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第七章 霖雨
第七章 第五話
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報告書を書いていて午前中が潰れた紘彬と如月、それに団藤と上田、飯田、佐久が刑事部屋で昼食を食べていた。
「今日も元気に警察叩いてますね~」
飯田が言った。
TV画面に
〝またも闇サイト強盗! 警察は黒幕の手懸かり掴めず〟
というテロップが出ている。
「あれ? この現場、近所じゃないっスか?」
中継を見ていた佐久が言った。
「さっき桜井達が犯人を取り押さえた現場だ」
団藤が答えた。
「お手柄ッスね!」
「俺は逮捕してない」
紘彬が答えた。
逮捕はね……。
如月が心の中で突っ込んだ。
「被害者は無事だったんですか?」
飯田が訊ねた。
「まだ息はあるとのことだが……おそらく助からないだろうと言われたらしい」
団藤が答える。
「死ななくても強盗罪なんて重いのに被害者が亡くなったら下手したら死刑だろ。現行犯逮捕だから言い逃れも出来ないんだし」
「実際、闇サイト強盗で死刑になった人いますからね」
「そうなのか?」
紘彬が訊ねる。
「既に死刑執行された人いますよ。他にも未だ執行はされてませんが死刑が確定してる者もいますし」
「バイトなんて言うくらいだから報酬は端金だろ。それで人生棒に振るなんてな」
TVでは警察の対応への批判が続いていた。
「叩かれても給料もらえるだけ闇バイトよりはマシなのか」
「命懸けで凶悪犯逮捕する警察叩くだけで給料もらえる仕事は更にマシっスね」
「ホントだ! 俺も記者になれば良かった!」
紘彬が残念そうに指を鳴らした。
そこは医者では……。
医学部出てるのに……。
如月は呆れた視線を向けた。
「げ、まさか、うちを突き止めたのか!?」
紘彬の言葉に如月が目を向けると、紘一の家の近くで蒼治と例の記者が何か話していた。
というか逃げるように歩いている蒼治に記者が追い縋っている。
「蒼治」
紘彬が声を掛けると蒼治と記者が振り返った。
「紘兄、如月さん」
蒼治が紘彬を見て安心した表情を浮かべた。
「どうした?」
「この人が事件の事しつこく訊いてきて」
「あれ、お二人はお知り合いですか?」
記者が食い付いてくる。
「蒼治が嫌がってるなら帰れ」
「国家権力で国民の知る権利を妨害する気ですか? 言論弾圧じゃないですかね。報道の自由って知ってます?」
「知る権利や報道の自由は他人の自由を侵害していい権利じゃない」
「自由を侵害したり……」
「してるだろ。蒼治の帰宅を邪魔してる。蒼治、迷惑なら通報していいぞ。目の前に警察官がいるんだからな。訴えが出たらすぐに捕まえてやるぞ」
「家や学校、通学路での付き纏いや待ち伏せはストーカー規制法の対象だし、禁止命令を出してもらえば近くをうろつくのも禁止になるよ」
如月がそう付け加えた。
「ネットに個人を特定出来るような情報や誹謗中傷を書き込まれたらそれもストーカー規制法に違反することになるからな。遠慮なく被害届出せよ。勤務先知ってるから禁止命令はすぐ出せるぞ」
紘彬がそう言って自分の内ポケットから記者の名刺を取り出した。
それを見た記者が渋々蒼治から離れた。
「元々警察がさっさと犯人を捕まえないから彼が被害者になったんでしょう。今日だってまた被害者が出たそうじゃないか」
歩き出そうとしていた蒼治の足が止まった。
「ああ、そういえばお前の記事で家宅捜索が事前に知られて指示役を逃したんだったな」
「記事のせいで犯人を取り逃すことになったのか!? なんで捜査の邪魔してるやつ野放しにしてるんだよ!」
「警察の手抜かりを人のせいにしないで欲しいなぁ」
「お前、よくも……!」
記者に殴り掛かろうとした蒼治の肩を紘彬が掴んで止めた。
「確かにこいつに知られたのはこっちの落ち度だ」
「けど、こいつのせいでまた被害者が出たって……」
「いいから、お前は帰れ」
紘彬が促すと蒼治は悔しそうな表情を浮かべながらも帰っていった。
蒼治の背中を見送っていた紘彬は、その姿が見えなくなると記者に向き直った。
「お前の給料がいくらなのかは知らんが、人の命に見合う金額なのか?」
「え?」
「今日の被害者、病院で亡くなったそうだぞ。あの日、指示役を捕まえることが出来ていれば死なずに済んだ人だ」
「言い掛かりはやめてくれませんかねぇ。警察の失態……」
「今日、逮捕した被疑者が取調で言ったんだよ。あの家、ホントはあの日に押し入るはずだったけど指示役が急いで逃げなきゃいけなくなったから今日に延期したって」
如月が答えた。
「あの日、指示役を逮捕出来ていれば今日の犯行はなかったんだよ」
「あの記事や続報、随分細かいところまで書いてあったな」
ネットでの実行犯の集め方やアポ電での聞き出し方、被害者の見付け方など手口までかなり詳細だった。
「あれじゃ模倣犯が出るかもしれないよ。闇サイト強盗だけじゃなくて模倣犯による犠牲者まで出るかもしれないんだ」
「真似だろうとなんだろうと悪いのはやるほうじゃないですか」
「犠牲者の遺族にも面と向かってそう言えるのか?」
紘彬の言葉に記者が答えに詰まる。
「あの記事に人の命を犠牲にするほどの価値があったのか? 本当に誰もが知る必要のある情報だったのか?」
紘彬はそう言うと記者の返事を待たずに紘一の家に入った。
「今日も元気に警察叩いてますね~」
飯田が言った。
TV画面に
〝またも闇サイト強盗! 警察は黒幕の手懸かり掴めず〟
というテロップが出ている。
「あれ? この現場、近所じゃないっスか?」
中継を見ていた佐久が言った。
「さっき桜井達が犯人を取り押さえた現場だ」
団藤が答えた。
「お手柄ッスね!」
「俺は逮捕してない」
紘彬が答えた。
逮捕はね……。
如月が心の中で突っ込んだ。
「被害者は無事だったんですか?」
飯田が訊ねた。
「まだ息はあるとのことだが……おそらく助からないだろうと言われたらしい」
団藤が答える。
「死ななくても強盗罪なんて重いのに被害者が亡くなったら下手したら死刑だろ。現行犯逮捕だから言い逃れも出来ないんだし」
「実際、闇サイト強盗で死刑になった人いますからね」
「そうなのか?」
紘彬が訊ねる。
「既に死刑執行された人いますよ。他にも未だ執行はされてませんが死刑が確定してる者もいますし」
「バイトなんて言うくらいだから報酬は端金だろ。それで人生棒に振るなんてな」
TVでは警察の対応への批判が続いていた。
「叩かれても給料もらえるだけ闇バイトよりはマシなのか」
「命懸けで凶悪犯逮捕する警察叩くだけで給料もらえる仕事は更にマシっスね」
「ホントだ! 俺も記者になれば良かった!」
紘彬が残念そうに指を鳴らした。
そこは医者では……。
医学部出てるのに……。
如月は呆れた視線を向けた。
「げ、まさか、うちを突き止めたのか!?」
紘彬の言葉に如月が目を向けると、紘一の家の近くで蒼治と例の記者が何か話していた。
というか逃げるように歩いている蒼治に記者が追い縋っている。
「蒼治」
紘彬が声を掛けると蒼治と記者が振り返った。
「紘兄、如月さん」
蒼治が紘彬を見て安心した表情を浮かべた。
「どうした?」
「この人が事件の事しつこく訊いてきて」
「あれ、お二人はお知り合いですか?」
記者が食い付いてくる。
「蒼治が嫌がってるなら帰れ」
「国家権力で国民の知る権利を妨害する気ですか? 言論弾圧じゃないですかね。報道の自由って知ってます?」
「知る権利や報道の自由は他人の自由を侵害していい権利じゃない」
「自由を侵害したり……」
「してるだろ。蒼治の帰宅を邪魔してる。蒼治、迷惑なら通報していいぞ。目の前に警察官がいるんだからな。訴えが出たらすぐに捕まえてやるぞ」
「家や学校、通学路での付き纏いや待ち伏せはストーカー規制法の対象だし、禁止命令を出してもらえば近くをうろつくのも禁止になるよ」
如月がそう付け加えた。
「ネットに個人を特定出来るような情報や誹謗中傷を書き込まれたらそれもストーカー規制法に違反することになるからな。遠慮なく被害届出せよ。勤務先知ってるから禁止命令はすぐ出せるぞ」
紘彬がそう言って自分の内ポケットから記者の名刺を取り出した。
それを見た記者が渋々蒼治から離れた。
「元々警察がさっさと犯人を捕まえないから彼が被害者になったんでしょう。今日だってまた被害者が出たそうじゃないか」
歩き出そうとしていた蒼治の足が止まった。
「ああ、そういえばお前の記事で家宅捜索が事前に知られて指示役を逃したんだったな」
「記事のせいで犯人を取り逃すことになったのか!? なんで捜査の邪魔してるやつ野放しにしてるんだよ!」
「警察の手抜かりを人のせいにしないで欲しいなぁ」
「お前、よくも……!」
記者に殴り掛かろうとした蒼治の肩を紘彬が掴んで止めた。
「確かにこいつに知られたのはこっちの落ち度だ」
「けど、こいつのせいでまた被害者が出たって……」
「いいから、お前は帰れ」
紘彬が促すと蒼治は悔しそうな表情を浮かべながらも帰っていった。
蒼治の背中を見送っていた紘彬は、その姿が見えなくなると記者に向き直った。
「お前の給料がいくらなのかは知らんが、人の命に見合う金額なのか?」
「え?」
「今日の被害者、病院で亡くなったそうだぞ。あの日、指示役を捕まえることが出来ていれば死なずに済んだ人だ」
「言い掛かりはやめてくれませんかねぇ。警察の失態……」
「今日、逮捕した被疑者が取調で言ったんだよ。あの家、ホントはあの日に押し入るはずだったけど指示役が急いで逃げなきゃいけなくなったから今日に延期したって」
如月が答えた。
「あの日、指示役を逮捕出来ていれば今日の犯行はなかったんだよ」
「あの記事や続報、随分細かいところまで書いてあったな」
ネットでの実行犯の集め方やアポ電での聞き出し方、被害者の見付け方など手口までかなり詳細だった。
「あれじゃ模倣犯が出るかもしれないよ。闇サイト強盗だけじゃなくて模倣犯による犠牲者まで出るかもしれないんだ」
「真似だろうとなんだろうと悪いのはやるほうじゃないですか」
「犠牲者の遺族にも面と向かってそう言えるのか?」
紘彬の言葉に記者が答えに詰まる。
「あの記事に人の命を犠牲にするほどの価値があったのか? 本当に誰もが知る必要のある情報だったのか?」
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