したビルである。
「強盗の証拠が出てきたのか?」
紘彬が団藤に訊ねた。
「まだだが小林次郎との繋がりは見付かった」
小林次郎の持っていたデータには闇サイトの情報があったから、小林と繋がっていたなら闇サイトだった可能性は高い。
ただ小林は特殊詐欺の指示役だったようだから、小林との繋がりだけでは強盗をしていた証拠にはならない。
「例のキーホルダーを持ってるヤツは逮捕者の中にはいなかったんスよ」
「ふぅん」
紘彬は「また出任せか」と言いたげな表情でTV画面に目をやった。
紘彬と如月が派出所に入っていくと記者が椅子に座らされていた。
「何か用か?」
「住民から不審者がうろついているという通報がありまして、この男が民家の敷地内に侵入しているのを見付けたので……」
不法侵入で捕まったらしい。
「この男によると警部補からその辺りで闇サイトの捜査があると聞いたそうです」
「俺はそんなこと言ってない」
紘彬が涼しい顔で答える。
「嘘だ!」
「俺、お前に面と向かってそんなこと言ったか? 証拠の音声記録でもあるのか? 俺、お前の前で捜査の話したことないぞ」
「そ、それは……」
記者が後ろめたそうな表情で言葉に詰まる。
「闇サイト絡みは警視庁の担当だし、捜査協力にしても、ここなら江戸川区の警察署に依頼するはずだろ。新宿の警察官が江戸川区に来るかよ」
紘彬の言葉に記者が「あっ!」という表情を浮かべた。
「そういうわけで不審者の件は関係ないけど、忘れ物届けに来てやったぞ」
紘彬は人の悪い笑みを浮かべて自分のポケットからスマホを取り出した。
「気付いて……!」
驚いて立ち上がりかけた記者の胸ポケットにスマホを入れる。
「この時間に連絡が来たって事は一日中住宅街を歩き回ってたって事か。ご苦労だったな」
にこやかな顔で記者の肩を叩く。
なるほど……。
おそらく今ポケットに入れたスマホは記者がもう一台のスマホと通話中の状態で警察署のどこかに置いておいたのだ。
そして手元のスマホで警察署内での会話を盗み聞きしていたのだろう。
スマホならバレても『落とした』『置き忘れた』で通す事が出来る。
記者のスマホに気付いた紘彬が家宅捜索の邪魔をされないように、ここで捜査があると誤解するような事を言ったのだろう。
まんまと一杯食わされたのだ。
記者が悔しそうな表情を浮かべている。
「警部補、面倒をよその管轄に持ち込まないで下さい」
巡査が紘彬を睨んだ。
「知り合いの警察官が多いとこだと顔合わせる度に文句言われるだろ。そんなの御免だからな」
紘彬は飄々とした表情で答えた。
ひでぇ……。
巡査達の表情がそう言っていた。
「警部補、この男は……」
「捕まえたのはお前達だろ。うちの管轄じゃ事件起こしてないから俺達関係ない」
巡査達が恨めしげな顔で紘彬を見る。
「用もないのに一日中住宅街ほっつき回ってたんだろ。たっぷり油絞っとけ」
説教まで押し付けられた巡査がげんなりした表情で肩を落とす。
「スマホのデータも含めて所持品検査はしっかりやっとけよ。逮捕の証拠になるもの持ってると思うぞ」
紘彬は後ろ手に手を振ると派出所を後にした。
「桜井さん、ここの管轄の警察官に恨まれますよ」
「だからわざわざこんな離れた場所選んだんだろ。こんだけ遠けりゃ顔を合わせる機会はまず無いからな」
可哀想に……。
如月は巡査達に同情した。
職質と説教の労力がチャラになるような物が出てくれば良いけど……。
「あいつ、盗撮が趣味らしいからな」
「えっ!? ホントですか!?」
如月が驚いて顔を上げた。
「あいつが置いていったスマホで写真データ見たんだ」
〝スマホのデータ〟
そういう事か……。
「昨日は逮捕出来るようなものは無かったが不法侵入で捕まったなら着替え中の女性の盗撮でもしてたのかもな」
「自分はてっきりナイフか何かで銃刀法違反かと……」
「ああ、その線もあるか。不法侵入に盗撮、武器の違法所持となれば十分な逮捕理由になるな。それで家宅捜索となればもっと色々出てくるだろうし」
誰でも叩けば埃は出る。
まして取材と称して違法な物を入手し、許可を得ずに所有していれば更に罪状が増えるだろう。
「ここの管轄署もあいつの記事で捜査が台無しになったことがあるからな。徹底的にやられると思うぞ」
紘彬が小鳥を捕まえた直後の猫のような、してやったりという笑みを浮かべる。
ここを選んだのは遠いってだけじゃなかったのか……。
どうやらあの記者に捜査を妨害されて恨んでいる警察署の管轄に誘き出したようだ。
逮捕とまではいかなくてもこれに懲りて少しは捜査の邪魔にならないようになってくれればいいんだけど……。
「昨日捕まえた奴らの中に田中政夫の事件の実行犯いた?」
朝の捜査会議で紘彬が訊ねた。
「取調はこれからだから分からんな」
「この件も警視庁の管轄になんの?」
「広域強盗ならそうだ。だが管轄がうちの事件の証拠も色々あったからな」
団藤はそう言って捜査の割り振りをした。
紘彬と如月が聞き込みに出掛けようとすると団藤に呼び止められた。
「田中尚子の事件だが捜査して構わないそうだ。こっちも忙しいから遣るなら空き時間にやってくれ」
「了解」
昼休み、紘彬と如月は刑事部屋で昼飯を食べていた。
TV画面に、
〝闇サイト強盗のアジト捜索!〟
というニュースが流れた。
画面に映っているのは昨日捜索したビルである。
「強盗の証拠が出てきたのか?」
紘彬が団藤に訊ねた。
「まだだが小林次郎との繋がりは見付かった」
小林次郎の持っていたデータには闇サイトの情報があったから、小林と繋がっていたなら闇サイトだった可能性は高い。
ただ小林は特殊詐欺の指示役だったようだから、小林との繋がりだけでは強盗をしていた証拠にはならない。
「例のキーホルダーを持ってるヤツは逮捕者の中にはいなかったんスよ」
「ふぅん」
紘彬は「また出任せか」と言いたげな表情でTV画面に目をやった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
警狼ゲーム
如月いさみ
ミステリー
東大路将はIT業界に憧れながらも警察官の道へ入ることになり、警察学校へいくことになった。しかし、現在の警察はある組織からの人間に密かに浸食されており、その歯止めとして警察学校でその組織からの人間を更迭するために人狼ゲームを通してその人物を炙り出す計画が持ち上がっており、その実行に巻き込まれる。
警察と組織からの狼とが繰り広げる人狼ゲーム。それに翻弄されながら東大路将は狼を見抜くが……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる